裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

土曜日

自衛隊自衛隊、いくつに見えても私だれでも

 支援は支援よ違憲じゃないわ(小泉首相・談)。金沢講演のことが頭にあるので、講演旅行に夫婦で出かける夢を見る。もっとも、出かける先が東京である。東京に住んでいるのに東京に旅行するのはどういうことだ、と途中で(夢の中ながら)気がつき、理由を考えている。考えながらも話は進み、とうとう矛盾に対応できなくなって頭の中の夢の担当部分が放棄したと見えて、目が覚めた。夢の中に出てくる東京は、多分最初に上京したときに下宿した阿佐谷がモデルなのだろうが、実際の阿佐谷よりずっとひなびた、情緒のあるところで、かなり急な坂道の両側に木と石で作られた家が立ち並び、それに一様にツタがからまっていて、だんご屋や総菜屋がある。何回かこの光景は夢に出てきているのである。

 目が覚めたのが4時。北海道新聞のゲラチェックなどをやる。過激な内容になってきた、とこないだ書いたが、編集のYさんから、“ここらで「本題だ!」と喜ぶ人と「もうついていけない」と絶望する人に分かれそうですね”と言われた。楽しんで赤入れをやる。終わってもう一眠り、と思ったらK子が目覚ましをかけていて寝そびれてしまう。朝食、ヨーグルトとイチジク。資料にざっと目を通す。今回の金沢行きは『日本社会薬学会第20年会』なるところでの講演というおカタい仕事なのである。で、それで金沢まで行くんだから、ついでのことに能登に足をのばそうというわけ。

 用事が案外サクサクと済んだので、予定していた9時半よりやや早く家を出る。羽田空港、やはり警備員の数多く、あちこちで目立つ。JASのカウンター、私らとほぼ同時に、大林宣彦夫妻の姿が見えた。尾道にでも行くのだろうか。K子が朝飯を早く食べ過ぎてお腹が空いたというので、カキアゲうどんを一杯、二人で啜る。中年の婦人秘書を連れた、ジョン・キャラダイン(晩年の)にそっくりの爺さんがいて、ステッキにすがりながら飛行機に乗り込む。秘書が段差のところをいちいち注意するのに、いらんことを言うな、と怒っていた。なかなかいい感じで、こういう年寄になりたいもんだと思う。

 小松空港までは50分強。寝不足なのだがひと眠りする余裕もない。機内サービスも最低限のものしか行われない。スチュワーデスがジュースがいいかコーヒーがいいか訊いてくる。K子が“スープはないんですか?”と聞いたら“狂牛病の検査にただいま出しておりますので……”という返事。政府の安全宣言をどこも信じていない。機内誌『ARCAS』10月号、星野高士『正岡子規没後百年・俳句王国松山への旅路』という記事の冒頭に曰く、
「子規は35歳で病没したから、現存すれば135歳ということになる」
 現存するわけもないと思うんですが。常套句を安易に使うと、こういうズレた文章をつい、書いてしまう。私なんかもよくやりそうですな。

 予定通り12時、小松着。うまい具合に金沢市内行き快速バスに連絡。1時間ほどかけて金沢市内に到着。駅前の全日空ホテル(向こうでとっておいてくれた宿)に入る。かなりいいホテルである。こんな豪勢なとこでなくていいから、ギャランティ上乗せしてくれればいいのに、とツイ思う。タクシーで、会場の石川県女性センター入り。控室に通される。私の他の講演者は、文部科学省のお役人やら、麻薬覚醒剤乱用防止センターの係員さんやら、おカタい人ばかりで、非常に尻がムズがゆくなる感じがするが、雑談でいろいろ打ち解け、やや気がラクになる。ここで前もって講演料支払い。おや、最初に聞いていた額よりかなりいい。もちろん、多くはないものの、これなら、さんなみでの酒代くらい出そうである。喜ぶと同時に、ちょっと残念にも思う。最初に呈示された額というのがホントに笑ってしまうほどのもので、逆に、この額でわざわざ金沢まで出かけた、というとネタになるな、と思っていたものだから。

 で、講演。どの演者も、25分という短時間の講演時間に手こずっているようである。最初はお固い口調で面白くもない内容をダラダラ話して……とバカにしていたのだが、聞いているうちに、ふうん、と思えてくる。確かに内容は斬新さもなく聞かせどころもないが、しかし、口調などがみなさん、さすがにこういうところでの講演なれしていて、退屈させずにスライドなどを用いて、工夫している感じである。これだけのテクニックをみんなが持っているなら、こちらは逆にずっとくだけた内容で、部外者からの意見、という感じで笑いを取る方に行けばよかったのだ。妙に半チクに固い内容の話をしたので、専門的でない分、印象が薄いだけの話になってしまったような感があり、ちょっと不本意な出来であった。それでも、肝煎りの北陸薬大の教授は“こういう人を呼べてよかったと思います”とコメントしてくれた。そのあと、質疑応答に移ったが、こういう会での質疑応答というのは、いつでも話したがりの半隠居みたいな爺さんが愚にもつかない質問でパネラーを苦笑させる、というのが定番。今回も例にもれず、足りない時間内でぐだぐだ講演内容と関係ない演説まがいのことをする連中ばかり。
「諸先生のお話をうかがって、大変に有益でした。特に○○の問題について、以前から私が思うところは……」
 要するに質問したいのではなく、自分がしゃべりたいのである。私の話したことに興味持ってくれた若い世代は質問のスキもなく、ただ壇上に出ていただけとなった。終わった後、一昨年岐阜での講演を肝煎りしてくれたTくんが挨拶に来てくれて、一番面白かったです、とお世辞を言ってくれた。彼も、ぜひ質問を、と思ったのだが、マイクが回ってこなかった、とやや残念げ。

 終わって外に出、K子と落合い、タクシーで例のメトロン星人こと桜井さんの店、まるいちへ。花博とかで交通規制がひかれ、道がえらい込み様。K子は私がしゃべっている間に市場へ出かけ、ナンビョーさんにネタ御礼のカニを送ってきたとか。桜井さんにSF大会以来の挨拶、奥さん、在金沢のオタクAくんと一緒に、金沢料理の店『五郎八』へ。後から一行知識掲示板のニセビルゲ氏も加わり、先日のSF大会のことなど、いろいろ話はずみながら食事。この日記のことなどが話題になった。そのあと、カラオケ。今日はオタクしばりではなかったのだが、最高点(採点システムがある)を取ったのは桜井さんの『ウルトラマンエース』、次点は彼の奥さんの『小さなバイキングビッケ』というオタク歌。私は声が講演と寝不足で枯れててダメ。帰りのタクシーの中でK子が話したところによると、桜井さん、店の若旦那からこないだ晴れて代表取締役となり、いろいろ自分で自由にならない体になって、十年ほどオタク活動から離れることになるかも、とのこと。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa