裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

水曜日

足フェチもいいけどカレーもね

うちのかみさん、美脚の上にカレーが得意料理なんだ(ちょっと苦しい受けだな)。

※またポワロで原稿進まず

朝8時起床。ゆうべの酒が残っていて、寝汗淋漓。入浴、服薬等。9時、母の室で朝食。イチゴ、ブドー、青豆スープ。春咲小紅がスープ飲みたいから正月に開田さんたちに混じって行く、とか言っていたが来なかったのは残念。

資料用読書、すぐ飽きて別の本を読みはじめてしまう。いかんいかんと思うが、このダレがまた正月ではある。しかし、やはり正月は来年はどこかの温泉で過ごしたい。いつもと同じ場所、同じ飯ではどうも節目の気がせぬ。

昼は今日からキャベツダイエット再開、キャベツチャーハン。卵がほどよい固さでおいしい。自室に帰り、またポワロ。『白昼の悪魔』は途中から、『ABC殺人事件』は丸々見てしまって、今日も何も出来ず。

『ABC〜』は昔、創元推理文庫版で読んだが、訳者がなんと堀田善衛だった。この人に限らず、東京創元社のミステリは驚くような人たちが翻訳していて、A・E・W・メースンの『矢の家』を福永武彦、イーデン・フィルポッツの『赤毛のレッドメーンズ』を大岡昇平(改訳版は宇野利泰)、クイーンの『Yの悲劇』を鮎川信夫、クリスティの『三幕の悲劇』を西脇順三郎、G・K・チェスタトンのブラウン神父シリーズを福田恒存(中村保男と共訳)、『木曜の男』を吉田健一、E・S・ガードナーの『幸運な足の娘』を林房雄、ジョルジュ・シムノンの『サン・フィアクルの殺人』を中村真一郎、同じくシムノンの『怪盗レトン』、『港の酒場で』を木村庄三郎が訳している。あの“電波ゆんゆん”の宗左近までシムノンを数作、訳しているのである。もちろん、中には名前貸しだけの人もいるだろうが、翻訳推理小説を日本のまず、知識人に根付かせようという戦略だったのかもしれない。

主要登場人物であるアレクサンダー・ボナパルト・カスト(ドナルド・サンプター)の声を矢田稔がやっていた。老人声になってはいたが、子供時代『鉄人28号』の敷島博士でおなじみになって以来、つまり人生最初期にその名を覚えた声優の一人である。なんとも言えぬ懐かしさを感じる。

見終わって(結局最後まで見てしまった)仕事場に出かけ、年賀状などの整理。元・女優の某ちゃんからは丸々とした赤ん坊の写真。また、声の仕事でだけでも復帰してくれないかなあ。悪夢は悪夢として片づけて。K子の師匠の庄司陽子先生からは
「御主人は大活躍ですね、いろんなところで見かけます」
という言葉に添えて
「K子の体調が心配です」
との言葉。何年たっても元・アシスタントはアシスタントなのであろう。これも微笑ましい。昔、担当してくれた編集者からも大分来ているがほぼ全員が、“今年はまた、何か一緒に”と書き添えてくれており、(社交辞令もあるだろうが)うれしいもの。

正月用に整頓した部屋(証拠写真が下に。足の踏み場があるだけで上々)の、本棚の整理を少し。ばらばらになっている巻数のものを揃えたり、執筆にしょっちゅう使う本をまとめてみたり。しかし、山を整理するたびに、ダブり買いのものが出てくるのは嫌になる。買ったことはわかっていて、どこにあるかわからないので(仕事に使うために)ダブって買うのはまだいいが、かなり大きな買い物となる本なのに、持っていることに全然記憶がなく、また買ってしまうような本(CD、DVD)のいかに多き。

7時半まで整理に費やし、帰宅。8時半ころ、母の室で夕食。豚ちり。昨日のすき焼きも結構だが、豚ちりの方がどちらかというと好み。しかし、何を食べたいか、と空腹時に思いを馳せると、圧倒的に“すき焼き”になるのである。ここが不思議。TBSの、やたら長い題名のツタンカーメン発掘番組を見る。現地映像は力が入っているし、ドラマ部分は訳者がよくてまるで昼間のポワロものの続きみたいだったし、ツタンカーメンの呪い、のようなトンデモ説を“カーターが記事を特定の新聞に専属で書いていたため、やっかんだライバル紙が広めた噂だった”と暴露しているのもよし、暗殺説をCTスキャン解析を元に否定するなど、扇情的にならぬ番組作りもよし。ただし、スタジオでみのもんたが司会で、ゴリだの泉ピン子だのが出てくるトーク部分は全くの蛇足。専門家が一人もいない。こんなものはなくてもちゃんと視聴率とれる番組だと思うのだが、民放の作り手としては、こういう顔が揃わないと不安でしょうがないのだろうなあ。まあ、私などもそれでお仕事いただいたりしているわけで、あまりケナすのは天に唾する行為だということはわかっているが、この番組のは司会のみのはじめ、ダレひとりエジプトやピラミッドに関係ありそうな(興味ももっていそうな)メンツがいないのがひどかった。

自室に帰って、クリスティつながりで、『ミス・マープル/寄宿舎の殺人』(1963)見る。こうなったらクリスティ漬け正月で。マーガレット・ラザフォードのマープルはどうも毎回、求婚されるのがお決まりらしく、前に見た『夜行特急の殺人』ではジェームズ・ロバートソン・ジャスティスに、今回はロバート・モーレイに求婚されて断っていた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa