裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

火曜日

カリエスの乙女たち

 定番・不治の病もの少女まんが。朝8時10分起床。札幌の実家にいると連邦警察局(FBIとではなく、そう言った)の係官が来て、通訳を通して、あなたを殺人容疑で調査します、と宣告される。私は昔、殺人を犯していて、とうとう来たか、と思うが、心の底ではまあ、あんな以前のこと、いくら調べられたってもうわかりゃしないさ、とタカをくくっている。それでも、気が動転して舌が痺れたようにもつれ、大工仕事をしていて釘を口に含み、唇を刺してしまったのでよくしゃべれない、と言いわけをする、という夢。自分が殺人犯で取り調べを受けるという夢は一年に数回は見る。実生活中のいろんなヤマシサが蓄積され、こういう形になって表れるのか。最後の唇の傷ウンヌンは今、口唇炎が右の唇に出来かけているためかもしれぬ。

 朝食、アボカドと梨。留守中に来たメール類を整理。志水一夫さんから連絡で、某社から『トンデモ創世記2000』文庫化の依頼が来たとのこと。売れた本だったのが出版元のトラブルで絶版扱いになっていたもので、文庫化はありがたい話である。

 1時まで、3時間かかって『クルー』コラム原稿2枚半、書き上げる。執筆に1時間半、資料調べに1時間半。まあまあか。急いでFAX、ついでに前回の掲載誌をこないだ送ってきたので、原稿料の請求書も書く。電話、なをきから。今日一時という話だったので東武ホテルで待っている、とのこと。朝、なをきの家に電話したのだが何べんかけても通じないので、編集プロダクションに、今日はキャンセルということで、と連絡してしまった。あちゃあ、と向こうでもうめく。とりあえず、二人でざっと打ち合わせをしよう、と言い、東武に出かける。スタジオDNAの人も来ていて、打ち合わせ。『唐沢商会のお蔵出し』的に、昔のエッセイや短編の単行本のコボレを拾っていこうという話。いろいろ記憶をたどって、アレもあったコレもあった、と思い出す。それに解説と書き下ろしを加えて来年の春先くらいに出版の予定。

 打ち合わせ終えて別れ、『舌郎』でランチ定食。店員の男の子が、黒田勇樹を二割程度安っぽくした顔の美少(?)年である。急いで帰宅、請求書発送の住所などを調べるがドタバタ。歯を磨いて、井の頭線で西永福の佐々木歯科。歯はすでに神経を抜いているのでいくらいじくられても痛くないが、ときどき、口唇炎に触れて、それが飛び上がるほど痛い。“以前とった型に歯科技工士さんから二点、問題点が指摘されました”などと説明してくれ、何か自分の口の中で壮大なプロジェクトが行われているような気になる。歯を削るとことか、盲腸の手術の様子とかをビデオに撮っておいてあとで本人にプレゼントするというサービスはないものだろうか。

 5時に終えて渋谷に帰り、西武地下で買い物をして出ると、もう外は真っ暗。日が短くなったなあ、と改めて思う。すでに来年の予定は半分以上埋まっているし、考えてみれば、今年もラストスパート時期なのである。テロ騒ぎの中で、こうしていつもの年とまったく同じに暮れていく日常もある。個人の日常の記録なんて意味のないものだとも思えるし、いや、だからこそ貴重なのだとも思えてくる。帰ると留守電に、サヨリさんから、トラッシュポップフェスティバルの監修費がおりるのに、もう二つほど書類にハンコをついてくれとの連絡。お役所なみだな。

 このサイトの、未発表原稿のコーナーがもうずっと更新していない。何がな掲載できる原稿は、と、データを探す。コレハと思うものはいずれ単行本に収録されるだろうし、短すぎたりネタが古すぎるものは掲載しても意味がない。なかなかないもんだなあ、と思う。『社会派くんが行く!』前書き・後書き・コラム部分チェック。

 9時半、タクシーで東新宿の幸永。フィンランド語終えたK子と待ち合わせだが、オドロいたことに、ガラガラ。新館の方など、一人も客がいない。やはり狂牛病のせいか。新メニューに鴨ロースだの鳥皮だのを入れて、牛離れをはかっているようである。おいおい、こないだは満員だったじゃないか。K子曰く“日本語を読むのに時間がかかる人たちがお客なのよ”って、ソレハヒドイ。国のあの安全宣言がいかにもわざとくさすぎて(“もともと”わが国の肉は安全でしたが、さらに念を入れて調査した結果、まったく安全とわかりました、などと発表されていた)、かえって疑心暗鬼を招いたかと思われる。客は旧店鋪に、私らを入れて4組のみ。後からやっとひと組入ってきた。コレハ危ない。ここがつぶれれば、もうあの極ホルモンも冷麺も食べられなくなっちまうのだ。私のこのサイトを見て幸永へ足を運んだ人も多いらしいが、諸君、今こそ幸永に足を運んでくれたまえ。ここで踏ん張らないと、日本の焼肉文化は滅びるぞ。まだ行ったことのない方々も、この機会に。今なら並ばずに入れるぞ。……まあ、ウィークデーで、たまたま空いていただけ、というならいいのだが。勘定払って出るとき、店員さんに“がんばって”と声をかけてしまった。

 サンマーク出版『すごいけど変な人×13』、見本刷りアガリ。ざっと目を通す。『ファイヤーマン』が『ファイアーマン』なっているのを発見。私の原稿の中で誤記していた。まあ、どオタクの校正でもないと見逃してしまうよなあ。

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