裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

日曜日

御聖断アドベンチャー

終戦の御聖断が下ったときは、もう国中、船がひっくり返ったような騒ぎで……。

※全身倦怠、何もせず

朝、8時起床。入浴、カカト削り。9時母の室で朝食、リンゴとイチゴ。降圧剤のんでいるのでグレープフルーツはいけないだろう、ということで。

そのまんま東が宮崎県知事選、圧勝。いや、参った。完全に予想外れ。それだけ宮崎県民が、これまでの政治のしがらみに徹底して嫌気がさしていたということだろう。

あえて『社会派くん』視線で言うと、『新・人国記』(岩波文庫)に曰く、日向(宮崎)の県民性は
「己が理とみる時は、非と云ふ人ありといへども、曽て用ひず」
であり、全マスコミが東氏を叩いても、いや、叩くからこそ、彼に票が集まったとみていいだろう。さらに『新・人国記』に曰く(私が言ったんじゃないですよ!)
「人倫の道理を知らざること、歎くべき所なり」
……じゃあ、あの程度の不祥事なんて問題にされないか。

自室に戻って、グレープフルーツが本当に降圧剤と禁忌なのか、と思い調べてみる。
http://www.chuckwil.com/crowsnest/iryo/iryo99/99_7.html
↑ここによれば、
「限られた種類の薬剤服用時に、水変わりにグレープフルーツジュースを同時に飲んで過度の血圧降下を見たというわずかな報告例があるのみで、幸いなことに、騒がれているほどの実例を聞きませんし、私自身も経験しておりません。天然の物資では阻害物質のばらつきが大きく、このような反応は個人によって感受性が大きく異なることが指摘されています」
とのことなので、まず安心か(もっとも、このコラムの筆者が30年間朝食にグレープフルーツを欠かしたことがないという人なので、好意的に書かれている可能性もある)。

日記をつけていたら急に眠くなる。もし、朝にグレープフルーツを食べていたら、まさに過剰な血圧降下があったか、と疑われるところである。少しベッドにもぐりこむが、なんと2時間近く眠ってしまった。気圧の急激な変化のせいか?

起きて昼食。キャベツチャーハン。母もやはり急激な眠気に襲われたとか。風邪かもしれぬと、用心にユンケルを一本服用。明日の打ち合わせ用企画書を書かねばならないのだが、気力充実せず。日がな一日、ヘアブラシについた髪の毛をせっせと掃除したり、パソコンのキーボードを掃除したり。

このままだと一日外に出ないことになると思ったので、バスで中野駅まで。ちょいとブロードウェイを散策、それからピーコックで買い物。納豆売り場に行ってみると、まだ惰性続いているか、ほとんどの納豆売りきれだったのには驚いた。わが愛用の黒豆小粒も2パックしか残っておらず。急いで買う。

あっという間に夜になり、母の室で夕飯。つくね鍋。うまいうまい。仕事できなかったのは困るが、こういう平凡な一日もいい。しかし、こんな一日ばかりだったら10年20年もあっという間であろう。

テレビで『私を愛したスパイ』をやっている。私はこの映画が好きで、前に中野監督の日記で知ったイギリスのコメディアン、スティーブ・クーガンの『“007/私を愛したスパイ”をやたら熱く語る男』ネタも
http://www.youtube.com/watch?v=srA862GJ2JI
ひょっとしたら自分も出来るんじゃないかと思うくらいなので、ついつい、見てしまう。

で、この吹替えは去年11月に発売されたDVDのアルティメット・コレクション版の流用(ボンド:広川太一郎、アニア:安藤麻吹、ストロンバーグ:麦人)らしいのだが、食事の合間に聞いていても違和感バリバリ。翻訳が悪くてキャラクターが出ていないし、広川太一郎がボンドを意識しすぎで、台詞が重く、今回の作品におけるボンドの一番の特徴であるシャレっ気がまるで出ていない。

もともと、この『私を……』のボンドは、監督のルイス・ギルバートが、これまでのムーア・ボンドは少しショーン・コネリーを意識しすぎてハードに演じ、ムーアなりの特色が出ていなかった、と判断、ムーアの持つ“軽み”を全面に押し出した演出をしているのが特徴だった。だから、この吹替えは『ダンディ2・華麗な冒険』の調子(このときの広川さんはムーア役でなくトニー・カーティスの方だったけど)っぽくやっていいのである。いや、あそこまでやられては困るが。そういう調子でやるからこそ、恋人を殺した男をああも簡単に許し、それと寝てしまうバーバラ・バックの尻軽さも許せちゃうのである。

まあ、それくらいはいいが、巨大タンカーの司令室の装甲を破壊するために核ミサイルの弾頭部分を使うシーン、弾頭を外したときのボンドの
「プラスチック爆弾、プラスチック爆弾」
というセリフはなんだろう。

途中でチャンネルをNHK教育に変える。『芸術劇場』で実相寺監督の遺作であるハイドンのオペラ『月の世界』を紹介しているので見るためである。実相寺監督の生前のインタビューなどがあるかと思ったが残念ながらなかった。これ、お誘いがあって、観ることが出来たはずなのだが、通夜の翌日が講演で九州だったので観られなかった。残念。

見終わってまた007に戻る。終わった後、先ほどの“プラスチック爆弾”の謎を調べてみる。ROCKY江藤さんなどのご教示で、あそこでボンドがプラスチック爆弾を弾頭の起爆剤に用いていることはわかった。で、DVDで見返してみると、ボンドと潜水艦の技術将校が、弾頭にプラスチック爆弾を装備しているシーンで、技術将校と助手の兵が、
「6番のヒューズ」
「(はい)6番のヒューズ」
という風に、復唱しながら工具を手渡している。で、
「プラスチック爆弾」
「プラスチック爆弾」
という風に復唱して手渡ししているのだが、そこのシーンでは時限装置が映っていて、手渡しのシーンはない。その、本来なら将校と兵との間での会話を演出家がカン違いして
「プラスチック爆弾、プラスチック爆弾」
と広川太一郎に言わせてしまったのではないだろうか。

1時半就寝。もう一月も終盤、いろいろと起動させねばならぬこと多々。今日のような無為の一日がそのための休息になればいいのだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa