裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

金曜日

アリガタヤのヨセフ

 主のご遺体を埋葬させていただけるとは有り難や。朝7時半、起床。目が覚めることは覚めたが、昨日のメローコヅルの二日酔いで、頭がクラクラ。これは一日仕事にならんぞ、ともうあきらめる。朝食、ピタパンとサンセイキ。サンセイキは二十世紀を無袋で日光に当てて育てたもの。甘味が濃縮されている感じ。

 官能倶楽部パティオにエッと驚く椿事の報告、参加メンバーみな大はしゃぎとなり騒がしい。詳細はまだ書けないが、本人はうひひひひ、と些か狂躁的に笑ってる。たまたま同じ担当の編集者から電話があり、ノドモトまで出かかって、非常につらい思いをする。まあ、われわれのことだから一両日しないうちに業界全部に伝わっちまうであろう。

 体がダルくて仕方なく、ベッドで横になるうち、急激にミソラーメンが食べたくなり、1時過ぎ、兆楽に行き、特製ミソラーメン。特製というだけあってスープがうまく、体に悪いなあ、と思いながらほとんど飲みほす。少しは健康にも留意を、と、その後でレンゲに酢を注いで飲む。これでかなり元気を取り戻した。渋谷古書会館に足をのばして古書数冊買い、その足でユーロスペースの向かいに引っ越した(情報元・FKJ氏)輸入ビデオ屋の『セール』にも行ってDVDをちょいと冷やかす。ヨサゲなのはみな、地域コード限定。コードフリーのデッキを買わねばならんか。

 郵便局で情報誌原稿の原稿料請求書、先月と先々月の二ケ月分を送る。原稿が遅れると催促がどんどん来るが、請求書が遅れても催促ナシなので、つい、たまってしまう。町の新聞売り場の見出しが調教師の田原成貴逮捕、とデカデカ。羽田空港で、手荷物の中に刃渡り18センチのナイフを隠しているのを発見され、調べられたところ覚醒剤反応のある注射器も出てきて、緊急逮捕されたとか。覚醒剤はまあ、わかるのだが(わかってどうするという見方もあるだろうが)、そのナイフというのは、なんでまたそんなもの持ち歩いていたのか。空港で検査されたらイッペンパンで見つかると思わないか。ましてテロ警戒最高潮のこのときに。それもわからぬほどラリっていたということか。

 帰宅して届けられていた夕刊でその記事をもう一度確認しようと思ったら、こっちは狂牛病の記事で持ちきり。脳を調べたら狂牛病とわかったがそれがどの牛から取り出した脳かメモしておかなかったので、その日解体された全ての牛を回収せねばならぬハメになったらしい。もう、この国は国を構成・運営しているシステム自体から崩壊してきているのではないかと思う。こういう国に戦争などという高度なプロジェクトの遂行能力は望むべくもない。反戦派の人も安心した方がよろしい。

 原稿、コキリココキリコと。なんとか、好美のぼる初期作品集(『UA! ライブラリー』新刊)用の解説を完成させる。印字したものを持って、8時、新田裏すし処すがわら。花金ゆえか、肉食えないせいか、店内ほぼ満員。“いよいよ寿司屋の時代到来だねえ”などと言いながら、ツマミにカイワレの昆布じめなどを頼む。このカイワレも、O−157のときは市場からサッと姿を消したものだが。K子と好美本のタイトルを考える。収録作品『幸うすき星』に登場するキチガイのお嬢様のセリフ“うわっその子きれい殺す”を持ってきてはどうか、と話す。大将にこないだの京都のお茶屋取材の話をしたら、いつも来るヤクザの親分が、“まあ、高くつくけどいっぺんあれを経験すると、他の遊びはバカバカしくて出来なくなっちゃうね”と言っていたと教えてくれる。やはりあの親分も黒ひげ危機一発か(違うと思う)。脇に高校の先生たちらしい一団が飲んでいて、かなりご機嫌になっていた。一番コワダカに話していたセンセイが、やたらに短歌や俳句を引用するが、それが酔っているせいか、どれもちょっとずつ不正確。
「酒なくてなんのおのれが人生かな」
 とか、
「白玉の歯に染みわたるこの酒の酒は静かにのむべかりけり」
 とか、聞いていて訂正したくなってイラつく。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa