裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

火曜日

スキャナーだけど、黙ってるのさ

 電源入れてもうんともすんとも言わないんだけど、修理に来てくれます? 朝、7時45分起床。朝食は貝柱入り粥とスグキ。果物はスイカ。粥食のせいかどうか、体重は減少気味。これはダイエットの結果か、それとも夏バテなのか? これまで一番ひどかった夏バテは5〜6年前のもので、ひと夏の後半、ほとんどモノが食べられなかったほどだったが、それでも体重はさまで減らなかった。アレは不思議だったな。

 スーパーモーニングで、インドネシアで交際していた21歳の女子学生を殺害した48歳の日本人男性が、テレ朝のインタビューに堂々と(まあうなだれてはいたが)顔出しで答えている。犯人の名が筑紫哲也、と聞いて一瞬エ、と思ったが、一字違いの筑紫“節”也。殺したのは、その女子大生が本気になって彼につきまとい、結婚を迫ったが、彼には日本に妻や子がいる他に、現地にすでに内妻がいたため。この現地妻というのもインタビューに答えていたが、これがまた気の強そうな女で、殺された女を罵倒し、彼は悪くナイノヨと主張。自分が歌手になるために彼は金を出してくれ ていたといい、突如、男へ捧げるとかで
「♪私は〜あなたを〜まだ愛している〜」
 と歌いだしたのには唖然とし、ついで笑い出してしまった。男は精密機械代理会社の顧問だったそうだが、豪邸に住み、内縁の妻には美容院を買ってやり、歌手の勉強をする金の他、彼女の父親のメッカ巡礼の金まで出してやっていたという。彼の告白も、何か足に地がついていない感じで、悔悟の情があまり伝わってこない。金の価値や人間の価値が日本とあまりに異なる国に住んで、判断力とか道徳心とかいうものがもう、働かなくなっているものと思われる。あまりの常識の落差に、スタジオの鳥越俊太郎、石坂啓などみんなが、キツいコメントをしようとしながらもつい、苦笑して しまっていたのが可笑しい。

 雨、降るような降らないような。エアコンでドライを目一杯入れても、体のまわりにねっとりと湿気がまつわりつく。頭も体も働かず。ササキバラゴウ氏から電話、日記本まとめの件。2000年代の日記チョイスはササキバラさん見事な腕をみせてくれていたのだが、2001年後半からこっちは、
「日記のスタイルが完成して、毎日の質が安定し、いわゆる“面白い日”というのをチョイスする作業が極めてやりにくくなった」
 とのこと。とにかく、何か特色ある記述の日は全部挙げてくれれば、あとは書き手である私の方で個人的選択眼で取捨するから、と打ち合わせ。青山まで出て、冷やし 狸ソバ一杯すすって昼にする。もう三時過ぎていたが客が陸続。

 帰宅、河出のもの、あと少しの分量なのに手がつけられず(テンションの問題)。馬鹿ホラー漫画翻訳の方を少しやる。『吸血鬼たちの宴』5ページ分、翻訳アゲ。こういうものははかどるな。鶴岡から電話、彼も仕事からの逃避らしい。こないだの大会のこと、業界有名人の某氏が手をつけた女性たちが見事に全員タヌキ顔、アライグマ顔であるということ。“スターリングくんとこれから呼べばどうか”と私。

 俳優ヒューム・クローニン死去、91歳。初めて見た時から爺さん役だったような気が。演じる役もインテリが多かったが、本人も単なる俳優ではなく、『疑惑の影』で出演し、親友となったヒッチコックの『ロープ』や『山羊座のもとに』などでは脚色に加わっている(どちらもテン・ミニッツ・カットと呼ばれる長回しが特長の作品なので、演じる役者としての立場からの助言をしたのだと思われる)。未見だが『コンラック先生』での冷酷な差別主義者の教育家の演技が凄かったというし、『クレオパトラ』では、ローマとエジプトの宥和を提言する平和主義の学者役。しかし、ローマ軍がアレクサンドリア図書館を焼いたことに抗議して殺されてしまう。この場面は観ていてグッときた。そういう重厚な役者が、『コクーン』で、宇宙パワーで若返って男性機能がよみがえったときの、もうこれ以上ないという、はしゃぎ回った嬉々たる表情を演じてみせたりするから、むこうの役者というのはあなどれないのである。

 家の備品でガタが来ていたものの交換を管理会社に頼んでいたのだが、その調査が来る。こういう人間のパターンってあるものだな、と思ってしまう、無駄なまでに愛想のいい初老の男性。来る途中、この近くで火事騒ぎがあって交通渋滞があったそうで、もしこの後お出かけになるようでしたら巻き込まれないようご注意、などというところまで気を使う。どこかで見た誰かに似ている、とずっと考えていたが、昼の通販番組に出ているアナウンサーにそっくりなのであった。インタホン、サビの浮いたシャワー口、水が漏る風呂栓などをチェックしてもらう。

 肩が鉄板のようになり、こりゃたまらんとマッサージに。サウナで汗をしぼりきったあと、コップに半杯の、氷のように冷えたリンゴジュースをすするように飲む。もう、死ぬんだったらこの瞬間、である。マッサージの先生が揉みながらそのひどさにうーんとうなる。この先生は気が小さくてあまり強く揉んでくれず、それほどスッキリはしない、しかし、強く揉んでくれる先生だと、揉み終わったときにはスッキリなのだが、翌日、揉み返しが来たりするんである。揉まれながら何度か気を失う。

 8時半、『船山』。ウメイロの刺身というのが出る。初めて食べるが、南の方ではポピュラーな魚らしい。透き通るようなピンクの肉で、きわめて上品な味。今日は一番安い定食だが、それでも鮎の塩焼き、カボチャの蒸しものなど満足。天ぷらは桜エビの掻き揚げと、タデの天ぷら。鮎のタデ酢に使った残りを揚げたらしいが、揚げると甘味が出て、結構な感じになる。

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