裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

月曜日

チアガール海峡冬景色

 さよならあなた 私は棒ふります。朝、7時半起床。いつも通りに朝ご飯作り。K子にはクロワッサンと野菜炒め、私はお粥。果物はサクランボ。豪貴から内祝に送られた商品券で、腕巻き式血圧計をK子が買った。それで計ってみるに、やはりかなり血圧は高め。アミールSでも飲むか。しかしもともと、朝の血圧はかなり高めでないと動き出せない男なのである。で、昼頃、飯を食うと急速に低血圧となり、動けなくなるんである。福岡の一家四人殺害事件、謎あり平和な家庭の裏事情ありいたいけな子供の死という涙ありで、まるでワイドショーのために仕組まれたような事件。もう 各局大喜びでの報道。妻はもう少しまともな写真がなかったのか。

 午前中はクルー原稿一本、2枚半。ネタがやや、前回とかぶるが、これは連載の読者には連続性を持って受け取られるだろうというもの。ネタの扱いというか切り口については、今回のネタならもっと私らしくハスに切るやり方があるが、これは掲載誌の読者層に合わせて却下。毎度おなじみという感じの切り口でいく。一般誌(就職情報誌)のコラムに求められているのは、安定感あるマンネリズム、なのである。視点のユニークさよりもネタの目新しさの方で勝負。もちろん、じゃアこのネタさえあれば誰が書いても同じか、という風にはならないよう、味付けは企業秘密のタレで。

 いつごろだったか、ミッキー安川が“マンネリを今の人は悪くいいすぎる。マンネリにまで作品を持っていくのがいかに大変か”と、『笑点』を引き合いに出して言っていた。このごろ話題の言葉の誤用ではないが、マンネリの語源のマニエリスムは、決して今使われている、単調で面白みのないものを指す言葉ではなく、むしろ誇張と劇的要素を主体とした芸術様式のことである。ラファエロやダ・ヴィンチだってマニエリスムの人だし、あの、単調とかの対極にあるアルチンボルドがマニエリスムの代表的作者なのである。まあ、語源はどうあれ、様式に納まって作家性を薄れさせてしまえばマンネリさ、と言う意見もあるだろうが、口には出さずとも、世間の人の8割はマンネリを好む。庵野秀明に求められていたのは、飽きられるまで『エヴァンゲリオン』の様式を反復し、その反復の中で、あの作品で描き切れなかったもの、発展していくものを見せることだった筈だ。そのマンネリのワクを嫌って、意外性に走り、『キューティーハニー』を撮ることを、世の中の果たして何パーセントの人が求め、 うれしがるんだろうか? まあ、サトエリは笑えるが(本日正式制作発表)。

 昼は外に買い物に出かける。青山の志味津でトンカツ。飯は半分残す。紀ノ国屋でお粥、パックご飯、パンなど買い込み。帰宅すると、今度はモノマガジン原稿のゲラチェック。青林工藝舎さんからは公式ホームページ完成のおしらせ。早速リンクをしないと。河出はアレ、旅先から出したメールが一通、不達になっていた。改めてメールする。送られてきたゲラ原稿に目を通すが、FAXが小さい文字で不鮮明、読むの が難儀。まだ老眼ではないのだが。

 5時、家を出て雨の中ロフトプラスワン。OTC『平成極楽オタク談義』公開収録で。二回同時収録で、最初が『富野由悠喜』、ゲストは池田憲章、ことね。次が『プレイガール』、ゲストは中野貴雄。551蓬莱の肉まんを差し入れ。中野監督からはさっそく著書『国際シネマ獄門帖』いただく。お返しにUA!ライブラリー新刊『踏まれても』を進呈。岡田さんにも進呈したが、コミケ合わせできちんきちんと刊行されるのがスゴい、と言い、“食玩本の編集、この次からK子さんに頼もうかな”と言う。ダイエットは一時中断でリバウンド中だそうで(しかし柳瀬くんにはもう余裕で勝っているとのこと)、それというのもひさびさに仕事関係でトラブルの連続にまきこまれているからだという。まあ、プロジェクトが大きいものだけに、障害も多いのはアタリマエか。池田憲章さんに“NHKの『からくり儀右衛門』で伊能忠敬の役をやっていたのは誰でしたっけ?”と訊いたが“覚えてないよぉ”と言われる(あとで思い出した。信欣三でした)。

 私のサイトでも宣伝し忘れていたし、こんなイベントに客が来るのかね、と楽屋で岡田さんと話していたが、開けてみると大入りの状況。最初のトミノは、さて、私の守備範囲はガンダム以前の、“コンテ1000本切り”時代の富野作品の方で、視聴者に合わせてのガンダムばなしはさほど濃いのが出来るとも思えず、司会に徹しようと、OTCのNくんとざっと進行を打ち合わせたきりで壇上に上がるが、上がってみれば憲章さんの怒濤のしゃべりに岡田さんのトミノばなしが面白く、私も富野さんと真っ向からぶつかったガンダム否定論の時の思い出ばなしなど、話題つきず。あっと言う間に前半終わり、後半も同等のノリでわーっと行って、二時間があっという間に過ぎる。純粋トークはそう言えば久しぶりで(と学会東京大会は司会だったし)、私 自身“たまっていた”のかも知れず。

 後半は中野監督の例の空白時間恐怖症しゃべりでたぶん楽だと思い、休息時間は開田さんたちと雑談し、打ち合わせもロクにせぬまま壇上へ。憲章さんも引き続きで上がってもらう。岡田さんは最初、資料で送られたビデオを見て、“どこが面白いんかサッパリわからない、中野さんにまかす”と言っていたのだが、オープニング集のビデオを壇上で見て“これはオモシロイ!”と意見変更。中野さんまた絶好調で、岡田さんが壇上で笑い過ぎて寝転がってしまったほどの貴雄トーク。出てくる女優全てに“これは『ガメラ対ジグラ』のヒロイン”“これはマイティ井上の奥さん”“これはランゲルゲのヒト”などと解説。岡田さんと二人、“なんで東映はこのDVDに中野貴雄の解説音声を入れない!”とわめく。最初はもう、2時間このままでいくか、と思ったが、これでは客及び視聴者がはるかかなたに置いてきぼりになる、と思い、一生懸命、話を一般レベルに持っていく。結果、70年代論になり、映像論になり、お色気論になり、意外や、内容のかなりある(と、思う)トークになった。憲章先生は相変わらずの長語り、何でも語れるヒトだなあ、と感心。客の多くは前半のガンダムばなしを目当てに来た顔ぶれと思うのだが、プレイガールでもきちんと聞いてくれて笑ってくれていたのがよかった。まあ、最後には笑うことも忘れてただただ、トークの嵐に翻弄されていた人が四割くらいいたが。ラスト、中野さんの趣味のズベ公的衣装で登場したハニー蜜子嬢と一緒に手を振ってサヨナラ。

 終わってふう、と脱力。岡田さんは今日のトラブルのまとめ(すぐ向こうからあやまってきたとかで、それはそれでまた予定が狂う、とあわてていた)ですぐ帰社。打ち上げは私ら夫妻と中野監督、松田聖子似のハニー嬢(実は声優)、開田夫妻、QPさん、白山さん、みなみさんの九人で青葉。好物のアヒルとカエル、筍のおつまみ、腸詰めなどで乾杯。プレイガールにインタビューしたときの中野さんの裏話など聞いて楽しく。私は地獄女子日記の6/22の記に感動した旨話す。“おピンクさん”と世間から呼ばれるその屈辱に反発するんでなく、プロとしての開き直りを見せる根性にはマジに涙が流れるんである。呼称くらいですぐ肥大したプライドを傷つけてキレ回る今の若いの(いや、若くもないのにキレる困るのもいるんであるが)に、地獄女子の、メイクのカスでも煎じて飲ませたい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa