22日
日曜日
サルトル佐助
フランスかぶれのインテリたちを、ドロンドロンと煙に巻く(歌・榎本健一)。朝方の夢、だだっ広い空港のような場所で、手足に磁力機械を装置して、アメンボのようにスイスイと移動するのを立川談之助が笑って見てる。目が覚めたら8時。肩もパンパン。やはり、あのような状態の親父を迎えることで緊張しているのか。それにしちゃ夢がノンキなものなり。朝食、ゆうべホテルから持ってきた果物。さすが京王プラザのスイート用の果物だけあって、どれも美味。就中カキが旨かった。
日記だけつけて、10時半、K子と家を出る。三千里薬局でまた親父用のものを買い、タクシーでホテル。母が間違えて夜用の薬を朝にのませたので、多少睡眠作用のあるものだったらしく、親父、いささかボーッとしている感じ。それでも、JPSの日本各地の支部長たち、二十名ほどが部屋に入ってくると、表情がシャキッとして、みんなに手をあげて挨拶していた。母はほとんど寝ていないらしいが、それでもハリ切りまくっている。
なをきにポーランドみやげを渡し、代わりにあっち夫婦からタイみやげのゲイ雑誌をもらう。かたやアウシュビッツだのスペコラだの、かたやホモ雑誌というやりとりに母が呆れて、JPSのエライさんたちが来たときはわれわれは“一族の恥部”と言 われて、次の間に追い出される。星さんがその毒舌に呆れていた。まあ、一般の家庭 の会話ではないわなあ。
日曜のことで、ホテルは結婚式だの会合だので大混雑。11時半、ユーコと星さんを連れて、早めに昼飯をとらせる。地下の中華料理『南園』。中華ランチなど、と馬鹿にしていたら、これがなかなか結構な味。紅で染めたチャーシューと炙り鶏の前菜が大変に柔らかく、次の魚と豆腐のスープは少し塩味がキツかったが、牛肉のオイスターソース炒めが絶品。油条を薄切りにして混ぜているのが歯触りの面白さを生んでいる。エビチリはまあ、どこにでもある味であるが、これにもワンタンの皮の揚げたのを入れて歯触りを考えているのがよろしい。3400円。K子とよしこさんは年末の帰省の予定を立てている。女房たちが事務好きなもので、われわれ夫どもは楽でよ ろしい。
1時過ぎ、親父を連れて控室に入る。ベランダで、結婚式を挙げるカップルの記念撮影が行われているのをみんなで眺める。よしこさん、“やさしそうだけど年収の少なそうな新郎だねえ”。親父が会場入りするのについていく。豪貴が来ていて、親父を落ち着かない様子で見ていた。心配なんだろう。会場から、親父に盛大な拍手。手 をふって答える。天皇陛下みたいだ。会そのものは、われわれと無縁な一般人の会合 なので、なをき夫婦がロコツに退屈そうな顔になる。親父の写真撮り終わったK子と合流して、星さんに挨拶し、われわれは解散。ここで2時。
新宿でK子と別れ、後楽園のマンガ史研究会場へ。日本シリーズ第二戦でえらい混雑。会場に着いてから確かめたら、ここは夜の部の会場であり、昼の部は春日の文京区センターが会場だった。なぜ、向かっている最中に確認しないかと思うだろうが、この、確認の作業が、行動としては簡単(尻ポケットからメモを出して見ればいい)なのに、精神的には極めてオックウなのである。ウスウス、違う場所だったかも、という予感はあったのだが、それは着いて、違うことがわかってから確認した方が気分的に楽だ、という気がするのである。春日までタクシーに乗り、なんとか3時ちょい前には到着して、途中から討論に参加。
今日は昭和四○年代オタク番組の、裏番組との関係がテーマ。まだビデオがなかった時代においては、アニメや特撮番組の、見ていたものの裏番がいったい何であったか、という問題は実は重要で、視聴率に大きな関係があることは勿論、『宇宙戦艦ヤマト』と『猿の軍団』、『海のトリトン』と『快傑ライオン丸』など、オモテとウラのどちらを選択したかで、その後の人生に大きな影響を与える大選択となる場合すらあったのである。会員の一人が東映作品の、実に詳しい裏番組対称表を製作してくれている。これを見ると、呆れたことに黄金期の東映テレビ部は、『コンドールマン』と『刑事くん(サードシーズン)』などを、同時間帯に別局で放映していた、などということがわかる。ここから、このため『コンドールマン』は東映ヒーローものでありながら東映製作をうたえず、主流の流れから外された原因なのだろう、という事実が浮かんでくる。私がこの勉強会が好きなのは、テーマを大上段にふりかぶらず、こういう、細かい、しかしアニメ・特撮文化を語る際の重要なファクターとなる研究発表を地道に行っていることなのだ。大衆文化研究の、これは基礎となるべき態度だと言えよう。ただし、今日は秋の行事多々シーズンの日曜ということで、他の予定とカチあって欠席したメンバーも多く、多くのテーマは次回に持ち越し、ということで、ほとんどはオタク的噂ばなしに終始。昨日今日と、一般人の会話ばかりしていて神経が張っていたので、体じゅうのシコリがほぐれるような気分だった。
この会のメイン講師の平山亨さん、会の終わり頃にやっと到着。表と裏、という話で、『変身忍者嵐』が、番組開始時は裏の『ウルトラマンエース』を視聴率でわずかながら上回っていたというエピソードを紹介。このままぶっちぎれ、と勢込んだら、間に一回サッカーの特番がはさまってしまい、その次の回からエースに大きく水をあけられてしまったとか。歴史のイフで、もしこの特番がなく、嵐に視聴率で敗退していたら、ウルトラシリーズは次の作品がどうなっていたか? などということを考えると楽しい。平山氏、ビデマの酒徳ごうわく氏などと、テレビ埼玉でヒロインもの番組『侵略美少女ミリ』を製作することになったという。主演は故・山口“ライダーマン”暁氏の長女、貴子。12月3日から深夜0時半から10分間の番組。
実はこの後、『少女椿』で知られる紙芝居実演の秋山呆栄氏を囲んでの勉強会が後楽園であり(最初に間違えていったのはこちらの会場)、そっちが今日のメインだったのだが、なにしろ行事ぎっしりなので秋山氏には後で個人的にご面晤を得られるよう、主催者の本間氏に頼んで、失礼し、そのまま上野のお江戸広小路亭、神田陽司の会『講談革命陽司R』に行く。『虎仮面伊達裏切』という、ギタレレでの弾き語りが入るという一編と、歴史講談『史記縁起〜司馬遷』の二演目。水民玉蘭さんはじめ、三十人ほど。もう少し入ってもいい会なんだが、やはり講談というのは現在マイナーな芸か。『虎仮面』はもちろん、タイガーマスク物語であるが、本物のゴングを持ち出したり、主題歌を歌ったりと大奮闘。ただし、話が講談であることにこだわり過ぎで、型を壊し切れていない、という感じ。やるなら、かつての実検落語が落語というものを型からブチ壊したように、徹底して講談という原型を止めぬまでにしなくては革命というタイトルには価しない、と思う。二席目の『司馬遷』の方は、途中いささかあぶなっかしいところもあったけど、ラストで少しふるえが来た。旧来の講談の、クサさを基調とした感動とは別の文学的感動を、この人は演じ得る人だと思う。帰りに楽屋口で“ぜひ二人会やりましょう”と催促される。来年はひとつ、大いに。
K子に携帯で電話し、9時、参宮橋のくりくり。今日は空いていて、楽に食べられた。焼き野菜、ここの家庭菜園でとれた野菜をオーヴンで焼いただけだが、甘味がありとてもおいしい。他に鱈のカレーソース煮、タルタルステーキ、クスクス。途中から入ってきた客が、日本シリーズ第二戦、ダイエーが連続逆転勝利と伝える。アンチ巨人同士で、マスターのケンと喜びあう。巨人キチの陽司は残念無念だろう。携帯で札幌に電話。ちょうど帰って、親父を寝つかせたところ。大満足の母親としばらく語 る。