裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

金曜日

ウォークマン重信

音楽のよさはその行動性にあるんである。

朝7時起床。おいおい昨日は4時寝だぞ、と思うがまあ、起きられるのはよし。さまで眠くなし。これは公演中で気も体も興奮状態にあるからだろう。月曜にガタッとくると思われる。

9時朝食、カボチャスープとスイカはじっこ。稽古・公演とさんざ大きな声(しかも作り声)でセリフを言っているが、そこはしゃべりも稼業ゆえ、幸い枯れたりなどしておらず。とはいえ朝方は毎日、咳き込んだりタンがからんだりする。

特ダネで談笑見て、自室で原稿。仕事場のK子から催促メールあり。講談社モウラ、昨日の段階でオチたとのことだったが、何とか間に合う模様。ただしそのためには3時までに仕事場へ行き引用箇所コピーしてファックスし、そこから池袋向かわねばならず。なかなかタイトである。昨日来てくれた阿部能丸くんからメール。12時に弁当(ウナギメシ)使う。夏という感じでしみじみ味わう。

1時書き上げてメール、これでと思ったらさらにヤフーサイトの雑学原稿があった。これも超特急でアゲて、駆け出すように渋谷へ。ついたら2時、きていたバーバラと話しつつコピーとってファックス。あと幻冬舎に返すゲラ(『神聖喜劇』解説)カバンに押し込んで飛び出し、タクシー。運ちゃん(50歳くらい)が浅草生まれの生粋の江戸っ子で、そのしゃべりを楽しむ。顔はいかにも町人、という感じだが。誰かに似ていると思っていたら薬局新聞社のYくんにそっくりだった。Yくんは編集長にまでなって、会社を作ると言って退社した。その後、どうなったかなあ。

池袋あたりの渋滞で15分ほど遅刻。なかなか時間内に入れない。すでにダンスのナオシ始まっている。最後の“伝説の楽曲”のシーン、体が棒のように固くて無理矢理芝居しているがさて、どう見えているか。

楽屋入りすると時間があっという間にたつ。渡辺さん、楽屋に会話しながら戻ってくるとき、話の流れだろうが
「ウンコ」
と一言、言って入ってきた。それが例のやたらいい声なので笑いをかみ殺すのに苦労する。

佐々木、親川、渡辺、私で橋沢さんをネタにさんざ馬鹿ばなし。座長のことをここまでネタに出来る劇団というのもちょっと他にないのではないか。もちろん、それだけのことを言えるのは底に信頼と愛情あってのことなのではあるが、それをスレスレに超えかけるまでの内容のことを言い、それを踏みとどまる、あるいはオット、と一歩踏み越えてしまうあたりで大笑いしあう。オトナの集まり、という感じがする。

7時開演。モニターで見ていたら橋沢さんがやたらトチる。珍しいこともあると思っていたのだが、客席の前列で座席のことのトラブルがあったようで、そっちを気にしながらの芝居だったようだ。橋沢さんの出のところでよかった気がする。

昨日のダメ出しであったセリフ一つ加え、モンローの乾ちゃんとのかけあい、新ギャグ入れてやってみる。うまく行き、笑いもきちんととれた(まだもっと大きくなるだろうが)。前半、調子よし。お客さんもいいお客さんである。残念だったのは松ちゃん樋口ちゃんの犬猫とのやりとりでセリフがかぶったこと、伝説の楽曲のシーンで
「何やってる、早くしろい!」
のセリフのタイミングがかなり遅れてしまったこと。

上記タクシーの運ちゃんとパチンコ論で盛り上がったのだが、パチンコがやめられないのは“思った穴に入りそうで入らない”ことが理由である。芝居の魔力も、人間のやることで、必ず“思ったとおりに演じられない”部分があること、なのかもしれないと思ったことだった。

とにあれ、課題として菊ちゃんなどとあれやろ、これやろと話したプランは全部やった。まずまずの満足感。全身綿のようではあるが、これも脳内麻薬を誘発して、芝居をやめられなくする原因にもなっている。

ラストの『セルフコントロール』終って、エンディングの挨拶。菊ちゃんのアイデアで、警察三人組、出て行ってポーズをとったあと、敬礼して袖に行く。いい気分である。バックにならんだダンサー陣にケツをなでられたり、サスペンダーをひっぱられたりする。

お客出し。『ポケット!』のI井くん、ミリオンのYくんなど知りあいに挨拶。アンケートに私の演技を褒めたものあり、やはりうれしい。点の辛いオノも“昨日より格段にいい”と褒めていた。バーバラの娘のキョウカちゃんと写真撮る。親がアスカ、娘がキョウカというのはなかなか凄い。

アマゾンから追加で花束が届いていた。本をいつも大量に購入しているのでなのだろうか。と一瞬思ったが、『アニメ夜話』の方のアマゾンであった。

文化放送のUさんと、以前ジオサイトプロジェクトで一緒に前衛音楽家のP女史にヒドイ目にあった斎藤さんが来てくれた。二人とも私と仕事をした仲だがそれぞれ別個で知りあいで、しかも二人とも橋沢さんと仕事をした仲という関係。この業界というのは実は100人くらいしかいないのではないか、とさえ思える西手新九郎。飲むことにして、明日の確認終ってから、オノとマドと橋沢さんと、それに原田明希子ちゃんも誘って池袋パルコ口居酒屋『わん』。

斎藤さんと久闊を叙す。あいかわらずカン高い声でよくしゃべる。話し方も顔も松崎しげるを彷彿とさせるので、“シロマツ(白い松崎しげる)”と呼ぶことにする。われわれが行ったときはすでにホッピー入っていて、ほとんど彼の独演会。ジオサイトプロジェクトのときの、私の構成(『アリス・イン・アンダーグラウンド』)を絶賛してくれるが、シラフのときもう一度聞いてみたいものである。
「今日の舞台装置はよかった、こんなに金のかかった装置は初めてみた」
「冗談じゃない、こないだの宝塚など、このよんせんばいくらい金かかってますよ」
などと会話。まあ、酔いの中にもうなづける役者月旦などあったけどほとんどは酒のパアパア。でも代金の大半を払ってくれた(全部じゃないけど)。

この『わん』、作りがいかにも最近のチェーン酒食処で期待していなかったが、料理がどれもちょっとうまい。アボカドとエビのわさびマヨネーズ和え、豚とろ焼きなどいずれも結構。今度もう一度入ってみよう。結局今日も終電逃してタクシー。楽しいけど、これがずっと続くと死ぬ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa