裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

月曜日

肌のしみはこれからだ

 若いつもりでいても、25を過ぎると……(いや、シャレどころではないのだが。後述)。朝、車の運転をする夢。もちろん、無免許であるので、見つからないようにドキドキしながらやる。子供のころからよく見るシチュエーションの夢である。やはり精神分析すれば、自分が実際はニセモノの才能でしかないのに世間はある程度評価してくれている、ということに対する不安のあらわれだろう。だが、以前は無免許のまま突っ走っていて、自分でもとめられずあせりにあせるという夢だったのが、最近はどうにかこうにかうまくやっちゃう(今回も銀座で車庫入れをやった)、というシチュエーションに変わっている。ある程度、ニセモノであっても世間をだましおおせる自信がついたのかもしれない。

 朝食はヨーグルトにイチジク、パックのミネストローネ。食べて原稿書き、電話数本。フィギュア王から、こないだ渡した原稿、歌詞の引用があるが著作権料が高いので、その部分サシ変えてくれとのこと。仕方ない。世界文化社の原稿をまずやる。書き出しのところがやけに苦しいものだったが、書き出すとだだだだ、ととまらなくなる。途中で昼飯(カレーうどん)をはさんで、八枚程度書いて、1時、時間割にてDさんと。気圧のハナシなどする。最近は雨でも午前中は大丈夫になったが、昼間ピーカンで夜が雨、というのがどうもイカンです、というようなこと。

 その後帰宅して、ダカーポ一本、やっつける。400字詰め2枚ちょっと、30分でアゲるつもりが45分かかった。それでもなかなか能率なことである。メールして外出。西永福S歯科。途中で雨がポツポツ降ってきたのでビニール傘を買う。今日の治療は2時間見てください、とのことであったが、試写にいかねばならないので、1時間半に短縮してもらう。歯石取り、前の医院では電子式の歯石取りでジージーと簡単にやっていたが、こちらでは昔ながらのスクレーパーでガリガリやる。きれいに取るにはこれに勝るものはないそうだ。

 治療終わって外に出る。雨はやんでいるので、ビニール傘は捨てていく。五反田のイマジカにて、『パールハーバー』完全予約制試写。昼がうどんイッパイで空腹だったので、コロッケサンド小さいのを一ケ、買って食べる。水野晴郎氏、大森望氏、それからルー大柴などの顔。

『国辱映画』などと言われる作品だが、まあ戦争映画で敵側をワルく描かなきゃおもしろくないのは鉄則。ナチスに比べりゃあなた、格段の扱いである。マコの演ずる山本五十六も、三船敏郎や山村聡に比べれば貫禄不足だが、まあいい描き方をされているんじゃないの、という感じ。ただし、セリフがやはり、日系人的タドタドしさである。源田実(『ライジング・サン』のケイリー・ヒロユキ・タガワ)は大塚明夫が吹替えてやたらいい声になっているのだから、こちらも吹き替えにすりゃよかったに。大鳥居の下や竹の小屋の中で作戦会議をするシーンは、もはやお約束の“ヘンなニッポン”だからいいとして(その後ろで子供たちがどう見ても東南アジア製のトンボ凧を揚げていて、山本がそれを見て飛行機による空襲を思い付く)、書き文字の日本語がやたら正確なのに、横書きが全部左から、というのが逆に気になった。

 とにかく、SFX技術がこれだけ進歩して、しかも金がヤタケタにかかった大作であるから、戦闘シーンが迫力ないわけがない。この映画の爆発シーンに比べれば『トラ・トラ・トラ』のそれは花火に見える。アリゾナ(だったかな)の食料庫に爆弾が落ち、不発か、と思わせて一瞬の後それが大爆発、艦が内側からブワッ、とふくれあがるようにしてまッ二つになるシーンには度胆を抜かれた。これでもかこれでもかのコテコテ戦闘シーンはまさに手に汗握る。だが、やはり『アルマゲドン』の監督で、泣かせがとにかくクドい。クサい。友情も感動もいいけどそんなに全面に押し出して強制すんなよ、と、気恥ずかしくなる。一人の女をめぐっての親友同士のサヤ当てなど、ドサ臭さが全編に漂うストーリィである。戦争映画に女性客を呼ぼうというコソクなねらいがミエミエである。『タイタニック』で、パニックものにも女性客が呼べる、とわかってから、どうもこのテのが多くなった。それにしても、男二人がそれほど命かけて愛するほどヒロインのケイト・ベッキンセールが美人とは思わない(第一デッパだ。やたらキスをするシーンがあるが、見るたびに“歯がぶつからないか”と心配した)。メガネフェチの私の好みだった主人公の看護婦仲間のサンドラちゃんがワンシーン、下着姿を見せてくれたところが儲けものシーンだったが。

 そしてこの映画の最も驚くべきことは(ダン・エイクロイドが信じられないくらい太って出てきたことをのぞけば)、『パールハーバー』というタイトルの映画にも関わらず、真珠湾攻撃は映画の半ばのクライマックスでしかないことであろう。寄席に行って中トリに談志か志ん朝が出てしまったようなもんである。それから、アメリカがカタキ討ちとばかりに東京爆撃を敢行する話(目標の工場に巨大な『軍事工場』というカンバンが立っているのが笑える)が後半である。どうせなら二本立てにして、後半を『パールハーバーの逆襲』とかいうタイトルつけて上映すればよかったんではないかと思う。……えーと、あとは、これはなをきがちょっと前に募集していた“こんなのあったか? 特撮映画の記憶名場面”的妄想かもしれないが、日本軍の攻撃隊員が必勝のハチマキを巻くシーンに一ケ所、漢字で“戦争映画”と描かれていたのがあったように見えたんだが……。

 出て、JRで渋谷まで。行ったら雨がスコールのようなドシャ降りになっていたのに驚く。カサを捨てねばよかった。あわててまた買って、K子に携帯で電話し、タクシーで東新宿『幸永』。いつものメニューとホッピー2ハイ。かなり酔いが回って帰宅、夜中の3時に電話が鳴る。一回目は途中で切れたが、二回目を取るとなをきからで、“お父さんがどうも死んじゃったらしい”とのこと。驚いて電話をすると、母がポカンとしたような声で“そうなのよ。心臓が動いてないのよ。まだ体はあったかいんだけど”とのこと。“こないだ調子悪かったとき、入院させておけばよかったかなあ、と思うけど、いや、入院したところでさ”と、まだ状況が納得できていない様子である。と、いうか、病院にもどこにもまだ連絡していない、われわれのところだけだというので、早く呼びなさいよ、と言い、一旦切ってK子も起こし、またなをきに電話、とりあえず飛行機のチケットのみ4枚、インターネットで予約する。

 4時ころまた電話。病院からだった。今度はさすがに少し涙声だったが、死因が不明のため警察に回すとか言ってるけど、冗談じゃない、死因もなにもない、寿命なんだからそんなことさせないから、と、元気は元気。さっきの電話のとき、すでに心臓は止まっていたらしい。何の苦しみもない、文字どおり眠るような死だったようだ。悲しみとか何とかというより、このスケジュールがつまった週に何も逝かなくても、さ来週にはこっちが札幌へ行くんだったのに、という思いだった。とにかく急いで各方面にメールし、なんとか通夜と葬儀のあいまを縫ってのトンボ返りで、イベント関係に迷惑をかけぬよう善後策を立てる。とはいえ、明日(もう今日だが)のCSのオタアミ撮りのみはもう、これはどうしようもない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa