裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

月曜日

肉感ゲンダイ

 この見出しのマッチョなところが。朝7時20分起床。朝食。シーフードサラダ。そろそろニオイが生ゴミぽくなりかけ。食後少々胸が悪くなったので、オレンジ啜って口中を清める。今日は朝刊ナシ。テレビはホント、ずっと炭疽病とタリバン攻撃だけ。芸能レポーターは死活問題であろう。尿は今朝も無事、糖ナシ。とはいえ、体はダルい。遅れてきた夏バテであろうか。

 と学会パティオで猟奇・ノイズミュージック等の研究家、秋田昌美氏死去との書き込みがあり、あわてて調べたら亡くなっていたのは古書・児童文化研究家の秋山正美氏の方だった。これも見落としていた。今月1日、心筋梗塞で死去、72歳。河北新報社のニュースサイトで見てみると、“葬儀・告別式は故人の遺志により行わない”という記載のあとに“(注)通夜も行わない”とダメ押し。それほど世間に忘れられた人でなく、最近まで児童文化・生活史の本を執筆したり監修したりして活躍されていた方だけに、一切何も行わないというのはかえって関係者をとまどわせないかと思うのだが。

 これは、書こうか書くまいか迷ったのだが、秋山氏を初めて知ったのは、変態セックス研究家としてであった。雑誌『薔薇族』の出版元である第二書房から、昭和四○年代に、『ホモ・テクニック』『レズビアン・テクニック』『へんたい学入門・性と愛大百科』というような研究書をやつぎばやに出版していた。なかんずく、若者のオナニーの研究・教則本『ひとりぼっちの性生活』は名著で、かの立川談志が高座でネタにしていたくらいであった。
「最近の若い連中はせんずりのやり方まで本で覚えやがる。こないだ読んで見たら、書いてあったヨ。“第一章、原則として手を用いる”……まア、決して間違っちゃいないが……」
 これを聞いてからずっと古書店を探し回り、見つけて読んでみると、さすがに第一章ではなかったものの、ホントに“原則として手を用いる”と書いてあって抱腹したのを覚えている。だが、このような生真面目さで書かれたオナニーのマニュアル本が出版され、自慰に対する真摯な考察が行われたのは画期的なことだった。この本の出現により、オナニーは初めて不品行な夜のいたずらから脱却し得たのである。数年前に、少しお固めの某誌で“思い出の一冊”という企画コーナーに原稿を依頼され、この本のことを書いた。そのとき、著者の秋山氏に編集者が図版使用の許可を取るため連絡したのだが、秋山氏からは、“あれは自分の文筆歴の汚点のような本なので、どうか触れないでいただきたい”と返事が来た、と連絡があった。私は、いや、汚点どころか、あれは出版史上極めて価値あるものだと考えている、と返答したのだが、氏はかたくなに拒否され、泣く泣く、これを取り上げるのを諦めたことがある。

 しかし、汚点と言っても、なにしろ当時第二書房のそれらの本は隠れたベスト・セラーであり、出版点数もやたら多く、いろんな古書目録に堂々と秋山正美著として記載されている。いまさら隠せるものでもあるまい、と思ったのだが、児童文化史家として、教育関係の仕事にも関わっていた秋山氏にとり、やはり変態研究書を出版していた、という記録を、そういう人たちも目を通すお固い雑誌に残しておくのはまずいということだったのだろう。お亡くなりになって、もはや解禁と思うし、そんなことで秋山氏の名誉が毀損されると考える教育関係者の方が間違っている。いや、これら一連の書籍の価値は後の児童文化史関係での氏の業績に、勝るとも劣らないと私は固く信じるものだ。ここで再評価することを、泉下の秋山氏も許して下さると思うのである。

 その訃報の確認などでいろいろ連絡とりあううち、マンガ評論家のT氏の離婚の話が飛び込んできた。マンガ家のI氏、E氏からの情報だとかである。何でも別れるに際して、派手な刃傷沙汰があったとか言う話だが、本当かどうか。まあ、御愁傷さまというしかない。鶴岡法斎曰く“これはTさんが『BSマンガ夜話』のレギュラーの座をねらっての決行ですよ。だってあそこに出演している評論家、いしかわじゅん、岡田斗司夫、夏目房之介、みんな離婚経験者でしょ!”夏目さんは離婚してたっけ。いろいろウワサは聞いているが。

 昼、外に出て何を食べようかとブラつき、結局、また兆楽のミソラーメンにする。今日はそれほどうまく感じなかった。代を払おうとして、今朝、K子に買い物を頼んで、紙入れの最後の札を全部渡してしまったのを思い出す。小銭入れに五○○円玉が三枚ほどあったはず、と思ったが、これもK子が全部、五○○円玉貯金にしてしまっていた。スイマセンスイマセンとあやまって、保証に携帯を預けて近くの銀行まで走 り、金を降ろしてきて支払う。ミソラーメン一杯でかなりあせった。

 そこから新宿へ出て、雑用すませる。クツの大安売りがあったので一足買う。銀行で先程の引き出しを記帳。先日来、チリツモでちょこちょこ入金。細かい仕事でもしておくもんだと思う。体調悪くなったのでユンケル一本飲んで帰宅。3時、アド・イベントのサヨリさん来て、トラフェスの監修費振り込み用の請求書を書く。大元締めの会社から直接入ることになって、振り込みが早まる。これはありがたい。

 仕事、メールミスで届いていなかった某誌のもの、なんだか完成稿がどこかへ消えてしまっている。粗稿にもう一度手を入れ直して、情報量多く書き直す。何かイビツなものになってしまったが、まあいいだろう。あと、忘れるほど前に書いたアニメ評論原稿、ゲラが今頃チェック。一読するだにつまらん原稿だが、全面的に書き直す暇もなく、字句修正のみでファックス。少し憂鬱になる。SFマガジン最終回用原稿、昨日のミスから気を取り直して再度手直し、完成させる。これはまあ、最終回らしくなったと思う。だんだんよくなる法華の太鼓、夜になるにしたがい、体調も原稿の質もぐんぐんあがっていくのがわかる。体質が夜型になったのか? 騎虎のイキオイで北海道新聞コラム原稿も一本、通常の倍の速度で片付ける。質もこれがなかなかのもの、と思うが、ハイになっているのでそう思えるのかも知れず、イラストのK子のところにのみメールして、編集部に送るのは明日のこととする。

 8時半、新宿伊勢丹会館でK子と待ち合わせ、三笠会館で食事。ボーイさんがもうわれわれを覚えていて、いつもの通り一人前を二人で食べる用意をしてくれているのが気恥ずかしい。落語の『もう半分』ではないが、そうすると升目がいくらか多いような気がしてトクな気分になる。それに、半人前とはいえ、パスタなど食べると結構おなかがくちくなる。伊勢海老と季節野菜のホイル焼き、キノコのスープ、それにパスタ。オードブルのエスカルゴは、ひとり一人前食べたかった! と思う味。

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