裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

火曜日

市ヶ谷に刃物

 三島由紀夫のこと。ところで“市ヶ谷病院に入院”って、聞き違えられると大変ですな。朝、夢の中に例の蓮の実画像が出てくる。顔の真ん中へんにあの穴ぼこがずらりとあいていて、その女の子がクシャミをしたら、穴という穴から鼻水が垂れたという、聞くだにオエッとなる夢。ただでさえ気味の悪いものを、夢の中でさらに気味悪く脚色している自分の神経に、まあ満足。しかしこうやって日記に書き付けたらちと 胸が悪くなってきた。7時25分、起床。

 朝食、マッシュルームサラダ(薄切りにしたマッシュルームにドレッシングをかけてもそもそ食べる)と、ビシソワーズ。果物はサクランボ。食べながら新聞を読み、テレビのニュースを見、送られてきた雑誌類に目を通し、出版社からの手紙類を開封し、試写会の招待状を行くもの行かないものに分類し、さらに財布の中身を確認して 女房に小遣いをせびる。朝の平凡なあたふた。

 最近目にすることの少なくなった気がする黒塗りの街宣車が久しぶりにNHKの周囲を咆哮しながら走っている。“うごぅわー”としか聞こえないが、北朝鮮寄りの報道をしている国営放送に文句をつけているらしい。北海道庁の真ん前、隣の隣が社会党の北海道本部だったところで育ったおかげで、こういう雑音がまったく仕事や思考の邪魔にならないのがありがたい。子供の頃は、沖縄などに行って、一晩中波の音が 聞こえる旅館などに泊まると、逆にうるさくて寝付けないくらいであった。

 朝の体力あるうちに、と思ってバリバリとフィギュア王原稿書く。今日はお掃除の人が来てくれたが、私はただひたすらパソコンの前にいて、帰るときにあいさつされて、初めて来ていたことに気がついたほど。10枚半のうち8枚弱を一時間半かからずに一気に書き上げて、やれ、この分だと午前中にアガるわい、と思い、ふっと気をゆるめた隙に、全部消してしまって唖然となる。パソコンでの原稿書きの陥穽。このまま別のことをやると何もかも嫌になるので、まだ書いた感触が脳内メモリーに保管されてるうちに、最初からスピードあげて複写するように書き直す。1時までかかったが、結局、同じ内容をなぞって何故か10枚になった。とにかく、無駄をした。イ ラストのK子と編集部のMさんにメール。

 それから椅子を立たずに、講談社Web現代の原稿にかかる。これもほぼ、同枚数である。昼の時間がとっくに過ぎるが、飯は抜かすことにする。気圧も乱れていて、この状態で腹にモノを入れるとしばらくは消化器官に血が行ってしまい、眠ってしまうことになるからである。ネタは当然、この間の東京大会。日記との重複にならない ように、別の視点から書くのに苦労する。

 半分まで書いたあたりで電話。また永瀬氏であった。内容も昨日とほぼ同じ。来年の東京大会での人員配置はどうするか、というようなこと。私はソンナコトは会場が決まらないと何とも言えないんだから、今ここでドウコウ言ってもはじまらないからと言うが、永瀬氏の声は生き生きとして、今後の発展や拡大をさまざまに空想すること自体が楽しくて仕方ないらしい。小野栄一が昔中野に芸能人の学校を建てるという計画を話しているときの調子がこんなだったな、とふと思う。“仕事中だから”とすぐ切ってもよかったのだが、いかにも楽しく気持ちよく話している人の話を中断するというのも気が引けて(伯父のときもそうだった)、ややあぐね、聞きながら原稿を ポツポツと書く。
「唐沢さんをちょっと過大評価していたけど、アナタはいわゆる芸人派遣のプロで、現場の全体的仕切りとかは慣れてないんだよね。……そこいくとワタシは学生時代にラジオ局の公開録音なんかデッカラ、貴重な経験を積んだんだなあ」
 などというところはいかにも永瀬唯氏で、聞きつつ苦笑の他はなし。さすがに、またまた同じ話にループしたあたりで“今日、〆切の原稿があるんで”と切る。4時台いっぱいかかって、どうにかこうにか原稿をアゲ、編集Mくんにメール。

 それから、時事通信社の原稿、確か昨日が〆切だった、と思い、もう一度依頼状を確認したら、まだ先だったのでフウと一息。昼を抜いた割にはそう腹も空かず。注文しておいた長崎飲料発酵茶が段ボール2タ箱分、どっと届く。すでにこれは西武百貨店では取引終了になっている商品で、これがデッドストック全部だそうだ。この夏はこれを飲んでダイエットのつもり。ベギラマに、日曜のうわの空の券を、開田夫妻の分と一緒に頼む。ついでに、東京大会関係のメールをやりとりしていた植木氏も誘っておく。気を落ち着かせようとビゼーの『アルルの女』のCDを聞きながら、河出の原稿。5枚分書き換えのはずが、どんどんとテを入れる箇所が多くなる。

 結局夜になってテンション下がり、一字も書けなくなったのでそこで放棄。夏コミ同人誌の翻訳をちょこちょこ。9時、家を出てNHK前『花菜』。今日は満席の上にご主人と女の子一人だけ、てんてこまいといった状況。ビールに寒竹。えだまめ、冷や奴、小柱掻き揚げに蕎麦の芽オシタシ。盛り一枚。K子と今後のと学会同人誌の計画を少し話す。対友人・知人の態度をさんざ説教されてしまった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa