19日
土曜日
旦那旦那、右寄りな話がありますぜ
安倍は総理になっても靖国に参拝するそうですぜ。
朝方、面倒な案件を何度も何度も、繰り返し人に説明する夢を見る。
夏バテが体でなく精神状態に来ているな。もっともこの年でこの忙しさで、体にどこかガタがこない方がおかしい。水道橋博士に勧められた加圧治療というのをやってみたいと思うのだが……。
土曜なので今日から母が帰ってきて朝飯は元通り、かと思ったらまだ帰ってきていないようだ。K子の食パンを一枚もらってトーストし、
こないだスーパーで買った残りのハムカツをはさんでカツサンドにして噛る。
ジョンベネ殺害犯と報じられたカー容疑者、やはりその後の調べで怪しいところがボロボロと出てきているようである。世界のペドにとって、ジョンベネ殺害犯というのはヒーローであり、スターみたいな存在であり、妄想で自分が犯人、と名乗ることというのはありがちなことなのではないか。
日記つけ、原稿書きなどして午前中は過ごす。3時過ぎ、そう言えば今日は梅里で『柳柊二展』だった、明日までだが明日は講演でいないので行けないし、と思い出し、急いで支度して出かける。新高円寺で降りたがよく位置がわからずウロウロしていたら、パイデザ夫妻に声をかけられた。昼飯を食いにここらまで出ていたらしい。新中野からは歩いても30分以上かかるだろう。この暑い中、うまい昼飯を求める執念(?)に感心。おかげで道を聞けて、助かった。
小さなビルの二階にある小さなスペースでやっていた柳柊二展、主催者の大橋博之氏と挨拶。20点ほどの展示物を見せてもらう。
「これが見られるといいな」
と思っていた、少年マガジンの『大魔境』特集での、人見十吉シリーズ(香山滋の秘境もの)を“当然のことながら”大伴昌司監修で紹介したものに柳氏が挿し絵をつけたもの、なかでも『軟体人間の沼(エル・ドラドオ)』の挿し絵があった(展示されていたのは複製だったが原画を出して見せていただいた)。のに狂喜、涙々。当時私は小学校5年かそこらだったと思うが、この特集でこういう小説世界があることを知って、後に書店で桃源社版の作品集を買い、その妖しの世界にとらわれていった。いわばカルトの門を押し開いてくれたのがこのイラストだったのだ。
柳柊二という画家には子供のときから、雑誌や単行本の挿絵でおなじみだったが、名字と名前の両方に樹木の名前が入っている、その奇妙な字面でも印象に残っていた(ヒイラギという漢字はこの人の名前で覚えたと思う)。
それにしてもこの人の絵は怖かった。当時は口絵イラストの黄金時代で小松崎茂、石原豪人、梶田達二、南村喬之、中西立太などの面々が筆を競っていたが、柳氏の挿絵が他の人に比べ際立っていたのはその“怖さ”であった。同じマガジンの特集口絵でも、石原豪人はカーニバル的な“陽”の要素をふんだんにちりばめていたのに対し、柳柊二は“陰”の人。描かれた妖怪より、それに襲われる人々の表情とかの方が印象的で怖かった(今回の展示の絵でも、雪女の挿絵で、雪女そのものより、その吐息で凍死させられた老人の方がずっと印象的である)。『コナン』シリーズの挿し絵なども、早川の武部本一郎のものがヒロイック・ファンタジーそのものなのに対し、創元推理文庫の柳氏のそれはあきらかに怪奇がかっていた。
聞くところによると柳氏はこういう挿絵が別に自分で好きだったわけではなく、仕事と割り切って描きまくっていたらしい。だから、原画も整理も分類も何もなされておらず、ただ押し入れにまとめて突っ込んであったということで、数百点という分量はあるものの、膨大な柳氏の仕事量から言えば数十分の一に過ぎないだろう。散逸したそれらはどこに眠っているのだろうか。その捜索、また、何のメモもないために初出、タイトル、絵の意味など不明な多くの絵に関しては、ネットなどで、見覚えのある人たちの証言を集めるべき、と大橋さんに進言する。
ご本人の本当に描きたかったものが何だったのか、それはわからないが、しかし怪奇ものでもなんでもないはずの挿絵を見ても、そこには明らかな怪奇のムードが漂い、やはり、柳柊二の本領はここにある、としか思えない(『桃太郎』の挿絵を見せて貰ったが、いや、桃太郎がコワイこと)。人は時に、自認しているものとは違うところに真の才能がある場合がある。柳氏はその典型。
動物が柳氏は好きだったようで、確かに犬や馬、それから宇宙人に眠らされているリャマの絵のリャマなどの描写の正確さにはうならされる。それとは対照的に、怪獣・怪物などはずいぶんと思い切った現実離れな描写である。初出不明の絵でティラノサウルスの体にステゴサウルスの背びれ、そして首がキングギドラ、という奇妙な合体怪獣の絵があった。ここらのいいかげんさが逆に“黄金時代”というイメージをこちらに与える。ちなみに、柳氏の挿絵と言えば蛇、というくらい蛇はよく出てくるが、柳氏は蛇が何より嫌いだったとか。
1時間ほどしゃべって辞し、仕事場に帰る。ネットでこの展示会のこと、ちょっと宣伝。しばらく原稿書き、それから仕事場へ。夜8時まで、資料調べと雑原稿。幻冬舎トテカワと打ち合わせ時間の算段。明日講演先に持っていくモバイルのことでオノにメール。ちょっとマズいんじゃ、と思いついたことがあったのだが、支障ナシとのこと。よかった。
帰宅、母と久しぶりに夕食。ヤマノイモとジャコ和え、キンピラゴボウ。イカ刺しをご飯に乗っけてイカ丼にして食べる。缶ビール二本。早実の斎藤ってのは美少年だねえ、と話す。K子は今日、まずい居酒屋でオフ会だというので、帰ってきて口直しに食べるもの一品、作ってもらう。
自室に戻り、ホッピー飲みながらDVDで『日本のいちばん長い日』を見る。冒頭、“一部不適切な表現がありますが、著作物のオリジナル性を尊重しうんぬん”の表示が出るが、2時間38分の大作の中で、問題になるような表現というと
「国民はつんぼさじきに置かれていたが」
という一言だけしか気がつかなかった。言葉狩りというのは本当にアホらしい。
明日は早い(7時半発の新幹線)というのに深酒、しかも1時近くまでDVDを見てしまった。やはり岡本演出の迫力は人をして途中でスイッチを切らせない。見終わって、K子まだ帰ってきていないが先にベッドにもぐりこむ。