19日
水曜日
でぶ、でぶ、シィア・カーンでぶ
「えい、このでぶ虎め!」(モーグリ)誰も知らないって、こんなネタ。朝7時起床だが、例により4時半ころ目が覚めてしまう。ずっと家にこもって仕事していると、脳内に興奮物質が分泌されて、それが残って早く目が覚めてしまうのではないかと思う。ここんとこ連日でヘンな夢を見続けているのもそのせいでは。今日はやはりウトウト時に、短い夢を立続けに見た。覚えている中で変てこなのは、山本夏彦にインタビューしていたら、いつの間にか相手がゲルト・フレーベに変身している、というもの。この人選が。朝食、ソーセージとトースト、マーマレードつけて。あとグレープフルーツ(ルビー)。
昨日の日記でつけ忘れたこと。テレコムから書影用の本が帰ってくる。届けてくれた女性、前夜はなみきたかしのところへ行っていたそうだ。今回ネタにする本が昭和11年発行なので、その当時の資料フィルムを借り出すため(なみきは杉本五郎氏の大日本フィルムの所蔵フィルムを受け継いでいる)だったのだが、カラサワさんの本のコーナーなんです、と言ったら、ナンダ、カラサワくんとボクとは親友ナンダヨ、と大いにフいたそうな。アイツが自分のホームページに“世田谷一家惨殺事件の犯人はなみきたかしだ”と書いたんで、警察につけねらわれて困ってるんだ、とも言っていたとか。フくフく。で、“アイツの顔が画面に映ったら、下に「なみきたかし」ってテロップ入れといてよ”で〆たそうな。相変わらずのテンションである。
某社の緊急企画本のネタを、原稿用紙5枚ほどの長さに書く。いろいろ人と世間のしがらみで、一冊、緊急(2月まで)に出さねばならぬ本が出来てしまったので、その材料(もちろん一から書きはじめていてはマニアワヌので、材料がノートに揃っているものを抜き書きするような本であるが)を並べて、編集部にメール。ネタそのものはもう何年も前から熟成させているものなのだが、果してどういう結果になるか。
それが長引いてメシが食えず。1時15分に家を出て、井の頭線で西永福町佐々木歯科へ。11月に一回うっかり予定をスッポかしてしまってから、今日まで行かないでいた。下の両奥歯二本づつを治療。隣の席で治療していた女の子、頭のよさそうな感じの子だったが、治療が痛かったとみえて、いきなり火がついたように泣き出す。こちらがビックリするほどの大声だった。私の歯茎がちょっと腫れているのを見て先生、看護婦さんに“体調の疲れが歯茎に出ているね”と。目や肩というのは聞いたことがあったが、歯茎に疲れが出るとは知らなんだ。今回はうがい薬なども貰って代金一万円、来月は四本、歯を入れて20数万円! 歯治って首くくり、てなことにならぬようがんばらねば。
とにかく、四本一度に治すので、2時間以上かかってしまう。帰宅したら、講談社Wくんが廊下にポツンと立っていた。今日は単行本(『裏モノ見聞録・2』。タイトルは私の方で『怪網倶楽部』とした)の表紙用の資料写真(つまり私の顔)の撮影。能美勉さんがレトロ調で私の顔を描いてくださる、そのモデルを勤める。30分ほどで、デジカメの電池を使い切った。撮影中に某社から電話。例の本の企画。
「面白いじゃないですか! 行きましょう!」
と電話口で第一声。うわあ、気に入られちゃったよ。年末までに一冊。できるのかね、ホントに。
井の頭線の中で、トーハンから届いた『新刊ニュース』を読む。こないだ送った、『2001年印象に残った本』のアンケート結果が載っているやつだが、冒頭に『赤目四十八瀧心中未遂』の車谷長吉氏の新刊に関するエッセイが載っている。三島賞を貰って以来、『日本紳士録』にあなたの名前と経歴を載せたいと毎年しつこく言ってくるが、私は紳士などではない、ただの無能者(ならずもの。夏目漱石の当て字)である、だいたい文士などというものは本来みな無能者である、文士が紳士録などというものに名を連ねているのはおぞましい。あれは『日本俗物録』である……と、例によって究極のヘソ曲りぶりを発揮した文章。強迫神経症という持病があって、世の中ときちんと折り合いをつけて暮らしていくことが出来ない人なのだが、そのことが逆に、彼に最近の職業作家とは比べ物にならぬ“文士”の面影を残させているのが皮肉である。確か直木賞を受賞したその手記の中でも、“誰某は受賞祝いと称してわが家の台所ではとてもおろせぬ大鯛を送ってきて困り果て、魚屋に金を払っておろさせたら腐っていた”とか(もちろん、誰某は実名である)、“新潮社は普段はわが社こそ日本文芸界の第一人者だといばっているくせに、文藝春秋の賞を私がとると、それに便乗して自分の社の本も増刷して儲けようとする”などと書く人である。友人にはしたくないが、しかしこういう人がいてくれなくては世の中は面白くないのである。
7時半、ルノアールにてせどり屋のU氏と会う。徳川夢声関係の新聞記事のコピー集めを依頼しているのである。5件ほど持って来てくれる。金を払おうとしたら、以前貰った予算の中でまだ間に合っているから、と言われた。真面目な人だなあ、と思う。最近は金がなくなったので古書市にはほとんどいかず、図書館ばかりだと言う。
8時半、新宿寿司処すがわら。ひさしぶりに鯛の潮煮を出してくれた。白身、アナゴ、ウニなど。つまみでタコ、マグロ。コハダ握りがうまくておかわりする。そう言えばこないだ死んだ江戸家猫八が、NHKの『イキのいい奴』という寿司屋のドラマにカメオで出て(この番組、寿司屋の客の役で、芸人やちょっと大物の俳優さんをカメオ出演させていた)、このコハダの握りを、紫もつけずにポイ、と口に放り込んでいた。その仕種が粋で何ともいえず、それ以来、私もコハダ寿司は何もつけずにそのまま食べるようになったものである。人間、いろんなところからいろんな影響を受けて自分の生活スタイルが出来ていく。黒ビール一本、熱燗一合、ヒレ酒一杯。