裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

土曜日

にんべんだもの

 うまいカツブシだと思ったら。明け方、切り紙アニメ方式の夢を見る。ナチスにとらわれて煮えたぎる硫酸のプールの中で溶かされる男と、それに殉じる恋人の話。妙にディフォルメされた、シュールな絵柄と動き。6時ころにトイレに目が覚めたら、ちょうどそのタイミングに電話。母からで、“いつ来るのさ”ときた。何度も言っているのに覚えようとしない母親だ、と思ったが、考えてみれば私もさっぱり予定を把握していない。12時ころ着くんじゃないかな、などといいかげんに言っておく。

 朝食、ナンとタンドリチキン。タコヤキ坂の下のカウンターのインド料理屋で買ったもの。ファーストフードみたいな店だと思っていたら、ナンもチキンも紀ノ国屋のものよりずっとうまいのに驚く。ニュースで池田小模倣班の犯行と見られていた幼稚園の先生が襲われた事件、昨日村崎さんとフンガイしたばかりだったのだが、これが女性教師の狂言だったと判明。切られた女だと思ったらキレた女だった、というのはまるで鶴岡法斎のギャグである。世は鶴岡化してきているのかもしれない。日記をアゲ、オタアミ用ビデオを用意する。

 で、K子に今日のスケジュールを確認したら、やっぱり私の予定把握はすさまじくいいかげんで、東京発が1時過ぎだった。あわてて電話して知らせる。11時、家を出る。羽田空港着がちょうど12時。眠田さん待ち合わせる間にメシでも食おうとレストランでランチ。土曜のせいか回りに酒を飲んでいる客が多く、こちらも飲みたくなったが、昼間の酔いの気味悪さを思ってやめる。何か体が火照る感じでお冷やがやたら美味。

 1時15分のJAS機だが、眠田さんがなかなか来ない。あの人は空港内で時間つぶすのが嫌いな人なので、ギリギリに来るのだろうと思っていたが、乗り込みの時間になってもいっかな来ない。機内で席について待っていると、アナウンスで“ただいまお客様をお待ちしておりますので”とあったので、ああ、こりゃ何かの間違いで遅れたんだな、と思って待っていたが、20分近く待っても来ない。とうとう飛行機、離陸してしまった。何かあったのか、ちょっと心配になる。

 札幌までの所要時間1時間15分、機内で原稿を書こうと思って資料なども用意して乗り込んだのだが、JASのレインボーシートには、ゲーム設備がついている。テトリスならぬテトリックスを夫婦で熱中してやっていたら、アッという間に札幌に到着してしまった。K子など、腕を痛くするほどノメり込んでいた。次の帰省もJASにしよう、と企業の思うツボにはまる。

 無事札幌千歳空港着。AINのやたがらす氏が迎えに出ていた。聞くとやはり眠田さん、乗り遅れたという。1時間後の便だというので、彼にここで眠田さんを待たせることにして、われわれは勝手に札幌市内へ。3時過ぎに駅から店へ向かう。土曜日なのに相談客が絶えず、しばらく待つ。クスリ類何種か買い込み、ドリンクのんで、多少ダレ気味の体にカツを入れる。

 自宅に入り、仕事関係のメール確認。いろんなところから来ている。講談社の単行本の最終チェック、イベント関係の連絡などやり、二階の部屋にフトン敷いてしばらく寝転がって休む。それにしてもだだっぴろい家である。爺さん婆さんがいて親父がいて、なをきと兄弟二人で住んでいたときはむしろ狭く感じたものだが。

 7時、タクシーでススキノ石川書店ですがや夫婦と待ち合わせ。先日の葬儀のときの留守番のお礼である。K子が亭主の方と待ち合わせの場所を決めたとき、
「えーと、なら○○書店の前で、いや、そこの店なら××堂さんの方が近いかな、本当なら☆☆書店さんが一番いいんだけど、あそこはこないだ閉店したから」
 と、地図が全部古書店起点で成り立っていて呆れたそうである。私も昔はそうだったなあ。学生時分、札幌時代につきあっていた女の子が東京へ出てきたとき、名画座と本屋しか東京を案内できず、怒られたものだ。

 しばらく歩いてススキノの北海道料理居酒屋『しま田』という店へ。ここは以前、K子がノーザンクロスのI氏に教わった店である。“しま田まんじゅう”というのがうまいと聞いていて、なんだと思ったらチーズのあんを入れたジャガイモのマッシュをまんじゅう形にまるめて焼き、溶かしバターをかけたものだった。なるほど、なかなかうまい。他に八角の塩焼き、カスベの煮凝りなど北海道料理を。前に日記に書いたと思うが、私はこういう北海道料理を知らずに育ったので、“ほう、珍しいものですなア”と、とんと旅行者気分である。昔の見世物小屋の写真集などをすがやの奥さんにもらう。さんざ飲んで、ソバ食って帰宅。都議選開票速報しばらく見て寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa