裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

火曜日

不燃物の鉄

 煮ても焼いても食えない野郎だぜ、あの仕置人。夜中にトイレに起きたとき、新しく買った糖尿検査紙を使ってみようと思ってやってみたが、何しろワインの二日酔い状態で、オタオタしているうち、オシッコが便器をはずれ、床を汚してしまった。いい年をして恥ずかしい。結果は完璧にシロ。朝8時起床。朝食は柿にヨーグルト。柿も朝食としてはオツなものである。

 11時、渋谷税務署から調査が入る。前にK子の方に来て、収入や支出の資料は提出したのだが、今回は私の仕事場を見にきたもの。1時間ちょっとばかり、書庫などを見回って帰る。K子曰く“そのうち、大ベストセラーを出したらいっぱい税金、払いますから〜”。つくづくこの女はシンゾウだなあ、と思う。あんまり書くと、読まれているかもしれないのでここらでやめとく。

 昼はレンジで温めたメシに、こないだ買ったサバ缶をあけて汁ごとぶっかけ、大根おろしをちょっとのせて醤油をタラリとたらし、一気にかき込む。B級的美味。サバ缶の魅力について東京農大小泉武夫教授の曰く、
「そっと缶詰に耳をくっつけてみましょう。すると、きっと鯖は次のように言うに違いありません。“鯖の生き腐れとか、鯖を読むとかと、みんなが生前の俺達のことを馬鹿にしていたが、今はこうして立派な水煮缶になって、だれも難癖をつけなくなった。ああ、水煮にされてよかったなあ。ほんとうによかった”」
 よくこういう変なことを考えつくものである。

 以前の完全な朝方から最近はサイクルが変わったのか、午後3時くらいまでは何をすることも出来ず考えもまとまらず、4時過ぎくらいから急に体調、気力とも恢復してくる。今日もWeb現代、昼からずっといじくりながらまとまらず、あーでもないこーでもないとやっていたのが、夕方から急に筆がノリはじめて、6時には完成してメールする。北海道新聞の原稿の推敲も、この時間になってやっと完成。もっとも、文章の語尾の繰り返しや内容の重複などが見つかったから、遅れて正解だったのである。

 ハローミュージックAくん、4時半ころ、後楽園の展示物を返却に来宅。残ったコマカな打ち合わせ(正規でない出演者の出演料とか)を話し合う。中野監督にはこちらから幾許か支払ったのと、後楽園内で撮影許可が出たことでOK、鶴岡のときのゲストには些少であるがハローミュージックから支払ってもらうこととする。開田裕治さんは、今度どこかで一回オゴるということで。

 原稿書き上げ、頭にこもった熱を冷ますために圓生の『らくだ』をひさしぶりに聞く。ちゃんと落合の火屋までやるフルバージョンで、酒が入って紙屑屋の人格がガラリと変わり、兄貴分と立場が入れ代わるあたりの描写と構成、何回聞いてもスゴい。私の中の圓生、というより落語のベストではないかと思う。長い話なので普通は前半だけで落とすし、後半はあきらかに蛇足なのだが、しかし、このアホらしさも捨てがたい。なをきも、後半のまったく内容のないナンセンスが大のお気に入りだった。そう言えば故・志ん朝がこの兄貴分に扮した『らくだ』の舞台版なんてのもあったな。テレビで見たのだが、屑屋が三木のり平、大家が関敬六、らくだが谷幹一という豪華なんだかどうだかよくわからないキャスティング。最初から最後までひとつもセリフがない(幕開きから死んでいるんだから当然である)らくだ役の谷幹一が印象的な舞台だった。なにしろ志ん朝が主役なので、この舞台も前半のみで幕となっていたのが残念であった。

 佐渡の金山(ではなく、工事現場のタコ部屋)に大の男を売り飛ばして鎖でつないで逃げられないようにしていた、というニュース、大時代過ぎて実にいい味だと思うのだが、やはりアフガニスタンの前には影が薄いか、裏モノ会議室でちょこっと話題になったくらい。私が今回の軍事行動に反対するとすればこういう裏モノ情報収集に支障をきたすが故である。ところで、裏モノ会議室で今、主な標的になっているのは良識派を装った戦争反対論者で、読売日曜版に投書がのった“しろうさぎ”という女 子高校生の
「先日、テレビで、アメリカの同時テロ事件に遭った飛行機の乗客たちが、最後に電話で伝えた言葉を特集していました。共通していたことは“愛している”という言葉で、決して“フクシュウ”ではありませんでした。わかってほしい、あのテロで亡くなった人たちが、一番望んでいることを。それがわかったらきっと、戦争なんかしない」
 という投書に、辛辣極まりない批評が寄せられている。これは私も読んでヒドイと思ったが、読売は朝日や毎日に比べるとあきらかな報復・軍事行動推進主義なので、こういうイカニモな勘違い投書を掲載するのは、反対派はこんなヤツらばかり、というプロパガンダではないかと疑りたいところだ。

 ところで、それに関連して挙げられていた、今戦争反対を唱えている人のタイプ分けに曰く
1.現実を知らないか、またはとにかく戦争反対という感情だけで動いているため理解できない。しろうさぎさんをはじめとする勘違い投稿人はこのタイプが多い。
2.戦争が嫌いなのではなく、単にアメリカや自衛隊が嫌いな人。なので、アメリカとテロリストや北鮮とで、対応の仕方が著しく違う。最近テレビによく出る、関西弁でまくしたてる女議員(ソーリソーリ)は9割方こっち。
 だ、そうで、“本当は「ガンジーやマザー・テレサのような確固たる信念を持った人」という第3のカテゴリーもあるはずなんですが、実例が見当たらないので省きました”とオチがついていたが、これにちょっと考えさせられた。そう、感情や主義と信念は別物のはずなのであるが、戦争反対に限らず、最近はこれを持った人に滅多にお目にかかれない。私がB級的人物に興味を持つのは、こんにちの日本で信念を持っている人は、A級でなくB級の方に多いからなのだ。

 9時半、四谷駅前でK子と待ち合わせ、おでんや『でん』。ハンペンなどという中途半端なものが食いたくなるのもおでんの不思議。向かい席のカップルがワイン談義をしていて、なんとかという番組でダウンタウンの浜田が目隠しをされて5千円のワインと5万円のワインを飲み比べさせられ(値段はウロ覚え)区別できなかった、というのに感心し、“分からないもんなんだねえ”などと言っている。オイオイ、それはまず「浜田がワイン音痴である」「間違えた方が番組が面白くなるからわざと間違えている」という要素というか可能性を除外して、初めて成り立つ論ではないか。こういう、信じやすい国民ばかりだと、思想操作なんてホント、やりやすいよなあ、と思う。焼酎がコズル、ここでも二杯飲んだだけでかなり酔ってしまった。弱くなった なあ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa