裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

月曜日

8時だヨ! 知恩院集合!

 ドリフターズ京都修学旅行の巻。朝までに十回は目が覚め、また眠りにつく繰り返し。その度に短い夢を見た。クレイアニメの田原総一朗が出てくるが、それがのっぺらぼうで非常に気味が悪かったり、そういう夢。朝食、トウモロコシ三分の一をクレソンと一緒にふかして、塩をかけて。果物はゴールデンキウイ。なるほど、今までの 青臭いキウイとは別物の味。

 海拓舎Hさんから電話。『壁際の名言』、あちこちから追加注文が入って在庫が不足しており、著者用の取り置きもそっちに回したいので、少し待ってもらいたいとのこと。まあ、評判がよくて売れているなら是非もないが、そういうわけで知人友人の皆様にはちょっと贈呈が遅れるかもしれない。ひょっとしたら2刷以降を贈呈するというような失礼なことになるかもしれない。あしからず。……とはいえ、だいぶある誤記、誤植、誤字の類はチェックするつもりなので、そっちの方が失礼にはあたらないのか(誤記の代表は“かべす”を“カツ丼、弁当、寿司の意”と書いてあること。なんでこんな間違いをしたのかわからない。“菓子、弁当、寿司”ですよね。

 仕事関係メールやりとり数通。扶桑社トンデモ本編集担当のK企画K氏から進行状況に関して報告。それにからめて、一件、別口用に書いた原稿が、現在、そちらがペンディング状態になってしまっており、宙に浮いているので、そちらはまた正式再開した時点で新たに書き下ろすことにして、これを扶桑社で使ってくれますか、と打診 してみる。書いた原稿には一日も早く陽の目を見せてやりたい。

 阿部能丸くんから電話。昨日のご招待のお礼と、舞台の感想しばらく。なんとあの『ブルーフロッグマンの憂鬱』、初稽古時にはもう台本が完全にアガっていて、すぐ立ち稽古に入れたとか。まあ、当然と言えば当然のことなのだが、その当然のことがなかなか出来ないのがプロの劇団なのである。とはいえ、最初はもうほとんどが演劇に心得のないメンバーばかりで、いやしくもプロである阿部さんは頭を抱えてしまったそうだが、よくまあ、本番であそこまで行きました、と半ば感心、半ば呆れの様子だった。芸人と役者の違いだろう。役者というのは稽古の段階で完璧にまで持っていき、舞台に臨むが、芸人は稽古はあくまで稽古、と力を抜いてダンドリだけ覚え、本番で初めてしっかりと演ずる。それだけ、ライブ感覚に近いのだ。談志が、圓生が舞台に出演したときのエピソードを語っていたが、相手役が稽古で本気でぶつかってきたときに、“なんでげす、あなた、これは稽古なんでげすから”とたしなめたとか。そういう了見の出演者が大部分の稽古では、役者の方が大変だったろう。志らくはえらい気の使いようで、稽古のときから全員に弁当を出し、公演も小劇場ゆえに満員御礼でもトントンだったのに自分の懐からギャラを支払い、という感じだったという。 まあ、裏事情もいろいろと察せられることではあるが。

 1時、千葉の伊藤さん来宅。うちのマンションの隣の部屋が、もう一週間以上留守で、新聞が新聞受けに山をなしていて、ちょっと不気味という話。洋書ばなししばらく。昼は外出して兆楽でミソラーメン。隣の席の客の食っていた牛肉細切り炒めかけチャーハンがうまそうで、嗚呼、これにすればよかった、と地団駄を踏むが、出てきたミソラーメンがまたうまくて、やっぱりこっちにしてよかった、と安心する。なんでミソラーメンごときでいちいちこんなにくやしがったり安心したりしなくてはならんとは思うが、食のことはオロソカには出来ないのである。帰宅したらすぐ、K企画から電話。送った原稿は使わせてほしい、ついては図版ブツを夕方受け取りに参上し たいとのこと。スムーズに決まってこちらも嬉しい。

 3時、時間割で銀河出版Iくんと打ち合わせ。『壁際の名言』は上記理由で手元にないので、『踏まれても』一冊進呈。今後のスケジュールをざっと。冒頭書き出しの部分、前回出した構成案ではちょっと地味か、という意見が編集部で出ているとのこと。こちらもそう感じていたので、いま、工夫中と答える。Iくんも梅雨時期はテンション上がらず、麻黄附子細辛湯(ツムラの)をのんでいる。私は例年6月がひどい状態で今年も心配していたのだが、予想に反してこの6月はかなり調子よく乗り切れたと言うと、“阪神みたいですね”と。雑談、と学会東京大会の話、SFセミナーの 話、アニドウ上映会の話、などなど。

 一旦帰宅して、原稿書き。5時に再び時間割、K氏に図版ブツ手渡す。氏の持っている手提げカバンが、茶色の革製で一面に模様がついており、時代がかっていて、実にカッコいいもの。ちょっと見とれる。K氏はこれまで百科事典だのニューズウィークだのの編集に携わっていたベテランで、それがと学会の本などという畑違いの本の編集をするというのは大丈夫か、とこちらの方で案じていたのだが、面白いと思ってくれたらしく、これが売れたらの話ですが、と今後の企画のことなどをちょっと話せ たのは、先行きのことも考えればなかなかいい方向。

 別れて帰宅、また原稿、K氏に渡すまえがき原稿5枚を書き上げて、メールする。7時半、『船山』にて講談社Iくんとその婚約者と会食。結婚するから、ではなかろうがIくんは一時かなり太っていた、というより不健康にふくれていたのが、スマートな好青年に戻った感じ。家では一族のホマレ、みたいに言われているので驚いた、と奥さん笑う。まあ、世間から見れば東大を出て一流企業に勤めて、であればそういうことになるだろう。志らくの舞台の話(Web現代が後援ということになっていて稽古場に講談社の会議室を提供したそうである。私も紙芝居の練習に使わせてもらおうと思う)、Iくんも稽古を見て、こらアカンのではと思っていたので、私の日記で褒めていたので驚いた、というような話。あと、ここでは書けない話もいろいろ。昨日の荻野アンナの件はいくらなんでも褒めすぎではないか、と言う。褒めるときはとにかく褒めておく、その代わりケナすときも容赦なくケナす、というのが私のやり方なのであります、と答える。変にひねくれた人間の文章というのは、徹底して褒めるということが出来ないから、逆に批判するときもインパクトがなくなってしまう。もちろん、どっちかだけ、というのも困ったもの。褒めるとケナすは、批評の両輪なのである。

 コースは先付け、岩ガキ、お造り、鮎塩焼き、ぼたんハモ、米なす揚げ、それとトウモロコシご飯。奥さんは妊娠中、ということで酒は控えていたが、料理があまりおいしいので、と途中から少し。さらにお造り中にキンメ鯛が出る。その前に、妊婦にキンメがよくないというけど、週に二回もキンメだのカジキだの食う家ってそんなにないんじゃないか、という話をしていたばかり。Iくんが気をきかせたのか、“じゃこのキンメは僕が”と奥さんの皿に箸をのばすと、キャッ、と叫んでそれを阻止。おいしそうに食べていた。なかなかいい根性の女性である。話も酒もかなりはずんで、お値段も結構な額になったが、ここはIくんがおごってくれる。普通はお祝いにこちらがおごらねばならんところだ。相済みません。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa