裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

木曜日

芭蕉発句集『サルコジ』

「初しぐれ猿も大統領夫人のヌード写真を欲しげなり」

※NHK−BS『とことん! 石ノ森章太郎』(第五夜)出演。

マペットの恐竜が学食でロックを歌う夢。
これ以上説明のしようがない。
そんな夢を見て8時半起床。
メールチェック。

9時起床、朝食、瀬戸香、ヨーグルト、コーンスープ。
桑田の引退、松井の結婚、どっちも興味ないようでいて、
やはり時代の移り変わりを感じる。
そう言えば読売新聞の原監督の写真を見て、
「まあ、いつの間にかこんな顔するようになったのねえ」
と母が言っていた。
昔は確かに、歯をみせた笑顔の写真しか見たことがなかった。

ネットニュースではコレに笑う。
「インターネット掲示板『2ちゃんねる』で言い争いになった男性を
メールで“殺す”と脅したとして、栃木県小山市の無職、金谷裕史
容疑者(28)が26日までに、脅迫の疑いで愛知県警西署に逮捕された。
2人はロボットやアニメキャラのフィギュア愛好家。お互いにネット上
で公開していた自作のでき栄えをめぐり批評し合っていたが、
金谷容疑者は“中傷されたので仕返しでやった”と供述している。
調べでは昨年5月16日、名古屋市職員の男性(38)に“おまえを
絶対に殺す”と275回書いたメール1通を送り、脅した疑い」

これも昨日の日記に書いた、世間と自己評価の乖離の問題。
つまりは、“世間は自分で思うほど自分を褒めてくれない”って
ことである。これをもっと教育しておいてくれ、若い世代には。
まず、そこから始まって、じゃ、どうするか、どうすれば
褒められようになるかを工夫するところから世の中ってものへの
関わりが発生するのである。

『御利益』、ラストまでの完成脚本がメールされる。
その他連絡いろいろ。
昼はカツオのヅケ飯。
原稿書きかけるが、途中で文章が気に入らず、
オールカット。

バスで新宿まで。
パスモにチャージしたり、小田急地下で買い物したり、
いろいろ金を使うことであった。
タクシーで渋谷まで。

先週までいろいろ重なっていたインタビューや
書いた記事などの掲載誌がまとめて届いていた。
『宝島』は、やけに急なインタビューだったにも関わらず
トップの扱いだったのに驚く。
『週刊朝日』は、とりとめのない話をうまくまとめてくれていた。
一応、表日記の方に告知しておく。
あと、『と学会年鑑AQUA』が届いていたので、
それも告知。

バーバラ、久しぶりに出社。
元気なようで安心。
原稿予定をちょっと打ち合せる。
6時25分、オノと事務所を出てNHKへ。
途次、マガジンハウスから電話。
そのまま進めちゃってください、と答えておく。

一昨日と同じくYさん迎えてくれて控室へ。
ちょうど島本和彦さんも入ったところだったので、
挨拶。いきなり強く手を握ってきて、
「お会いしたかったんですよォ! 本日はよろしく!」
という挨拶は、たぶん島本さんならこういう挨拶をするだろうと
思っていた通りの、何というかキャラに忠実な感じが
いかにもであった。

弁当が部屋に用意されていたので食べようとしたら
箸がない。こういうミスも珍しくはないか。
オノが食堂に走って、そこのプラスチックの箸を調達してきた。
『ちりとてちん』の最終回、弁当に箸を忘れたことに対し
「なくなって初めて分かるお箸のありがた味ですやな。
お箸は食卓の脇役や。ほやけど、どんなごちそうが並んどっても、
お箸がないと食べられん。……なくてはならん名脇役なんや」
と絲子(和久井映見)が言うセリフが話題になったが、
NHK、それを実践したか?

打ち合せ会議室で、阿木曜子さんに挨拶。
島本さん、『仮面ライダーブラック』のデモテープ、
宇崎竜童さんが歌っているのがあったら聞きたい!
と阿木さんに熱くお願いしていた。
例によって、ものすごく簡単な打ち合せ。
島本さんが“え、もう?”と驚いたくらい早く終わる。
30年前の、私と石森先生の出会いのことなど話したくらい。

で、メイクしていきなりスタジオ入り。斎藤アナが、
「今日は詰め込みすぎでスタジオでの語りがあまり時間
取れないんですよ、すいません」
とあやまってくる。
藤子不二雄A氏とさいとう・たかを氏の対談が23分もある
長いものなのが原因か。
まあ、今日は島本さんが熱く語るだろうから、私はまとめで
一言いうキャラに徹しよう。

そう思っていたのがよかったか、『化粧師』について語った
ところでは島本さんが
「上手くまとめるもんですねえ!」
と熱く感心してくれた。
服もちょうど白と黒、と対照的。
島本さんの熱さに対し、私はクールに、クールに。
「仮面をかぶったり、化粧をしたりして作り出すアイデンティティ」
「(私や島本さんの世代にとっては)リアルタイムで成長の
度合いを見せてくれた作家」
「自分に向けて、ファンに向けて、そして後継者に向けて、
という、三回の“変身”を経て作品を描いていた」
など、キャッチコピー的に話す。

石森作品のファンであるが故に、石森原作のアニメは、
実は私はそんなに評価していない。
実のところ、藤子A氏が石森作品を“一幅の絵”と評していた
ように、氏の作品は構図と、コマとコマの間にある変化の
緩急にあるので、一続きの絵になるアニメでは、その魅力が
十全に出ないのである。

そこらへん、技術は未熟だが、68年の『佐武と市』が、
石森作品のその魅力を何とか出したいと(演出・鈴木伸一)
いろいろ実験をしていたのが印象的。
結果としてヌーヴェルヴァーグの影響モロ、という感じに
なっている。ただし、石森作品のモンタージュは元祖
ヌーヴェルヴァーグからだが、アニメの方はその影響下にある
ATG映画のさらに影響っぽい。
ナレーション(というより話の進行役、というくらい
語りの量が多い)が小林昭二、佐武に冨山敬、市に大宮悌二、
ゲストが永井一郎、広川太一郎、小林清という豪華さに
みんな圧倒。これに比べると『009ノ1』は釈由美子が
意外なまでに奮闘しているとはいえ、他の女性諜報員たちの
役の声優さんたちがみんな釈由美子と同じ調子、同じような声質
でしゃべるので、聞き分けが効かない。
昔だったらひと目(ではない、ひと耳……てのも変だな)で
わかるようなキャラの異ったの声優さんをこういう場合当てるのだが、
これはキャスティングのミスなのか、それとも今の女性声優に
それだけの個性を持った人がいないというだけの話か。
『スカルマン』も、島本さんのでないから、やたら辛気臭いだけ。

それにしてもホントに時間がない。
アシスタントの夏川純さんなんか、可愛そうにほとんど出番が
なかった感じ。
最初聞いていたところでは、今回は最後の『スカルマン』の
ビデオが流れたところでゲストの登場シーンは終わりで、
〆は斎藤アナと夏川さんだけで、ということだったが、
結局最後までいることに変更。
島本さんと、
「七日やるなら、六日はビデオだけ流して、最後の一日は
朝までしゃべらせてくれる構成の方がよかったんじゃないか」
などと話す。
阿木さんはもっとトんだ方かと思ったら、石森先生との
想い出を語った後、“もうお会いできないと思うと……”と、
涙を拭くなど、すごくフツーの人だった。

『佐武と市』では“どめくら”“みなしご”などがカット。
そのくせ、『化粧師』では少女が“あたいを買って”と
主人公に裸になってせまるシーンや、『009ノ1』の
ベッドシーン、レズシーンなどはそのまま放映。
斎藤アナと“いいんですかね、NHKとしてこれ流して”と会話。

〆で、“今日はちょっと微妙な作品もありましたが”と
言ったら、島本さん大声で“ほう!”と。
“言っちゃいますか、それ!”という叫びであろう(ホントは
さらりと言って流したかったが反応されてしまった)。
あまりに礼賛に終始していては評論家という肩書きで出た意味が
なくなる。これだけはきちんと言わなくては。

メイク落としのあと、熱い握手で島本さんと別れる。
「残念だなあ、入れ替わり出演みたいな形で」
と熱く言われる。本当はもっと意見を熱くぶつけて論争など
したかったらしい。札幌でのトークライブをやる機会があったら
ぜひご一緒に、と言っておく。
熱い人だよ、本当に。

クールなキャラもオノやYさんなどに評判よし。ただし、今回の
番組では、“語る人があまりいないのでカラサワさんにお願い
するしか”と言われると断れないが、地味目な回にばかりの
出演だったのはちょっとフラストレーションのたまることで
あった。シゴトはきちんとしたので、次はUくんに、もっと
メインで語らせろと要求しよう。

タクシー出してもらい、吉祥寺へ。
一昨日の運転手さんが若い、あまり詳しくない人だったのに
比べ今日はベテランさんで、やけに早く到着。
ホルモン道場でマドと合流、なんだかんだ話しながら
ホルモンと黒ホッピー。
ホルモンはイマイチだったが、ジンギスカンと称するラムが
美味かった。店内に、おとつい一緒だった松村邦洋が来店した
ときの写真が貼ってあった。焼酎が、何をベースにしているんだか、
やたら口当たりよくクイクイ行ってしまい、
店を出るときの記憶アヤフヤ。
タクシーで帰宅、曲るところを教え損ない、かなりの
距離をバックランしてもらった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa