裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

木曜日

大きなキャッツアイを浴びる

 杏里コンサート。朝6時起き、きわめて快調。8時朝食、カブとアワビタケ、白菜のスープ。果物はバナナ。午前中、ナンプレコラム三枚強。『創』篠田編集長から、 早く連載を始めろ、と催促の電話。うへーい。

 一行知識そろそろまた整理、平塚くんに電話。最近の書き込み数のパンク状態、如何ともし難し。ウスいものは書くな、とも言えない。なにより、ネタのダブりを現在の状況では書き込む人がチェックできないのが頭の痛い点である。こういう情報系掲示板は無法地帯状態が一番(個人的には)好みなのだが、管理する身となっては野暮も言わざるを得ず。“より抜き一行知識”のコーナーを作るというのがひとつ、テかもしれない。

 昼をはさんで、3時半までずっとSFマガジン原稿、十一枚。書き上げてヘトとなる。推敲中、一回読み切りの原稿としてはこの文章を後に回した方がいいんだが、次回にツナゲる連載としては先に出してしまった方がいい、という一段があり、その扱いにしばし悩む。結局、連載として次回につなげる都合を優先させた。原稿と読者は一期一会、百回連載の九十九回目で初めて目にする読者のことも考えなくてはならない、というのが私の持論なのだが、SFマガジンという媒体で、あまりそういうフリの読者はいないだろう、と判断したのである。

 はさんだ昼はカツめし。もっとも、カツといってもミニチュアみたいなのが三切ればかし。ご飯はパックのおこわ。辛子が切れていたので胡椒をうんとかけて食す。トンカツに胡椒をかけて食うとウマそうだ、というのはずっと昔、柳家三語楼の『トンカツ』って落語を聞いて以来、抱いていたイメージである。モノマガジンにブツをバ イク便で出す。

 メール数通。原稿送ったナンプレから、“今回はちとポップでなかったですね”と言われてショゲる。まあ、ネタがこないだの伯母の葬儀だから無理もない。次回は新年号なので明るくお願いします、とやられる。アルゴのHさんから電話。『シベ超』の話。水野監督はマジで、自分を山下奉文将軍の子供、と信じているらしい。映画がらみの電話続き、阿部能丸くんからも。『ブリスター』の須賀くんと近く飲もうという話。須賀くんは今、『ミカヅキ』の編集をやっているらしい。4時、歯医者。根の治療、かなり奥まで届き、神経に響く。どうにか今回で根の方は終了したとのこと。

 次の予定が幻冬舎との打ち合わせなのだが、5時からだったか5時半からだったかアヤフヤだったので、歯医者出てすぐ、5時に時間割へ。半からだったと見え、誰もいない。カバンの中にあった『雲の上のキスケさん』第二巻を読みなおして時間つぶし。ヒロイン眉子とキスケ、つきあいはじめてからの二人の関係の描写が、読んでるこちらが恥ずかしくなるくらいベタベタに、赤裸々に描き込まれている。この徹底ぶりがよろし。いい年した男女が恋愛に陥ると恥というものを忘れる一時期があるもので、そこらへんをよくツカんでるなあ、と思う。読者の大部分も、自分のそういう体験と重ね合わせて恥ずかしがり、興奮しながら読んでいるのだろう。

 半にSくん来る。出し忘れていた出版契約書に捺印。雑談しばし。ブックオフが現在の出版不況の一因をなしているという話をして“でも、買ってしまうよねえ”“店内明るいしきれいだし、なにしろ夜中までやってますからねえ”“消費者にとっては何にも悪いことないんで、いくら出版社がイキドオっても、世間を味方にはつけられないよね”“全集とかを揃える気になるのはブックオフで見かけた時だけですね”などと、いつの間にかブックオフ礼賛になる。大体、本というものを書棚にとっておかないで、読んだら捨てる、という風に読者をしつけたのは今の出版社なのである。捨てるものならあまり金をかけずに手に入れるにしくはない。そこにブックオフは目をつけたに過ぎぬ。

 そこから古本屋の話になり、坪内祐三氏の話になり、古書業界人の話になり、松沢呉一の話になり、ちょいと彼の話をしてたら、西手新九郎やるもんである。なんと、当の松沢氏が時間割に入ってきた。少し離れた席で、援助交際ウンヌンだったかの記事の打ち合わせのようなことをやっており、そこに呼ばれたらしい。私の顔を見て、一瞬驚いたような表情をしていた(こちらも多分同じだったろう)。指さしてSくんに“アレがその松沢呉一”と言ったら、ウケたウケた。

 打ち合わせそのものは好展開。来年、洋モノ系の雑学ネタでシリーズもの企画を立ちあげることにする。これはひょっとしたら数年ごしの長期仕事になるかもしれぬ 。幻冬舎での私の本、売れるものと売れないものの差がハッキリ出ているという。『大猟奇』『世界の猟奇ショー』『脳天気教養図鑑』『古本マニア雑学ノート』は売れていて、『原子水母』『トンデモレディコミ』はイマイチらしい。要するに、幻冬舎に関しては、読者は純粋に“雑学”を求めて私の本を手にするらしい。

 そこから、参宮橋“くりくり”。団体客が入っていてエラい混雑、カウンターで食べる。もっとも、どの団体もすでに食事は峠を越したあたりなので、比較的待たずに料理は出てくる。白身魚のカルパッチョ、ルンピア(カニクリームを湯葉で巻いたもの)、トリッパ(イタリアで食べたものより濃厚)、子羊のロースト。歯を治療したばかりなので、噛むのに少し不便を感じる。お勧め醤油とローストチキンの油で漬けたマコモをサービスでつまませてくれたが、酒のツマミに最高。ワイン(この店オリジナルの高良美ワイン)一本と、ハートランドビール一本でかなり回る。今度一緒にメシ食いにいこう、とマスターのケンと絵里さんに言う。レストランの主人とメシ食いに行く約束するのも変なもんである。

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