裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

金曜日

田園のU2

 こんな田舎でロックコンサートかい。朝8時起床。ゆうべ原稿の資料にと、『口演速記明治大正落語集成』(講談社)の第一巻をフトンの中で読みはじめたら止まらなくなった。明治の語彙の宝庫。十年くらい前、『ぞろぞろ』連載に際して落語関係の資料を買い集めたときに揃えたもので、一応全巻に目は通しているが、拾い読みばかりで系統的に読んではいなかった。以前、どこだかの落語解説に、春風亭柳橋(芸協初代会長)の『星野屋』のことを“もとは長い人情話だったのを、当代柳橋が現代感覚にマッチするよう滑稽話として縮めて改作した”とあって、ずっと信じていたのだが、すでに明治時代の春風亭柳枝の口演に、今と同じ形で記載されている。

 朝食、イチジクとヨーグルト、二十世紀梨。朝、石原さんから電話。例のK出版の社長からのFAXを転送してくる。まだ出版部数は未定とのことだが、スケジュール消化のペースから見て、小出版社としてはかなり頑張って作業進めている、という感じ。安心するように、と電話する。ロフトで1月後半あたり、サイン会を開きましょう、と言っておく。昨日の日記を見て、青林堂K社長からも電話。なをきとの出版の件。『ガロ』新編集長のK安くんとも少し電話で話す。前編集長がちとドタバタで辞めていったもので、事後処理が大変らしい。

 昨日送ったモノマガ原稿、前の担当さんのところにメールしてしまった模様。再度送信。ずっと海拓舎原稿赤入れで午前中は過ごす。昼食はコンビニで買った鶏のチリソースなどをオカズに、栗おこわ残り。あまり食欲なし。2時、時間割でFくん。まだ赤まるで入れ終わってない(無茶苦茶に入れている)こと話し、来週のスケジュールとしてもらう。世間話ちょっと。太田出版のと学会本シリーズの今後の刊行予定のことなど。

 Web現代原稿、帰宅してすぐかかる。とみさわ昭仁さんのサイトの顔出し看板のコーナーを取り上げる。案外サクサク進み、思っていた執筆時間よりかなり早く書き上げられた。担当Yくんから電話。単行本2巻目の構成、このままだと下ネタばかりになってしまうので(前担当Iくんのシュミもある)、しばらくこういう普通ネタでお願いします、と言われる。呵々。

 久住昌之さんからおそろしくひさしぶりに電話。来年、『美学校』の彼の講座でゲスト講師をやってくれないかと依頼される。スケジュールを訊かれるので、来年のことはまだわからんと言うと、とりあえず新入生募集のパンフレットに名前を載せていいかというから、それはどうぞどうぞ、と了承。阿佐ヶ谷美学校と言えば井上くんの出身校ではないか。

 裏モノ会議室で山本弘氏と少しヤリトリ。イスラム原理主義があちらでどれだけ民衆に受け入れられているか、の問題。女性の教育や社会進出が禁止されているのも、テレビを見ることが許されないのも、サッカーやってもいけないことも、山本さんはそれが宗教のタブーというものだし、案外慣れていれば平気なんじゃないか、と主張し、私は、近代的自我を持った者にはそういう戒律ずくめは耐えられないのではないか、と書き込む。もともとテレビもサッカーもマホメットの教えの中では禁じられておらず(当たり前の話で、そもそもその時代にはなかった)、それを拡大解釈でどんどん禁止事項としているのが原理主義指導者たちなのである。私の元ネタは高山正之『鞭と鎖の帝国』(文藝春秋)で、ホメイニ政権下のイランの様子をレポートしたもの。紅衛兵や日本の特高みたいな宗教監視要員アンジョマネ・イスラミが各家庭の私生活までを厳しく調査し、その目の下で原理主義指導者の論文に犬は豚同様不浄な生き物である、と書かれると、大慌てで飼っていた犬を殺し、ウンコの仕方まで定められた指示に従わないといけない、おびえ切った民衆の姿が描かれている。

 6時、新宿でサウナ&マッサージ。サウナはひさしぶりに独占状態で気分よく使えた。マッサージ、例により凝ってますねと言われるが、目の疲れからくる凝りなのでそれほどつらくもない。終わって渋谷に戻り、文化村通りの新刊古書店で、国書刊行会の妖怪画集が5冊ほど、出ていたのでさらう。一万四千円。原価で買うと二万三千いくらだからお買得。それから神山町の豆腐料理屋『二合目』。おぼろ豆腐、刺身、湯豆腐など。明日は金沢行きが早いので、帰宅してすぐ寝る。

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