21日
火曜日
のり平の森
「1987年、37歳になった主人公の”僕”は、ハンブルク空港に到着した
飛行機の中で桃屋の『江戸むらさき』を食べ、18年前に死んだある女性の
ことを思い出す」
※アスペクト原稿 ルナティック演劇祭開幕
朝5時に目が覚めてしまい、そのままベッドでぐずぐずと。
『ベルツ日記』も今日読んだところは面白くなし。
加藤耕一『幽霊屋敷の文化史』(講談社新書)にもちょっと手を出す。
書評委員をまだ続けていたら、絶対橋爪先生と取り合いに
なった本であろう。
9時半、朝食。
どんよりと曇った天気で、私も母もあまり機嫌がよろしくない。
林真須美被告、最高裁で上告棄却、死刑確定。
状況証拠のみでの死刑判決に対し、ネット等ではかなり疑問の声が
あがっている様子。確かにその意見にも一理あり。
ただ、事件が起きた当時、現地を知るタクシーの運転手さんに、こんな
話を聞いた。
「“疑わしきは罰せず”というけど、“疑わしい”のレベルが東京と
田舎じゃまるで違う。あそこの地区は家が67戸しかない、
本当に小さい集落でしてね。全部の住人が顔見知りなんですよ。
もちろん、知らない人間がぶらりと立ち寄るようなところでもない。
林真須美に動機がないというなら、じゃ、他の誰に動機があるか、
ヒ素を入れる可能性があるか、そもそもヒ素なんてものを置いてある
家が他にあるかということになれば、まず彼女以外ありえない。
警察も当然、あそこの住民のことなどは調べ尽くしているはずで、
消去法で言ってもあの夫婦以外には考えられんのですわ。
自白がないから、状況証拠しかないからというので林真須美が無罪
にでもなれば、あの地区の住民たちは法律というものに大きな不信を
抱くことになるでしょうね」
私はこの事件に対してさしたる興味があるわけでなく、資料全てに
目を通しているわけでもないので判断は差し置くとして、この言葉は
都会住いの人間の盲点をついていると言っていい。
そう言えば、ニュースのコメントで、たぶん同地区の住人だろう、
あの夫婦が逮捕されてから、同地区がとても静かになった、と
書いている人がいた。それまでは新聞配達の高校生が刺されたり、
火の気のない空き家が全焼したりと、怪しげな事件がやたら起こって
いたのが、逮捕以来、ぱったりとそういうことが無くなって
静かになった、と。何か背筋がゾクッとくる報告であった。
雨がかなり強く降り出した。
原稿書き、これでまるで進まなくなるが、何とか頑張って昼までに
アスペクト原稿とアンケートを書いて送る。
すぐK田くんから受け取りと、内容充実、という褒め言葉。
調子悪いときに書いた方が原稿というのはいいのか?
別にカレーカレーとテレビで連呼していたからではないだろうが
無性にカレーが食べたくなり、新宿に用事が出来て出たついでに
王ろじに久しぶりで入って、とん丼(カツカレー丼)を食う。
うまいが豚汁を飲んだら汗がバーッと吹き出てきた。
6時半、下北沢。ルナティック・サーキット演劇祭初日。
小劇事務所でハッシー、本多さんと打ち合わせ。
ひとつ、ハッシーから今年後半のCSの仕事を頼まれた。
それから楽園で、劇団『母性本能プロラクチン』公演
『幽体離脱、加奈子サン』を観劇。初日だということで
ハッシー、本多さんと三人、舞台に立って挨拶をする。
で、客席で観劇。一応審査員なので、あまり内容に日記では
立ち入らないが、私の一番の観劇ポイントが
「この、特殊な劇場の作りをどう活用しているか」
であったが、そこは十二分に合格点。
キャラにも笑える人がいた。お客がなぜもっと笑わないかと
思ったのだが、ルナのように笑うことを当然と客も思っている
劇団とはたぶん、違うのだろう。
この演劇祭、スタッフは全てルナのメンバーが行い、
参加劇団は芝居に没頭できるのが特徴。これが新たなつながりに
発展していってほしいと思う。
ハッシー、T田くん、本多さん、琴ちゃんと文福でちょっと飲み。
出て、ハッシーとキタザワで軽く飲んで帰宅。
タクシーの中で、ハッシーに
「オレは芝居を書きたいわけでも演出をしたいわけでも、まして
自分の劇団を持ちたいわけでもない。ただ、舞台で芝居を演じたい
だけなんだよ」
と言って呆れられる。
帰宅後、昼用の弁当をサカナに飲みたし。マッコリサワー二杯。
ネットで清水由貴子自殺の報。
歌手デビュー当時のどこか薄幸そうな雰囲気と、やがてドラマで
演じていた気の強そうなおばさん役のギャップにとまどったものだが。
ジャガーズの岡本信の孤独死といい、歌手として人生をまっとうする
ことの難しさを感じる。