裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

日曜日

13日の金賢姫

 仮面をかぶった工作員が……。キムヒョンヒってもう忘れられた名前か。朝、7時45分起床。朝食、発芽玄米粥、梅干。冷凍ミカン二ヶ。ザ・サンデーで北朝鮮の人形アニメを見る。リス(善玉)とネズミ(悪玉)の話で、リスがせっせと収穫して貯めた栗をネズミが盗んでしまい、しかもお役人に訴えてもすでに役人にはネズミの手からワイロが渡されているので門前払いをくらい、ついにリスの一家は村を捨てて離散する、というデッド・エンドのお話。資本主義に毒された韓国を糾弾した作品だそうである。ネズミのキャラクターデザインは有名な『リスとハリネズミ』(こっちはセルアニメ)とそっくり。たぶん同じ人が作っているのであろう。と、いうか、北朝鮮にアニメーターというのはこの人しかいないのではないか。で、セルアニメだろうと人形アニメだろうと、見境なく作らされているのではないか、と思う。

 読売新聞日曜の『本・よみうり堂』で、星野道夫著『魔法のことば』を東海大学教授の湯川豊氏が紹介している。この書評自体はまあいいのだが、星野道夫(写真家・ナチュラリスト)がその悲劇的な死以降、何か神格化されているのはどうかなあ、と思うのである。この書評でも、星野がアラスカのエスキモーやインディアンと極北の自然の中で共に暮らし、その生き方に、“文明社会が失ってしまった何か”を見出した、と(陳腐な表現ではあるが)書き、この本からは、“自然と人間のかかわりの真の姿”が伝わってくる、と賛美している。確かに星野は自然と人間の真のかかわりを実践して示したと言えるだろう。テレビの記録番組撮影中に、熊に襲われて食い殺されたのである。どんなに自然と一体になり、心から自然を愛しても、所詮、人間という存在は自然にとっては侵入者であり、せいぜいが単なる獲物でしかない。ギリギリの条件の下で、なんとか自然との折り合いをつけながら生きているネイティブなアラスカンにとって、勝手に自分たちの暮らし方を文明社会に対比させられて、“あなたたちは我々が失った何かを持っている”と褒めちぎられても、全然ピンと来ないのではないか。彼らはその“何か”なるものを、捨てることすら出来なかったのだから。本当に自然と一体になっている者たちは、本など書かない。写真など撮らない。マスメディア業界にいるナチュラリストの自然賛美というのは、所詮は都会にその軸足を置くもののぜいたくな無いものねだりなのだということは、きちんと認識しておいた方がいい。

 朝のうちの雨がほぼ、やんだので、外出。朝のうちはまだかなり雨足強く降っていたのに、その時間から渋谷公会堂裏口には出待ちの女の子たちが20人ほど、じっとアイドルの出を待っている。最近の子は、と文句のひとつも出るところだが、こないだ読んだ水野悠子『知られざる芸能史・娘義太夫』(中公文庫)によれば、こういう所謂“追っかけ”というのは、実は明治時代の娘義太夫の後を追いかけて、寄席から寄席へと彼女たちが移動する人力車の後を追いかけていった学生たちを指す、“追駈連”という名称から来た言葉であるという。由緒あるコトバなのである。男性から女性へと変化はしたが、若者の行動の本質は変わらない。いや、もう若くないのがあき らかに混じっていて、これはちょっと、であるけれど。

 日曜のセンター街はどこも馬鹿込みで、入るのが嫌になったので、東急本店地下の紀ノ国屋で、夕食の材料と一緒にチャーハンを買い、家で食べる。ササキバラ・ゴウさんから電話、日記本の収録日のことについて。風邪引いてしまって、どうもいかんそうである。ベジタリアンの風邪は長引くそうだから気をつけて、とお見舞い。海拓舎原稿のチェック。最終校正なので字句の修正のみに、と言われたが、直したい箇所 いくつも。

 届いていたモノ・マガジンで岡田斗司夫さんの日記を読む。戦争について書け、と言われて原稿を書きかけたら、タイトルが“なぜ戦争はいけないの?”という、考えていたものとは全然別のベクトルであったそうで、内容をどうするか悩む、というもの。そこの悩んだ末の理論の持って行き方がいかにも岡田さんなのだが、しかし、依頼する方も、依頼相手が戦争に反対かどうかを確かめずに依頼してくるというのはよくわからない。およそ日本人であれば戦争には誰しも反対のはず、という決め込みが あるとしたら馬鹿な話だ。

 その岡田さんからメール。7日の東京大会、出演をお願いしていたのだが、急遽アメリカへ行かねばならなくなり、出演不能になったとか。残念。博多のHさん(エロの冒険者さん)からもメール、沖縄の中笈木六さんからもメール。仕事手につかぬまま、8時半、夕食の準備。ちらし寿司に蒸しジンギスカン、蟹玉。ビデオで『ボーイズ・イン・ラブ』続き。これはCSかなんかの番組なのか? ボカシは当然入っているが、一カ所、消し忘れがあった。その後、DVDで『真珠夫人』。横山めぐみはどことなく世界文化社のDさんに似ているような。蔦山信吾と大和田伸也が並ぶと、顔の大きさが倍ほども違う。

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