裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

金曜日

馬並家の一族

「佐清! そのゴムを、とっておやり!」(松子夫人)

※NHK打ち合せ どどいつ文庫 朝日書評原稿 東京中低域ライブ

朝食は10時、と言っておいたのでゆっくり寝られるが、
それにしても二日酔いと肩の凝りひどし。
9時にフラフラしながら起床、入浴して何とか調子を
取り戻した。
ホルモン道場などという安い店で三人で支払いが二万以上に
なった、というのは相当飲んだのであろう。

10時15分、母の室で瀬戸香半顆、イチゴ三粒、
青汁とミルクティー、それにコーンスープ。
自室の窓から見える向いの家の桜、早くも葉が出てきた。

リチャード・ウィドマーク死去の報、93歳。
うかつながら、とうに亡くなったと思っていた。
手塚治虫の漫画に登場するスカンク草井のモデルになった
ことは有名だが、あのキャラクターが発する“へへ へへ”
という笑いは映画『死の接吻』(1947)で彼が演じたキャラ、
トミー・ユードーが発するもので、ハイエナ・ラフィングと
呼ばれていた。
http://jp.youtube.com/watch?v=A6XQMxXgfos
↑本家ハイエナ・ラフィング。

われわれの世代だと『オリエント急行殺人事件』(1974)
あたりからリアルタイムでこの人を見ているが、
キネマ旬報で双葉十三郎だったか誰だったか、オールドファンが
「せっかくリチャード・ウィドマークを使っているのに
ハイエナ・ラフィングをさせていない。これがビリー・ワイルダー
だったら必ずさせますよ」
と文句を言っていたのに笑った記憶がある。
それくらい、あの笑いは当時の映画ファンにとり強烈な印象を
残したのである。

もちろん、そういう悪役にとどまらず刑事も正義の人も
山ほど演じた。定年間近の老刑事、というのも後期の持ち役であり、
テレビでいろいろ見まくったが、脚本家もウィドマークが主役と
なると張り切るのだろう、ラストシーンに印象的なものが多かった。

『刑事マディガン』のテレビの方だったか、追いかけている
犯人の唯一の手がかりが“ホットドッグに砂糖をかけて食べる
癖がある”ということだけ、という奇抜なものがあり、
主人公はそれを追ううちもっと大掛かりな事件に巻き込まれるのだが、
全てそれが解決したあと、くたびれきって街を歩いていて、
ふと見かけたホットドッグの屋台で、客が“砂糖をくれ”と
頼んでいるのを見かけ、大事件の方を解決したときよりも
ずっと嬉しそうな表情になって、“お前を逮捕する!”と叫ぶ
やつがあった。大塚周夫の吹き替えが決まり過ぎるほど決まって
いたなあ。

昼は昨日小田急で買い求めたうなぎおこわの握り飯一ヶ。
それに加賀屋の赤カブ漬け。
腹が減るがまあ、我慢。
日記つけ、メール連絡いくつか。
NHKのYくんから打ち合せ依頼、じゃあ、とすぐ家を出る。

ベラミでYくんと打ち合せ。
彼のやっている番組で秋口に大きめの企画一本、と
思っていたが、5月にとりあえず出演だけでも、という依頼。
Yくん、やっとNHKで居所を得たか、とにかく忙しいらしい。
とはいえ、花見を奥さんにせっつかれているようである。
「最近、打ち合せに行くと“あ、あなたが裏モノ日記に出てくる
Yさんですね!”言われることがあるんです」
という話に笑う。業界のアクセス率、高いからねえ。

事務所に帰り、どどいつ文庫さんを待つ。
すぐ来て、トンデモ本大賞の話とか。
ちんちん先生も来るという話だったが来たらず。
例により変な本いろいろ。
1930年代からの中国製爆竹の箱コレクションの写真集が
いい。いかにも安っぽい絵と印刷だが、それが凄くいい味なのだ。
お祝い事のときに爆竹を鳴らして邪気を祓う風習は中国ばかりでなく、
アメリカやヨーロッパ各国にも定着しているが、日本では
長崎くらいにしか伝わっていないのはどういうわけなのか。

話している最中に某社から電話。
ボツになった企画の話。平身低頭されるが、
まあこれは私の責任でなく、向うの事情。予想していたから問題なし。
それより、似たテーマでこれこれの企画があるから
今度担当紹介してよ、と話して、前向きな回答を得る。
こっちの方がおいしい話かも。
どどいつさん帰った後は原稿。
朝日の書評、500文字のものを書き上げる。
書き出しに迷って二日、完成が延びてしまったが、
最終的にベストのものを選べたという感じはする。
もっとも500字ものはとにかく、限られた字数の中に
言いたいことを詰め込むだけでキュウキュウで、
その書き出しも文字を削りに削って、結局意味がやっと
取れる、くらいのものになってしまうんだが。
ところで、ちょっと日記で調べたら、先月の28日も
どどいつさん帰った後に朝日の書評を書いている。

オノはまだ、昨日の焼酎が残っていて調子悪いとのこと。
私はすっかり回復したが、やはり帽子とかズボンがまだ
ニンニク臭い(ニンニク焼きをお代わりまでしてむさぼり食った)。
下北沢に早めについたので、薬局で消臭剤を買って
吹きつけ、なんとか臭いを消す。

駅で麻衣夢ちゃんと待ち合わせ、こないだ八起に彼女と一緒に
行った東京中低域のテキスタイルカウンシルツアー2008。
あいにくの雨もよいの中、向かう。
中低域のライブは、なにしろメンバーの数が多いので大抵の
ライブハウスの楽屋には入り切れず、外をぶらぶらしている
ことが多いので、誰かかれかに必ず会う(だから強度方向音痴の
私が、域のライブでは迷ったことがない)。
今回は鶴田純一くんが団子屋に入っていくところを目撃。

早めに入って、前の方の席に陣取り、松本健一さん(こないだの
焼肉会には来れなかったので、麻衣夢ちゃんとは二年ぶり)などと
話しながら待つうちに、お客さん陸続と。最終的には100人以上が
入って、かなりのギュウギュウ状態であった(テーブル席を前の方に
ずらしたくらい)。

中低域のライブはいつも、力が入っているんだか入っていないんだか
よくわからぬグダグダ感があり、田中さんはステージで携帯かけてるし、
鬼頭さんはウイスキーのポケット瓶飲みながら演奏しているし、
まあ、バリサクから吹くたび泡盛の匂いが漂っていた前回よりは
ずっとマシであったが、やはりグダグダで大笑い。
しかし盛り上がりはこれまで聴いた中低域のライブでもかなり上位の方。
アヴァンギャルドな感じの演奏からポップなものまで、バリサクの
楽しさを満喫できて、最初は驚いて目を丸くしていた麻衣夢ちゃんも
最後は“あー、楽しかった!”と喜んでいた。
特に水谷さんの歌(ウィスパー唱法とでも呼びたい)を、
「不思議な声と歌詞と歌い方ですー!」
と。

今回は全体の演奏の他、ソロもいろいろ聴けてよかった。
エコーをかけた鈴木広志さんの演奏が印象的。
あと、田中邦和さんと後関好宏さんのペアの演奏のとき、
前もって渡した『御利益』のチラシを譜面台に置いて
宣伝までしてくれた。

バリトンサックスはデカいし、重い。最前列で吹いていた
鬼頭哲さんが、途中で“誰か吹いてみる?”と差し出して、
客の一人が吹くと言い出して受け取るのを、ちょっと手伝って持って
みたが、ずっしりと持ち重りがした。
首にかけたストラップで首の後ろが真っ赤になっている域員も
いて、やはり大変だなあ、と思う。
そのデカさを表わした名物Tシャツがあったが(写真)、
女性に評判が悪かったとかで(当たり前だ)、今回の新シャツは
だいぶ穏当になってしまった。ちょっと残念。
水谷さんが某有名曲のパロディで“オールユーニードイズスレイブ”
というタイトルの曲を歌っていたが、歌詞が
「君が僕の楽器を持ってくれたら嬉しいな」
であった。これはバリトンサックスなどという重い楽器をいつも
持って旅をしている人の、正直な感想なんだろう。

繰り返しのアンコールの後、みなさんに挨拶、写真撮影など。
鬼頭さんが麻衣夢ちゃんを
「オレの昔の彼女にソックリなんだよ〜!」
とわめいていた。
その後、さすがに前列でバリサクを聴き通しだと振動で
お腹が空いたので、すっかり晴れた夜空を眺めながら、
二人で『虎の子』へ。
金曜でどうかと思っていたが、幸い席が空いていた。
馬刺、スモークシシャモ、ゴルゴンゾラパスタなど。

桜の花はいい具合に満開。
Yくんたちとの花見を予約するが、そこまで持つかどうか。
この下北沢店は今年一杯で閉店なので、今回が最後の花見の
チャンスなのである。
麻衣夢ちゃんとは舞台のこと、今後のプロモートのことなどいろいろ
話す。途中からキミちゃんも加わって、なんだかんだ。
気がついたら1時を回っていた。

麻衣夢ちゃんを駅まで送って、私はもう一軒、と思ったが
現金を忘れてきたのに気がつき、仕方なくタクシーで帰宅。
花見の予定をみんなに連絡したり。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa