裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

日曜日

ゲゾラひばり

 決戦! 南海のジャンケン娘。朝7時半起き。朝食、ローストチキンサンド。果 物はセミノール。昨日とはうって変わった好天気。うって変わるにもホドがある、という感じ。札幌から定例の日曜電話。豪貴は調剤薬局の支店を出すという。当時大層な元気である。午前中はずっと海拓舎原稿。これもこないだまでとはうって変わってザクザクと進む。とにかく、他の懸案の書き下ろし小説もエッセイも、これを済まさね ばはじまらぬ。

 K子に弁当のお菜で豚肉とワカメの炊きあわせを作るが、うまそうだったので、自分のお昼も同じものにする。読売新聞書評欄のおなじみ上田センセイ、今回もはしゃいでいる。いろんな文体を僕は使い分けられるんだよ〜ん、という感じである。大学のセンセイにもいろんな人がいるものだ。今度、この人自身の本を読んでみたいものだと思った。

 1時半、家を出て新宿東口滝沢へ。タクシーが混んで、10分ほど遅刻。花見連がドッと押し出しているのだろう。代々木公園近くのグラウンドにも、花見の人出がいろいろ出ていた。滝沢で海拓舎Fくん。全体の三分の一ほどの原稿を渡し、これからのスケジュールのことを話し合う。日曜に仕事させて。15分しか話が出来なかったのは悪いことをした。こないだの5000円も返すの忘れたし。

 2時半、新宿西口小田急線改札。官能倶楽部による睦月影郎氏新居落成祝い。談之助夫妻、開田夫妻と落ち合ってロマンスカーで藤沢まで。車中、例によってアホらしい話を大声でワイワイやりながら行く。回りの客はどう聞いているだろうか。藤沢から江ノ電で。ストーカーがつくといけないので詳しい場所は伏せておくが、駅のすぐ側に睦月さんの新居がドーンと(それほどでもないか)建っていた。安達コンビと、お祓い役のひえださんは先に到着。

 まだ一階の喫茶店はオープンしていないし、引っ越しの段ボール箱も散乱しているとはいえ、モノカキが筆一本で建てたオトコの城である。作家の本懐ここに、という感じ。まず、みんなが見よう見ようと押し寄せたのが、この家の最大の特長であるところのすべり棒。消防署とかバットマン基地(TV版)にある、アレである。睦月さんは、この家を建てるとき、大工さんに無理押しをして、これをつけてもらった。自分のマンガ(『ケンペーくん』)で描いたものを、実際の家に作りつけようという夢を実現させたわけである。ノスケさんなど、これをすべりおりるために、わざわざ自前の手袋まで用意してきていた。さっそく、みんなかわるがわる、すべって降りてみる。下を見ると怖くて、私は一回躊躇したが、一度ひょー、と滑りおりると、なかなか病みつきになる。睦月さんは“やめときなさい、やめときなさい”と忠告。実はこ の家の主人公のみ、いまだ怖くて試みてないんだそうである。落下速度は重量には関係ないとガリレオ先生は言ったが、観察の限りでは一番体重の多い安達Oさんが一番凄いイキオイで降りていったように見えた。

 その後、みんなでお祝いの品を渡す。私たちはプチ・コキャンで買った、女性の乳型のユタンポ。開田夫妻が執筆のとき腰を痛めないためのクッション。ノスケさんが一キロの巨大ティラミスと、巨大ドラ焼き。安達さんが傑作で、カップ焼そば一ヶ月分。なるほど、彼の日記でお祝い用に包め、包めないで店とケンカしたというのはこれですか。屋上にも上り、こんどここでバーベキューパーティをやろう、と話す。

 さるほどに時間となり、ひえださんによるお祓いとなる。不信心な奴らばかりで、列席が私と睦月さんのみ。何しに来たのか。ひえださんの祝詞はなかなか本格で、迫力あるものであった。文句が傑作で、職業がポルノ作家であるから、ちゃんと祝詞の中に“美斗能麻具波比”なんて入っている。こういうのも前代未聞であろう。

 もう、あとは全員、好き勝手極まる暴言を吐いて、やれトイレにタオルがないの、皿にタバコのヤニがついているのとさんざん。祝いに来たんだか見物に来たんだかわからぬ。近くの和食屋でしゃぶしゃぶを御馳走になるのが悪いくらいだ。まあ、一杯食べましたけどね。夢の話、携帯の着メロの話、ポルノとはどう書くものかという話など、話題はつきず。カラオケになだれこみ、10時半までさんざワイワイやって、小田急の急行の終電に乗り遅れ、JRで帰る。騒ぎすぎたか、やたら眠くなって弱った。家てふもの、もちろん建てることは男の夢なのだろうが、私はなにかコワイ。あれは魔のもので、そこに入ると、家という存在に自分の主体が従属してしまうような気がするのである。睦月さんが今日、何度も、“これで俺はやりたいことを全部やってしまったから、まああと数年で死ぬから”と言っていたが、これも、自分の家を建てたが故の充足感による言であろう。非常に惹かれる感覚ではあるが、まだ、私にはちとそれがコワイ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa