裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

2日

月曜日

幕末チョロ松カラ松

 さあ、みんな維新よ〜。朝7時半起床。早起きは老化のシルシというが、まさに。いくらでも寝られた20代のころが懐かしい。今朝もいい天気。昨日、歌舞伎の中村歌衛門が亡くなったが、桜の花におくられるのは名女形にふさわしいだろう。朝食、コールドチキンとトーストしないパン。

 原稿ガリガリ。いささかアブナい資料などにも目を通すが、知的好奇心が刺激されることされること。資料ではないが、知人から送ってもらった英文の怪文書の中に、burakuminという語があり、その訳語として“ビレッジ・ピープル”と注があったのにはひッくり返った。イーストプレス原稿、ゲラチェックして返信。

 今日はメシを炊かなかったので、昼は久しぶりに外に出て、チャーリーハウスで肉うまにかけ御飯。二分くらいで平らげてしまったのには我ながら驚く。昼飯が早いのは小商人の家のセガレの特長である。パルコブックセンターに行き、資料本数冊買い込む。雑読用に石毛直道『上方食談』(小学館)買ったが、やたら字組にゆとりを持たせた本で、文字中毒者には不満のあるデザインである。目のことなど知ったことではなく、細かい活字がギッシリ詰まっていないとわれわれは満足しないのだ。速攻で読み終えてしまった。内容もかなり旧い文章や対談のよせ集めで、言ってることも重複が多いが、そのいちいちに採録にあたっての注釈がついているのがまだ、良心的。やっぱりな、と膝を打つ思いをしたのがホルモン焼きの語源についてで、最近はどの焼肉関係の文書にも“本来は放る(捨てる)もんを焼いて食べさせることからホルモン焼きと呼ばれるようになった”と書いてあるが、本当のところは内臓料理は強精作用がある、というイメージから、性ホルモンのホルモンを冠して、ホルモン料理という名をつけたものが戦前から関西にはあり、これを、戦後に急増した韓国・朝鮮料理の店が受け継いだ、とある。“放るもん”説が聞いてオモシロイことからあまりに普及してしまい、性ホルモン語源説を唱える身として肩身がせまかったが、食文化研究の大家がこちらに組みしてくれて、何やら頼もしい。

 読書人マンガ評原稿用に岩明均『雪の峠・剣の舞』を読む。評判の歴史もの。前者の、武断派を文人派があしらって勝利をおさめる、というストーリィは山本周五郎を思わせる(周五郎なら、武断派の方にももう少し同情をよせるだろうが)。オトナの観賞に耐える、というか、オトナの読むもののマンガとして、完成度の高さはまず、現今のマンガ界における頂点と言っていいだろう。しかし、その感動がマンガならではのものか、と言うと、私は絶賛にはちと、躊躇するものを感じてしまうのである。詳しくは原稿に書くので、日記ではこのへんで。

 某編集部から電話。てっきり送ったと思っていた原稿、まだ送られていないということ。あわてる。メールに不具合でもあったか? 出かける真際だったので、明日、すぐ送りますからと言って新宿に出る。銀行に寄り、伊勢丹で買い物。健康食品など数点。ファインの『しじみスープ』というやつで、わが家ではこれを味噌汁のダシに使い、煮物の下味、鍋物の味付け、塩の代わりに炒飯にもまぜ混む。

 8時、東新宿焼肉『幸永』。こないだの『虎の子』のH夫妻を招いて食事。ところが奥さんの方のみやってくる。ダンナは仕事関係の知り合いに不幸があって、家に待機してなければならなくなったとのこと。この幸永、最近は有名になりすぎて、レモンがポッカレモンになったし、予約も出来なくなった。うまい店のたどる運命なのかもしれない。ただし、まだ肉はうまくて、うぐうぐ言いながら食べる。新商品ですのでお試しを、と、湯引きミノをサービスしてくれた。あっさりしていて美味だが、私はこの店では濃厚なものを食べたいな。Hさんと、昔話(と言っても双方の結婚当時のことだが)などを話しながら。

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