裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

日曜日

お台場経由太秦、の記

朝5時半起床。
入浴など。
なんやかやでドタバタして朝食とらず。7時、荷物(コミケ用と京都用)持ってK子と出る。
タクシーでお台場ビックサイトまで。
毎年の運転手さんとの会話であるが
「この時期の東京にこんなに人の集まる場所があるとは……」
「終了時刻まぎわにくればまた凄いですよ」
というような、商売のサジェスチョン。
会場は今年は西館。
車寄せから近いのはいいが、どうもうすぐらい感じがして西館は苦手である。
缶コーヒーとサンドイッチで朝食。
今回はわれわれのブースはと学会や特撮が来た、それに立川流とは島が違う。
なをきのところが三つ四つ先。
「コミケに行くようにだけはなりたくない」
とか以前は言っていたのに、参加三回目にしてもう、のぼりは立てるわポップは作るわと大慣れ。
「最近はテレビつけるとお兄さんが出ているねえ」
などと世間一般風なお世辞までつかう。大人になったのか?
「唐沢商会がナマで並んでいるのを見たのは初めてだ!」
と声がかかった。
あちこち回って挨拶。
IPPANさんのブースでは山本会長が売り子をしている。立川流のブースでは春風亭昇輔が売り子でいた。眠田さんからトゥーン同人誌著者分もらう。
ここに執筆している“『禁断の惑星』のイドの怪物のアニメーションはなぜディズニープロ担当なのか(MGM作品なのに)”という考察の原稿、案外気にいったりしている。
開田さんのローレライ同人誌の“美少年映画ローレライ”の原稿もなかなかに私らしい。
趣味で書く原稿はやはり楽しい。手伝いのもりもとたつやさんも来て設営。
8時45分ころ、うわの空メンバー来る。
ちょっともうすでにコミケあたり、人あたり、オタクあたりしているかなという感じ。
周囲全員が“異人種なのだ”という警戒心バリバリ。なに、すぐにハマってなをきみたいになるさ、とこっちはニヤニヤ。
関口誠人さんも来て、自作のイラストとCDを並べる。
こちらもコミケを全く知らないが、どんどん自分裁量でやるのでこれもまたハラハラする。これだけの人が集まる会場では、一人々々が勝手なことをするとすぐに会場全体がパニックになってしまう。
10時、拍手と共に販売開始。
西はやはり人の流れが悪いな、と思っていたが、やがてポツ、ポツと人が来だして、しだいにテンポが早くなり、やがて途切れなくなっていく。隣のうわの空は最初はやや閑散だったが、去年の売り子経験があるおぐりが率先して
「いらっしゃいませ、うわの空新刊『UWANOBON』でございます」
と呼び込みをしているうちに、三々五々、売れはじめ、初出店のブースとしてはなかなかの売れようとなる。ぎじんさん、尾前さんなども顔を出して買ってくれる。
『内藤ルネ自伝』を送ってくれた小学館のSさんも来て、挨拶。他にも知り合いいろいろ来てくれるがいちいち記していてはキリがないので割愛、陳謝。
今回は間際に原稿だしたので300部しか刷れなかった。
12時までにほぼ、売りつくしてしまう。
知人にも本を渡せなかった人がたくさんいた。増刷はしないつもりだったが少しはしないといけないか。2時、後片付けをしてK子たちはハケ。
私ももう一度会場を回って、タクシーで一旦渋谷に行き、着替えをすませる。
そこからまたタクシーで品川へ。
のぞみのホームで待つうち、おぐりもやってきた。
『UWANOBON』が最終的に130部以上売れたというのでちょっと興奮気味。
ほら、自分たちもコミケにはまりだした。3時半出発。車中で缶ビールで乾杯。いろいろ今後の話などしながら、名古屋まで。
名古屋で彼女は降り、可児市のクラス会へ。
私は京都まで。
降りて嵯峨野線に乗り換え、太秦まで。
山田さんと、今回の撮影のコーディネートをしてくれた松竹京都撮影所のIさんが待っていてくれた。山田さんから実は前もって、名だたる京撮のスタッフたちの心をつかむには、と相談していたのだが、最初にちょっとクサい芝居をうつ。
最初の予定ではまず京都のホテルで荷物を置いてから、という感じだったのを、取るものも取りあえず駆け付けた、という体で直行し、かつ、“急いで前の仕事終えて前乗りで駆け付けたので何もおみやげの用意がなかった、まずまず、これでスタッフのみなさんに”とビール代の福沢諭吉をIさんに握らせる。山田さんをちらりと見たら、ウインクして親指を立てていた。あとで
「あの芝居でこの撮影は成功したようなものです」
と言われた。
亡き湯浅憲明監督が、とにかく映画人とのつきあいはこれ、とレクチャーしてくれたことがある。
「キャメラ、照明、音響、全部の部屋に一升瓶二本づつ差し入れして、“よろしゅう頼んます!”と頭を下げる。映画の秘訣はこれです」
と。一升瓶が缶ビールになったが、
とにかくこれで撮影が支障なく進めば安いものだ。さっそくスタッフルームで、撮影監督の江原祥二さん(『さくや妖怪伝』、テレビ『百物語』シリーズなど、妖怪ものに慣れており、化猫ものに最高の人選)、演出助手のTさんに紹介される。Tさんは中年のおばさんだが、まず撮影所の主みたいな人。いろいろと送った台本メモにダメだしをされる。
そのダメだしにチェック入れ、明後日のクランク・インまでに使用に足る撮影台本をTさんが仕立ててくれる。有り難いというより、こんなメモで京撮に乗り込んだ自分の度胸にヒヤリ。
今回の猫メイクを担当してくれるカッチーこと勝又さんに用意してくれた猫アプライエンスを見せてもらう。
それから照明の巨漢T浦さん、小道具のさらに巨漢のジャンボさん、美術のNさんなどと顔合わせ、衣装部屋に行き衣装チェック。衣装さんからもダメだしいろいろ。
水に濡らしていいもの、悪いもの、替えのあるものないものなどさまざま。
猫娘お玉の衣装はまるで作ったかのようにイメージにぴったりのものがあった。
朝からのコミケ、新幹線での移動と、身体的にはかなりくたびれているはずなのに、ほとんど感じない。むしろテンションがどんどんあがってくるのを感じる。
プロに囲まれるということがこんなにも頼もしく、また、頭の中でのイメージが具体的に形になっていくその過程がいかに興奮するものか、を如実に感じる。
今回、京撮に乗り込むに際し、私は素人同前ということを隠すまいということを自分へのテーマとして課している。
これだけのプロに囲まれて、一介のモノカキが偉ぶっても何にもならない。胸を借りるという意識で常に行こうと思っている。しかし、どんな素人であっても、監督と名がつけば、その撮影の最終的な決定権は私にある。
「監督、これどないします」
と訊かれたときの決断だけは逡巡せず、その場その場できちんと右か左か、赤か白かを答えよう。そうも思って対応。
スタッフルームで出前の餃子や焼そば食べつつ細かい打ち合わせ。だいたいのこと終わり、あとは明日の打ち合わせ日に、となって解散。
山田さんのミニローバーでホテルまで。ホテルの部屋で、自動販売機で買った
缶チューハイ飲みつつ、このDVDのこと、今後のこと、使う役者さんのことなどを話し込み、気がついたら12時。
ベッドにもぐりこんで初めて、
「あ、こんなに疲れていたのか」
と、肉体の疲労サインをどっと感じる。考えてみればコミケと京撮乗り込みという大きなイベントを一日のうちに詰め込んで体験したわけである。あたりまえと言えばあたりまえ。
そのまま沈みこむように就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa