27日
金曜日
クシャトリヤ稲刈りや
武士階級も農耕を学ぶ時代です。朝、7時起き。夢は見ず。朝食、ふかしサツマイモとスープ。Web現代原稿をK子に渡してイラストの指示。日記つけ、10時から原稿書き出す。1時から九段で打ち合わせなので、それまでにと特急でデジモノ映画評二本、書き上げねばならない。12時ギリギリまでに三枚のもの二本、アゲてメール。その間に道新原稿チェック、鶴岡から電話もあり、大忙し。
12時半、シャワー浴びて時間ないのでタクシーで九段下。角川春樹事務所、少し迷う。担当のNくんが迎えに出てくれていた。岡田・眠田両氏と、三月のオタアミ本(以前のものの文庫化と、単行本での新バージョン)の打ち合わせ。Nくんがおそるおそる“××さんネタはうちではちょっとまずいんで”とか言うと、風邪で体調最悪のはずの岡田斗司夫の目が光る。眠田さんが“このヒトはそういうこと言うとかえってやりたがる人なんだから!”とNくんを叱る。隣の部屋から、社長の印を唱える声が朗々と響いてきた。さすがこの会社、と感心してしまう(褒めている)。
2時までいろいろ打ち合わせ。その後、駅前のプロントで三人で雑談。岡田さん、『オタク学入門』の文庫化の際、元本で指摘されていたミスを一切訂正しなかったとか。“ミスもまた歴史です”と。この度胸は私にはない。眠田さんと日本シリーズの話で盛り上がると、岡田さんの顔がとたんに眠そうになる。ここでとりそこねた昼飯を食べる。明太子のスパゲッティ。うどんの如し。
4時から少し、神田古本祭を冷やかす。そろそろ古書店めぐり再開の時期だが、今日は回らず。銀行で家賃降ろしたり、あちこち歩いて時間つぶす。6時、東銀座ヘラルド試写室で押井守『アヴァロン』試写。時間を読み間違えてギリギリに到着。かなりイラついたが、なんとか間に合う。席に宮台真司氏の顔があった。
で、『アヴァロン』。安達Oさんが日記で“天才の天才による天才のための映画”と書いていた。アレ? では観客は? と、天才に非ざる身、置いてきぼりを食やしまいかといささか心配になったが、まず、ついて行けたのはめでたし。“喪われた近未来で行われる架空戦争ゲーム”という設定でSFをやるのは、ミステリで“雪に閉ざされた山荘で殺人事件が”とやるようなもので、言ってみれば手アカまみれのものなんだが、“押井が作ればこうなる”と力技で架空世界を構築しきったのはさすがである。映像と音楽はこれまで日本映画が到達し得なかった域に達している、と言っていいだろう。最初、クラスSAに主人公のアッシュが赴くとき、裸足の足を強調してアップにしておきながら、SA世界で何の説明もなくクツをはいている。ここが最後まで気になったのだが、ラストに至り、あ、伏線だったのか、と気がついて大感心した(も少し親切に見せてくれればなおいいんだが)。とにかく美しい。例えればダー ク・グリーンの翡翠の玉のような作品である。
とはいえ、これ以上は望蜀の嘆だが、アッシュの行動モチベーションが画面 から切実に伝わってこないのが、ストーリィを追う上でちとつらかった(犬をもっと効果 的に使えたのではないか?)。ニヒルなキャラクターとして彼女を描写するために仕方なかったのかもしれないし、また、隠されたフィールド・クラスを全てをかけて求める、という行動はゲームに慣れている人には説明の要がないのかも知れないが、通 常ではいささか弱いととられるはずだ。最も派手な戦車戦を最初に見せてしまい、あとは心理映画なのも、画面で映画を追うタイプの観客にはつらかろう。孤高の映画、という感じがする。DVDでマニアは画面のはしばしまでを舐めるように味わい、随喜の涙を流すに違いない。それはそれでいい。だが、今、天才・押井に斜陽の映画業界が求めているのは、一般観客が大ホール上映に列をなす、そういう作品なのではないか? という気も、観ていてどんどん、してくるのである。キャメロンが絶賛しているのは、ハリウッドでこういう映画は決して作れないという隣の芝生的な心理があるように感じられる。
安達Bさんが試写室にいたことに、観終わって気がつく。彼女と語っているうちに外へ出てしまい、宮台さんに(早稲田文学の対談以来か)挨拶するのを忘れてた。まあ、いいか。三越前までいろいろ感想を語りあいながら歩く。そこで明日のオロスコの待合せ場所を打ち合せて別れる。K子と落ち合い、おでん屋やす幸に行く。生ビール一パイと、日本酒。K子は土瓶蒸し。おでんはゆば、きりたんぽがうまかった。こないだはここの店、高いと聞いてドキドキしながら出かけて、それほどでもないやと安心したが、慣れていろいろ頼んだ今日はやっぱり少し、高かった。