裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

木曜日

下手なモザイクを弄するな!

 ハッキリ見せろ。朝7時起き。朝食、ソーセージとウズラ目玉焼き。午前中は雑用多々。某情報筋からメール、『ブンカザツロン』の売れ行きのこと。具体的数字も出ていたが、なかなかのもの。二弾目もいけるか? あと、細かい原稿など。

 11時に家を出て、羽田空港まで。睦月影郎さんと待ち合わせ、とんかつで昼食。午前中から生ビール飲んで気炎あげる。睦月さん、マドンナメイトのアイドル声優モノ(宮村めぐみだったか林原優子だったかというネーミングのヒロインが出てくる)の売り上げが神田すずらん堂で驚異的だそうで、意気軒昂。こっちもさっきのメールで気が大きくなっていて、他のモノカキのコキオロシなどをする。五月のGW進行から数日、逃亡して沖縄旅行というのは、なにか不倫旅行のようなイケナイ感覚。それだけにワクワクする。それにしても、まだGW前の平日の昼間だというのに、羽田は旅行客でえらい混雑。

 1時50分発那覇空港行きJAS。手荷物検査のとき睦月さん、“オレ、いっつもブザー鳴るんだよ”と言っていたが、今回も見事に鳴り、何回も磁気ゲートをくぐらされている。JASはいつも飛行場の突っ先のところに搭乗口があり、かなり歩かされる。K子に言わせると“それでも今日はバスに乗せられなかっただけいいわよ”。

 沖縄まで2時間半。機内で、並びの席をK子と睦月さんに譲り、少し仕事。Web現代の単行本用原稿赤入れ。それから、読みかけになっていた資料本に目を通 す。飛行機の中は揺れさえしなければ、案外集中して仕事ができる空間である。原芳市『ストリップのある街』(自由国民社)。二十年前に比べて半分以下に減ったストリップ劇場を追い、そのステージ、楽屋、踊子の姿を写真とインタビュー、論考でまとめたカルチャー・ガイド。その中で著者曰く、
「ストリップ・ショーは文化だ、と僕は思っている。しかし、文化だ、と言い切った瞬間に、何か、とても大切なもの、根源的なものが消えかかっているような、そんな気分になってしまっている」(要約)
 その根源的なものを著者は“スケベ”だ、と言う。文化と厳密に言い切ってしまうと、そのスケベが消える。
「正しく“ストリップ・ショーはスケベでなければならないのだ」
 この姿勢に深く共感する。私が怪獣映画やマンガをアカデミックに読み説く、一部のムーブメントに不信感と不快感を覚えるのは、この著者と同じく、その段階で、大衆文化がその根っこに共有している、根源的なスケベさ、禍々しさ、妖しさが脱け落ちてしまうためである。リスペクトも結構だとは思うが、リスペクトされた段階でそれは、根源的なものを失ったヌケガラでしかなくなってしまうのだ。

 航路無事、沖縄着。さすが、陽射しが脳天を突き抜けるように明るい。風はまだそれほど暑気を帯びてはいないが、ほのかな海からの湿りを含んでいて、ああ、南国へ来たんだな、と感じる。タクシーでホテルサン沖縄へ。ここは以前、沖縄オタアミで来たところ。さあ、と思ったらエンターブレインから携帯に電話、FMラジオ出演の件。まかせておく。

 ロビーの喫茶店でしばらくダベっていたら、沖縄在住の作家・中笈木六こと神野オキナさん迎えに来てくれる。さっそく、公設市場のあたりを散策、つもる話をいろいろと。今回の旅行に関しては頭をカラッポにしているので、細かいことは覚えておらず。K子の日記の方を参照してもらいたい。感想のみを記述すると、沖縄は多くの地方都市がプチ東京化することでそのアイデンティティを喪失させている中で、いまだ頑強に沖縄であり、日本の中で唯一、戦後をひきずっている場所であり、それ故に、強烈な個性と吸引力を保っている。この個性(アク)がたまらない。宮本亜門がやはり沖縄に惚れて、こちらに家を建てたそうだ。確かに沖縄の男の子は(略)。スタンドのゴーヤージュース飲みながら、いろいろと店を物色。店のお婆さんが子供に“ワラバー”と呼び掛けていたのを聞いて感動したりする。

 去年も行ったイラブー(海蛇)料理の店、カナ。イラブー汁、クープイリチイなどで泡盛。モノカキばかり四人なので、話は創作談義となる。モノカキにとり“濃い”という評価の麻薬的なこと、そして麻薬的に身を滅ぼすこと。木六さんも、これまでで最も売れた本が、自分でイヤになるほど薄い作品であったという。“薄くしなきゃ売れないということはわかっているんですが、濃い状態にひたっている快感につい、負けてしまうんですよ”。睦月さん曰く、“手を抜くんじゃない。力を抜いて書くんだよ”と。その後、喫茶店に場を変えて、さらにダベリ。去年、こちらを迎えてくれた仲原くん、又吉くんなどと合流して、さらにその喫茶店の閉店まで話す。それでアルコールが抜けたので、ホテルで寝る前にカンビール小一本。ツマミにと、国際通 りの泡盛屋で買った“胃袋ジャーキー”(豚の胃袋を燻製にしたもの)を齧ったが、こ れの固いこと固いこと。歯が折れそうになった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa