裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

金曜日

倦怠期フライドチキン

 晩飯がまたファーストフードか。朝、7時起き。二日酔いという程ではないが、ノドが腫れて痛い。口の中を真空状態にすると、ノドの奥の腫れている部分がポコンとふくれて舌の付け根のあたりに触れる。それがツルツルとしてビニール風船みたいでキビが悪い。朝食、豆のスープとヨーグルト。

 今日は昨日とうってかわったいい天気で、調子はよし。午前中にダカーポ原稿をやる。それから後楽園『トラッシュ・ポップ・フェスティバル』(結局こういう名称になった)の構成案をちょっと考える。植木不等式氏に、“食”の部門での協力を要請したら、即応諾していただいた。チャイナハウスに全面協力の言質までとりつけたというから早い々々。

 あと、二、三メール連絡などすませ、急いで神田へ出る。明日がオタアミで札幌行きなので、ぐろりあ会古書展に行くため。かなりクロっぽい本が並んだ即売会であった。300円くらいの出物が山積みになっていた中からちょっとほじくり出し、資料本などを探して、1万6000円ほど。そのあと白山通りをちょっと冷やかし、いもやに行こうとしたがちょうど昼時で長蛇の列ゆえ諦め、並びの牛たん屋で定食。お冷やがキンキンに冷えていたのがうれしかったが、メシはそれほどでなし。

 2時過ぎ帰宅、とって返すようにして時間割。アスペクトKくん。村崎さんとの単行本用対談だが、その前に今後の出版打ち合わせ。10月、12月、来年1月というペースで単行本をまとめることになる。10月はこの対談集『社会派くんが行く!』で、12月が『裏モノの神様』、来年1月に『裏モノ日記』。この日記の単行本化である。ただしこの日記、一年分まとめただけでも通常の単行本の三倍近い厚さになってしまうそうで、頭を悩ませるところである。ウェブで読んでいる読者のために図版や注釈も入れたいし、しかしそうとなるとさらに削らねばいけなくなるし。

 3時、村崎さん来、さっそく鬼畜対談。話題はもう当然、宅間守一色。なにか村崎さんに元気なく、人生や社会に対し諦念ぽい考えがまじる気がしたのは、盟友だった青山正明を失ったショックか。村崎さんの話では、腹切って、はデマだそうな。フィギュア王にも青林工藝舎にも(私のとこにも)腹切って、という情報で伝わっているのだが、出所はどこか?
「オレは鬼畜だからまったく悲しくないんだけどさ」
 と、何回も自分に確認するように村崎さん、くり返していた。

 家に帰り、さすがにクタビレて横になり、読書。恵贈本三冊に目を通す。松尾スズキ&河井克夫『読んだはしからすぐ腐る!』(実業之日本社)、岡田斗司夫&山本弘『ヨイコ』(音楽専科社)、いしかわじゅん『だってサルなんだもん』(アスキー)を連続で。『読んだはしから〜』は脱力系エッセイマンガというジャンルになるのだろうか。最近の演劇系の人と言うのは宮沢章夫なんかもそうだが、どうしてこう脱力系が多いんだろうなー、と不思議に思う。ここまで肩の力を抜いたモノの見方というのは、逆に単行本一冊分まとめて読むと、かなり疲れることも発見する。人間ドックに入って心電図やレントゲンをとられ、一日中“はい、力抜いてー”“リラックスしてー”と言われ続けるとぐったりしてしまう、アレに似てるのではないだろうか。

『ヨイコ』はかなり前に送られていて、不在だったためにマンションの管理人室に預けられて、親父の葬式などあってウッカリ取りにいくの忘れてしまったもの。オタク座談会シリーズ4冊目だが、井戸端会議的な感じだった前三冊に比べ、ゲスト呼んで語るという設定で鬼畜度は薄まっている。大地丙太郎監督の回での、日本の映画業界人の貧乏ぶりに今さらながら“ひでえよなあ”と思う。ゴジラ監督のギャラの安さ、テレビアニメには監督印税が発生しない、などという状況でいい才能が映像業界に残 るわけもない。岡田斗司夫の
「バンダイ・ビジュアルのナベさんが、15年前から“何とかしなければ!”と言ってて、“何とかしてねえじゃんか、オマエは。『アヴァロン』に出す金があるんだったら、なんとかしろよ!”と(笑)」
 という言葉には大地監督と同様、“それは俺もそう思う(笑)”と深くうなづく。

 最後が『だっサル』8巻。これにも岡田さんが解説を書いているが、これが傑作。名文であると思う。なんで岡田斗司夫がいしかわじゅんのファンなのか、実は長いこと不思議だったのだが、この解説の中でいしかわじゅんの持つ魅力を“好きなものに対する一歩引いた感覚”と喝破しており、膝を叩く思いだった。そうなのだ、いしかわじゅんのマンガ批評が多くの敵を作るのは、マンガというものに対してのみ、彼がアツくなりすぎて、己れの本分であるところの“一歩引いた感覚”を忘れ、ずかずかと土足で踏み込むような分析や批評をしてしまうからなのだろう。

 6時、芝崎くん来。と学会事務の引き継ぎ、本の進行などについて話す。ライターというもののあり方などについても、ちょっとアツく語って、大感心されてしまい、後で逆に少し恥ずかしくなる。いしかわじゅんを笑えない。7時半まで。

 8時、渋谷HMVの下の中華料理『白鳳』でメシ。前菜で頼んだ中華風冷や奴が最後に出てきた。食い終わったのが9時半で、酒もそんなに飲まず、早寝をする。ノドは何とか回復した。明後日がトークなので、ホッとする。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa