3日
火曜日
プチに二言はない!
チビほど突っ張るのよ、可愛いわ。朝、7時半起床。寝床の中で読んでいた黒澤和子『黒澤家の食卓』(小学館文庫)で、解説の北野武が、黒澤明に招かれて、“『天国と地獄』の、間違えて違う子が誘拐されるのがいいですね、面白かった”と言って恥をかいたことを書いていた。まあ、確かにあの映画の原作がエド・マクベイン『キングの身代金』であることはほとんどの映画ファンが忘れていることだが。しかし、世の黒澤ファンたちがあの映画を持ち上げるあまり、ことさらに原作を“つまらない作品”“あまり大したことのない作品”とけなし、“そこからあれだけの映画を作り上げた黒澤は凄い”という風に話題を持っていくのには腹がたつ。はからずもたけしが認めている通り、あの映画のキモのアイデアはマクベインの原作からそっくりの移行であり、また、金銭社会への批判、裕福であることが罪であるのかといった問題提起など、映画に盛り込まれているテーマはほとんど原作にも描かれているのだから。ネットの映画サイトでも、『天国と地獄』をコトコマカに批評家ぶって分析しながら“原作は読んでません”などとツラリと書いている人が多いのには呆れる。ただ見るだけならいいが、一応批評めいたことを書こうというなら、原作くらい読んでおかないとたけしのように恥をかく。ところで、この本(『キングの〜』ではなく『黒澤家の食卓』)は面白くない。不思議なことに、娘の書いた父の本、息子の書いた母の本というのはおしなべて面白くない。娘が母を、息子が父を書くと格段に面白いものが多くなることにと比べて、興味深い現象である。
朝食、発芽玄米粥、梅干。果物はブドウ。MLにて東京大会打ち合わせ。メールでのやりとりは便利だがまだるっこしいこともある。幸い、今夜は沖縄の中笈さんの歓迎会で眠田さん、植木さんに会えるので、ややラチがあく。談之助さんが今夜日暮里寄席でホールに行くので、最後の細部確認(ゴミ出しなど)が出来るのも有り難い。昨日、沖縄の中笈さんから届いた大量のチラガァと豚足、冷凍庫から出して解凍して おく。
午前中は、『社会派くんがゆく!』対談の原稿チェック。対談終わったあとの雑談部分だったので採録されなかったのだが、村崎さんがこないだ言った、“人間てのはさ、どこかから電波で飛んでくる「オレは大したもの」ビームから自分を守らないといけねえよな”は入れて欲しかった気もする。“そりゃ、オレだって、毎朝目が覚めるたんびに、ひょっとしたら家の前にオレにセックスしてもらいたいって女が列をなしているんじゃないか、なんて妄想するよ。だけど、それは異次元からの「オレは大したもの」ビームの作り出した幻影で、ホントはそんなこと、絶対ないんだよな”という言い方は村崎百郎独自の言い回しだが、私もまったく同感。このビームに当たると、特に30過ぎてパッとしないヤツらは、みんな自我が奇形的に肥大して、現実が見えなくなってキチガイ扱いされるか、あるいは現実と妄想との落差に耐えられなくなって自己崩壊を起こす。“分際バリアー”みたいなものを身の回りに張って、自分の身の程をきちんと客観的にわきまえることが、現代人を救う唯一の方法だと思うの だが。
12時、センター街トルーサウスでヘアカット。担当の先生(女性)に“あら、カラサワさんメガネ変えました?”と言われる。変えてから、それを指摘されたのは、女房を含め初めてである。周囲のみんなは、あの私の似顔を認識しているから、今回のメガネはあまりにそのイメージにピッタリで、全然気がつかない(前までのメガネは銀縁で、マンガのイメージとちょっと違ったので、変えたときにはみんなに指摘された)。この先生は私のあの似顔を知らない(モノマガジンが置いてあるので、私がそれを書いていることは知っているが、あの連載には私の似顔が使われていない)の で、ごく普通に気がついたのだと思われる。
カット終えて帰宅、昼飯は母のカレー。これで食い尽くす。母は明日からまたアメリカなので、当分このカレーの味もおあずけである。コミケット事務局から、封書届く。無事、夏コミ当選。日曜日(17日)東5ホール“パ”04−a『東文研』。確認したら、今回は立川流も当選していた。目出度し。開田さんのところと三連の机である。東京大会が終わるとすぐ、こっちの準備。仕事もしなければならんが、これもやはりオタクとしては大事な行事。と、いうか、オマツリのない夏は寂しくてやって いられない。
講談社Web現代、書き出す。ウンチク部分(広東省のハクビシンの件など)が多くなりすぎて、かなり削る。書いていて楽しいのはこちらの部分なのだが、この連載はあくまでレポートエッセイなのである。もっとも、ただ行ってきましたというだけのレポートでは意味がない。ウンチクを私に期待する読者の方が多いはずである。
10枚強、5時半に上げてメール。頭の中では半分の時間で書き上げられるはずの原稿であった。まあ、現実はそんなもんである。メールして、雑用片づけているうちに6時。中笈木六さん、来宅。オミヤゲに『ノストラダムスの大予言』(海外版)のDVDと、沖縄の塩せんべいを、それに著書『未亡人戦士冴香』いただく。この本、かなり売れているとか。私は中笈さんの文章、特に会話部分はうまいなあといつも感心するのだが、Hシーンはどうしても飛ばしよみしてしまう。知り合いが書いた濡れ場というのは、どうしてもテレが入って読みづらいのだ。安達瑤さんにもこの間短編集『派遣の女』をいただいたのだが、やはりエロの部分は斜め読みである。中笈さんと安達さん、共にご本人のイメージと官能が結びつかないせいかもしれない。睦月さ んだとこれがスンナリ読めるのだが。
しばらく中笈さんと雑談。ときおり、“カラサワシュンイチの弟子”などとネットで書かれていたりして苦笑するという。“そんならわたしゃ鶴岡さんのことを「アニさん」とか呼ばないかんのか、という感じで”と。やがて時間来たので、そこからタクシーで幡ヶ谷。チャイナハウス、今日は満員で、廊下に椅子とテーブル出しての食事。こっちの方がいかにもチャイナっぽくて、私は好きだったりする。植木さん、眠田さんすでに到着済み。東京大会の打ち合わせしばし。当日券での入場者が多いのか少ないのか、初めてなのでさっぱり読めないのがキツい、と眠田さん。ただし、問い合わせはかなりの数に上るとのこと。植木さんからは、開場前と休息時間に流す音源を聞かせてもらう。テルミン演奏と、東欧だかどこだかのちとSFぽいロックグループの演奏。植木さんは若い頃はパンク青年だったそうで、今のこの人からは想像もつかない。さらに植木さんは歯間ブラシ愛好家でもあるそうで、バトラーの歯間ブラシの入手法についてくわしくご教示いただく。
集結するメンバー、上記三人に私の他、開田夫妻、K社のSさん、K子、みなみさん。例により駄洒落満開、人のうわさ話満開。コミケの話などにもなる。K子はいまだ、沖縄で私が待ちぼうけ食らわされた話を実に楽しげに語る。永瀬さんの話が出たところで、ちょうどご本人から電話。大会の細々とした備品の件。ただし電波状態が悪くて、切れてしまった。メニューは植木さんの日記に出るだろうからいちいちは書かないが、眠田さんが“最近、自炊ばかりだからさすがにうまいわ”とつぶやいた。チラガァは鼻の部分をネギといためたもの、それから顔の部分を細切りにしてショウガと炒めたもの。鼻はもちもちとして歯ごたえあり、顔はシャキシャキしてさわやかである。しかし、今日のメインは鶏とスッポンを各種漢方系の香辛料と共に壷の中で煮込んだスープ。もう、まだ温かいうちからねっとりという感触のする、大変結構なスープで、末期癌患者でも快復するんじゃないかと思えるほど滋養豊富な感じのするシロモノであった。蟻酒を植木さん、Sさん、みなみさんとおかわりして飲んで、もう帰るころにはベロベロ。