裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

木曜日

一郎さんの牧場でイーアイEIA

 環境アセスメントのうた。朝、7時半まで寝る。寝やすいベッドではなかったが、ああ、ここまでは編集部の電話がないんだ、と思うと実に安らかな眠り。もっと寝ていたかったのだが電話で“朝のお茶をお持ちします”と起こされる。お茶飲んで風呂に行く。睦月さんたちの一行も来る。朝風呂は熱く、肌に染みて実にいい気持。熱海あたりに風呂つきの仕事場を持ってみたいものだ。

 朝飯は昨日と同じ広間で。アジの干物が出るかと思ったが、カマスの干物。アジはたたきで出た。納豆、油揚げ(干物と同じく鉄板で焼く)、昨日のイセエビの頭を入れた味噌汁。他にもいろいろおかずがつくが、これのみで食べる。御飯は麦三分。旅館で麦飯というのもヘルシー傾向時代の産物か。朝ビール少し飲んで旅行気分を味わう。串間さんは以前、熱海の射的場取材に来て、そこが不定期営業のため、開くまで数日も熱海に泊まり込んだことがあったそうである。

 外は雨。しかも本降りである。支払いすませてマイクロを出してもらい、今回の旅の目的である熱海博物館村『ふしぎな町一丁目』に行く。談之助さんが一年ほど前に見つけてきて、ぜひ行きましょうとわれわれを誘っていたのである。博物館村、とはケッタイな名前であるが、要するに、あちこちの町にあった秘宝館やテーマパークのつぶれたのを買い取ってきて、展示しているところらしい。巨大なプレハブの建物の中に、二〇以上の展示コーナーがあり、お化け屋敷が二つ、メリーゴーラウンドがひとつ、すっぽり入っている。まず、入ってこのメリーゴーラウンドを見て仰天する。人が乗るのではなく、いくつものマネキンがそこに乗って回っているのだが、そのマネキンに見事なまでに脈絡がない。芸者とたわむれる温泉客、というのは熱海を意識しているのかもしれないが、その他にサンタクロース姿の女性あり、魔女あり、鞍馬天狗あり、ガイコツあり、妖精ありと、まるで統一感がない。それは、そこから展示内容に足を踏み入れるとなお一層感じられることで、あたかもこの博物館村のコンセプト自体が“脈絡がない”であるかのような感覚にとらわれる。案内マップによれば展示物は1・昭和30年代の町、2・神社、3・天神の社、4・謎の動物、5・お化け屋敷、6・謎の劇場、7・お座敷宴会、8・現代ファッション博物館、9・大東京観光、10・古代衣装、11・診療所風景、12・へこき部屋(?)、13・夜の学校、14・チューリップ横丁、15・人形の館、16・人形町本通、17・おたく横丁、18・珍獣、19・昆虫の世界、20・巨大獣、21・集会場(メリーゴーラウンド)、22・水掛け不動、23・吉本なにわ商店街……ということであるが、いずれの展示もいいかげんで、昭和30年代の家庭を再現した部屋の奥の火鉢の前には、何故かぬらりひょんが座っている。オタク横町というのが苦笑ものだが、オタクの部屋を再現した(たぶん宮崎事件のあたりにどこかで作られた展示だろう)部屋の、脇の展示ブースには、アンティークオモチャから韮沢フィギュアに至るまでがずらりと並べられていたり、凝っているんだかいいかげんなんだかさっぱりわからない。驚くのは巨大獣のブースで、体長三メートル以上もあるライオン同士の戦いの剥製をはじめ、どこから持ってきた、というようなさまざまな動物の剥製がずらり。

 見ているうちに陶然となり、何かいつまでもここにいたい、という気になってきてしまう。一般の秘宝館とはあきらかにその性質を異にした、何とも言いようのない感覚がフツフツと湧いてくる。そのうち、ハッと気がついた。ノスタルジーがあり、オタクがあり、エログロがあり、キッチュがあり、ときおり妙にアカデミックなものがあり。うわッと驚くレアものと、どうしようもないガラクタが並べて展示してあったり。……要するにこりゃ、私の嗜好の具現化なのだ。誰かが私の頭の中をのぞいて作り上げた、私の中の『20世紀博覧会』なのだ。……おお、『オトナ帝国の逆襲』が私個人レベルで実現してしまった!

 途中まできちんとメモをとって観察していた串間さんすら途中で呆れかえって、紙芝居の再現ビデオをながめていたくらいだったが、私はもう、感涙にむせびながら、会場内を回る。金をもっとためよう。ためて、このような施設を個人で所有しよう。人生の目的はソレだ、と決意する。オミヤゲ屋でどうしようもないようなものを買いあさり、あやさんたちに呆れられる。しかし、ここで買わいでか、という感じだ。

 外へ出ると、すでに雨もあがっている。ここの施設のマスコットキャラクターである“おばちゃん”の描かれたビニール傘も買ったのだが、濡らさずに持って帰れるのはラッキーである。ずっと流れていて、耳についてしまう、アドリブで歌っているとしか思えぬいい加減な歌詞のテーマソングもいい。次に来るときはビデオを持ってきて、館内くまなく記録に残そう、と開田さんと話す。
(テーマソングはここで聞ける。http://fushiginamachi.com/music.htm)

 帰り道が異なる安達さん、串間さん、睦月さんはここで別れる。われわれは、奥さんにおみやげの名物カツサンドを買ってくるという談之助さんにつきあい、帰りの小田急ロマンスカーの中でおすそわけしてもらい、昼飯にする。まい泉などのに比べ、肉が薄くて食べやすく、シャキシャキしたキャベツがまたいい。こっち出身の噺家さんに教わったとのことだが、これでまた、熱海に来る楽しみが増えた。

 新宿で別れ、帰宅。留守中の連絡いくつも。テレビ(テレ朝『ほんパラ! 痛快ゼミナール』)出演の件、SPA原稿チェック、それやこれや。SFマガジンやる。完成には至らず。8時半、花菜でK子と晩飯。アジてんぷら、野沢菜、豚とネギ煮込みなど。サービスで豚汁が出たので、ソバ食べずに帰宅。

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