9日
水曜日
飛び梅をしばらく見ない
石田えりとて春な忘れそ。
朝6時半起床。雨、しげくはあるが台風的なものではなし。ただの大雨、というような感じ。『社会派くんがゆく!』8月分対談、また凄まじい分量があがってくる。急いで目を通し、つけ加える部分をつけ加える。オチのダジャレも考えて付け足し。
それから昨日電話が来た遅れに遅れの映画パンフ原稿5枚、大急ぎでアゲる。書いてみると筆がノリ、いい原稿になる。なんでこれを長々と引き伸ばしていたのかわからず。そんなもの。
8時半に朝食(母に昨日電話して30分繰り上げて貰った)を摂る。スイカ、モモ、青豆スープ。9時15分、他の雑用メールちゃっちゃと済まして、着替えを持ち外に出る。迎えのタクシーが待っていた。雨、この時間にはポツポツ状態にまでなっていた。オノも来て、一緒に砧の東宝撮影所まで。小一時間。
東宝撮影所の中に入り、アマゾンのスタッフに案内されて俗称“東宝サロン”という食堂みたいなところで待つ。ラーメンだのカツ丼だのを出す、普通の社員食堂みたいな
施設だが、大スターでも大監督でも、みんなここで打ち合わせをするので“東宝サロン”と呼ばれている。メニューの下を見たら、“東宝buffet”と書いてあった。ビュッフェねえ。
雨は一時的に止むが湿気はなはだし。中野昭慶監督、桜井浩子さんと挨拶。お二人とも久しぶり。大変に気軽に声をかけてくださり、
「カラサワさんとボクの対談で酒が出ないとは、このスタッフも気がきかないな!」
などと監督おっしゃる。お二人に猫三味線のサンプルDVDを進呈。へー、太秦で撮ったの、と中野監督。桜井さんは
「あら、またこんな怖いの撮って!」
と喜んでくれた。
着替えて自前でメイクもし(オノにアイブロウを借りた)、対談の準備。着替え室を用意してくれる。着替え室はちゃんとスタッフルームの入ってる建物にあったが『森田(芳光)組“用心棒”』『中田(秀夫)組“怪談”』『鶴橋(康夫)組“愛の流刑地”』など、どの部屋も新作の準備でぎっしり。映画産業はいま、上昇気流なのである。この砧の敷地内にも新しいスタジオの建設や新スタッフルームの入ったビルなども建設中で、工事車両が忙わしく出入りしていた。
まずは東宝本社ビルの前の噴水跡で撮影、それから大プールのあったホリゾントの前で三人で鼎談。水を満たすのに二週間かかる大プールを、
「三船(敏郎)さんが使うのだから水を入れ替えろ」
と俳優部が言い出して、昭慶監督が
「たかが一役者のために二週間撮影をストップさせる気か!」
と俳優部の部屋にどなり込んだ話など、昭慶監督の話がはずんで、どんどんビデオが回る。桜井さん、円谷さんの思い出を語って
「気さくな方でねえ、撮影所でもいつもスリッパばきで」
というと昭慶監督
「ありゃ、水虫だったからだよ」
と一蹴。桜井さん吹き出していた。
それから東宝の第五スタジオの中で円谷英二人形を囲んで鼎談。話が放っておくとすぐにインタビューとかでなく“親しい間のダベり”になっていき、桜井さんが
「東中野で飲んでるんじゃないんだから」
と呆れる場面も。番組中で使用するのは5分くらいに過ぎないのに1時間以上しゃべった。昭慶監督の
「ウルトラマンの股間について円谷英二が悩んだ話」
が爆笑もののエピソードで、監督も
「しかしこりゃNHKじゃ放送できないだろうなあ」
と言っていたが、アマゾンのMさんは“いや、最近のNHKはこれくらい大丈夫ですよ”と。放送なるか? 他にもゴジラのオチンチンに関してショーで子供からの質問を受けて円谷さんが絶句した話など、いろいろ。
もちろん、こんな話ばかりでなく、前回までに私が述べた持論を(打ち合わせナシなのに)補強してくれるような話を昭慶監督から得られたのは嬉しかった。
他にも『妖星ゴラス』の氷山の青い色はスタッフの履いていたスニーカーの青い布の色であること、円谷プロで飲ませていたビールがまずかったことなど、さまざまな話が出て、桜井さんが“これもったいないわ。唐沢さん、本にしてよ”と言う。とりあえずノーカットのビデオ貰う算段をオノがしたらしいので冬コミで同人誌でも出すか。
これで桜井さん、昭慶監督はアガり。ちょうどこの時が最もひどい降りで、大雨の中、お二人が出て行く。桜井さんに
「本当に今度三人で飲みたいからセッティングしてね!」
と念押しされる。どこかの店をチョイスするか。
さて、お二人はこれでアガりだが私はまだ半分、なのである。次回予告の場面を撮る。まるきりアドリブだったがディレクターのH氏に感心された。アマゾンM氏の運転するチェロキーで生田緑地公園の岡本太郎美術館に向かうが、その前に砧のレストランで食事。この時には雨はほとんど上がっていた。オノに
「先生、晴れ男なんじゃないですか」
と言われる。外での鼎談もちょうど雨の合間に収録できたし。
昼飯、5人限定サーロインステーキというのがメニューにある。どうぞ、食べていいですよとMさんおっしゃる(3500円)。悪いが今日は風邪っぴきの中、あと6時間以上ガンバらねばならないので遠慮なくいただくことに。さすがに柔らかい。
Mさんに、NHKの秘密兵器“Eメイク”マシーンのことを聞く。対談番組に出た某女優がラッシュを見て
「私の顔のシワを全部消して!」
と言ったことから発明された機械で、これを通すとどんなシワクチャな女優の顔も卵を剥いたようなつるんとした顔になるという。あと、今シーズンの『アニメ夜話』で、『エヴァンゲリオン』の総特集をやりたかったが、映画版の光の点滅シーンがテレビ放映の“ポケモン・コード”に引っかかって駄目になった(それで今回、私は出られなかった)話など。
食べ終って、ロケバスの後について川崎まで。ロケバスの助手席に円谷英二人形が座っているのに笑う。すれ違う自動車から見たらギョッとするだろう。岡本太郎美術館、かなりの山奥。自動車でここまで上れるとは思わなかった、という風な。
スタッフが撮影準備する間、ざっと美術館の展示を見て回る。展示物もいいが、館内のデザインが岡本太郎自身のテーマである、未来的なものと土俗なものとの融合というコンセプトに合っていて、居心地がいい。ウルトラシリーズ所期のコンセプトにも合致しているような感じ。メキシコで発見された大作『明日の神話』、見ていると何故か笑えてきてしまう。天性のユーモア性が原爆という重いテーマであっても、それを飲み込んで笑いという中に包んでしまうからか。
それから『ウルトラマンの伝説』展。ビデオで名場面集が流れるが、そこに出てくる怪獣の名前、及び並んでいるソフビの怪獣の名前を片端から全部言ってオノに呆れられる。オタクであるディレクターのHさんやプロデューサーのM氏も“それくらい常識でしょ”という顔をしている。昼の対談のときも、昭慶監督が
「ええと、ほら、何と言ったっけ、口をこう裂かれて殺される怪獣がいて」
と言うのに私が
「ああ、ゴロザウルスですね」
と即答してスタッフみんなが呆れていたときにHさんだけが大喜びしていたそうだが。
収録はお客さんの帰った閉館後になるので、控室で休む。ソファに横になって少し寝る。ステーキなんか食うから胃が少しもたれる。柄に合わぬぜいたくはするもんでなし。目が覚めたら雨はすっかりあがって午後の陽光がさしていた。確かにこりゃ晴れ男か。しかし、周囲に自然が豊富だなあ、と思うのは、控室のドアのところを見たら、小さなトカゲが押しつぶされて死んでいたこと。それを見つけて、オノに言ったら“いやー!”と、柄にもなく女性ぽく怖がる。
さて撮影、これがすぐ終ると思ったらなかなか手間取る。手間取る理由の一は私のノドの調子がちょっと(鼎談などではしゃぎすぎで)悪くなり、そっちに気をとられてトークがうまく出来ないこと。そしてそれ以上に、ディレクターのH氏が展示物の凄さにはしゃいで、一回のトークごとに撮影場所を変えること。さっきの東宝スタジオの中では全部同じ場所で話していたわけで、これは確実に趣味。しかも私のトークの中に漏れた怪獣名があると
「すいません、メトロン星人のことも入れてもう一回」
などとリテイクが出る。こっちも同じオタクとして
「おお、それはメトロンは絶対入れなきゃいけません、もう一回やりましょう」
などとノってリテイクするのだが、オノなどは
「どーでもいいじゃないスか、そんなの」
という顔をしていた。
こないだと同じく、予告編のときは『そのとき歴史が動いた』調になる。あと、ビデオへのつなぎのところの解説も松平アナ風な講談調になる。
全部終ったのが8時。7時終わりの予定だったので1時間オシになった。さすがにちょっとヘバる。またMさんのチェロキーで緑地公園の下まで送ってもらうが、夜道が完全に“山奥”という感じ。東京から数十分の場所なのに。
そこからタクシー出してもらう。メシ食いたいので、吉祥寺までにしてもらい、小一時間走って9時吉祥寺駅前。オノのお勧めの、英国風パブレストランへ。マドが席をとっていてくれた。ギネスで乾杯、その後はサミュエルスミスの(おれんちではいつもスタウトだが)ポーターを。仕事(それもキツい仕事)終えてのビールはうまい!
今日は9時15分に家を出て、仕事終えて帰っての乾杯が9時ちょうど。ほぼ12時間労働。オノ推薦のフイッシュ・アンド・チップス、それからロースト・ビーフ(グリンピースたっぷりのところが英国風)、さらにシェパーズ・パイ、いずれもうまい。ここで食べたら、
ロース・アンド・クラウンのものなどちょっと食えず。いい店を覚えた、といい気分になる。よもやま話をして11時ころ、タクシー乗って新中野に帰宅。
ノドの調子、全身の疲れ、やはりなかなかのもの。半身浴したかった
が何をする気にもならず、そのままベッドに倒れ込む。明日は明日でまたネイキッド・ロフトにゲスト。
明後日は『ポケット』の2本録り。
日曜日のコミケすら、それらの毎日の中に埋没してしまうほどの過密スケジュールである。