裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

2日

土曜日

よろしくICU

 集中治療だけが頼りだ。朝8時起き。と、いっても6時には目が覚めて、いろいろもの思いにふけったりする。朝食、ガスパチョとイチジク。イチジクを食べると便通が極めてよくなり、ダイエットにもなるが、昼時分に腹が餓鬼のように空く。

 午前中はWeb現代用のネット探索。今回のはネタはいいとして扱い方がちょっと難しい。先にサンマークのを書いてしまおうと思い、そっちからかかるが、そうだ、芝崎くんが3時に来るんだと思い出し、先に神田へ行ってしまおうと思い(神田へ行くのは別に仕事でも義務でもないのだから、行ってしまおうもないのだが)、出かける。神田古書会館、和洋会古書展。会場に入ったとたんクシャミが出て、よほど今回はホコリっぽいものが多いな、と苦笑。確かに、美本ほとんどなし。ぐるりと回って9000円ほど。この程度の買い物が気楽でよし。

 出て、白山通りをちょっと回り、いもやで天丼。ここの職人は非常にリズミカルに動き、システマティックに仕事をして、ずらりと居並ぶお客の注文を片端から聞いて間違えないプロだが、今日は私のところで、ちょっと他に気をとられていたこと(子供連れのお客が来ていて、そこで客の出入りのリズムが狂った)があり、注文を聞き損ねたとみえ、エビ天丼ごはん少なめ、という筈がフツーの天丼が出てきて、作りなおすハメに。それで歯車が狂ったか、それからしばらく、いちいち確認してからでないと注文を正確に覚えていられない状況になったようで、精密機械がちょっとのバグでうまく作動しなくなる現場を見たような気分になった。やっと出てきたエビ天丼もごはんが普通盛りになっていたが、朝がイチジクで腹が減っていたので、ペロリと食べてしまう。最近は胃袋も丈夫で、胸焼けもしない。返って太りそうで憂鬱である。

 帰宅、ジャスト3時、5分もしないうちに芝崎くん来。先日のセックス論の続きをしゃべる。芝崎くんがさっきセンター街のマクドナルドで食事をしていたら、後ろの席にいた女子高生が、“地下ブルセラ”でバイトをしている話をしていたとか。パンツをその場で脱いで売るのだが、あれは汚れたのを履いているとキモチ悪いので、二枚重ねて履いていて、それをいかにも全部脱ぎました、という感じで脱いで渡すのだそうな。“オシッコ買う客もいてねー、マックシェイクのこういうカップにして、ストロー立てて、ハイって渡すの”ストロー立てて、というところが笑える。“でも、こんな若いうちから何十万って大金が自由になると、絶対生活感覚ってものが狂ってくるよねえ。いつまでもやる仕事じゃないよー”とこぼしていたそうだが、しっかりしていると感心すべきなのかどうなのか。

 吹き込み終わった後、書庫を手伝ってもらって本探し。と学会本で私の担当になっている本が二冊、書庫の本の山の中にまぎれて見つからないのである。数十分、山をかきわけかきわけ、やっと二冊とも見つけた。ふう、これでやっと執筆できます。明日のと学会例会のこと(今度、彼にと学会事務を柳瀬くんから引き継いでもらう)を少し話して、ではまた明日、と別れる。

 それからサンマークにかかり、何とか形をつけてK子に送る。しばらくボーッとしてしまい、今日、神田で買った本を拾い読み。昭和63年東京都文京区太平書屋発行限定200部『けったいなはなし』は、金瓶梅研究家のI氏が所蔵していた、大正時代の大阪のワラ半紙刷りの小冊子が原本で、赤本出版者が、落ちぶれた道楽者などに自分の色事の経験談などを書かせたり聞き取ったりして冊子にし、飄客に売ったり、お得意さまへの内緒の進物にしたりしたエロばなし本の復刻である。六十三歳の売春婦の思い出ばなしや、ヤトナ芸者、性交シーンの物まね芸を売り物にしていた落語家の話などを、語り手のディープな大阪弁そのままに写して文章に起こしている。その性交物まね芸のことを寄席では“ビッチョビチョ”と称していた、というからキタナイね、大阪はどうも。

 面白いのが女装のおかまの話で、彼はおかまを完全な商売と割り切っていて、自分で客を引く他に、チョンの間のパイ一屋を四軒も経営しているというやり手。女役でカマをほらせはするけれど、同性愛ではない、という。
「よう聞きや。はやりの同性愛ちゅうのんあるやろ。そいつに、おかま、つける(唐沢注・ルビのこと)訳やが、これと大分違うんや。同性愛ちゅうのん経験したんが、よう、おかまになるわいな。これでも、どっちかこっちか、おなごにならないかん。しゃけど、このあがり、珍宝とおそそ、中途半端に知っとるさかい、あかんねん。まとが違うねん。(中略)男はん、一ペン、じっくりおかま抱いたら、その味、そら、もう忘れられんわ。それがやで、嫁はんとおそそしたり、おやま(唐沢注・遊女)とおめこするのんと、又、ちゃう味やがな。そやさかい、前に言うた、同性愛のあがりでは、あかんねんがな」
 ……わかったような、わからんような。

 7時半、渋谷西武で買い物し、K子と8時に待ち合わせ、HMV地下の中華料理店『白鳳』。20パーセントオフの券を手に入れたから行ってみよう、というセコいことで。ここ、高級中華料理店なのに、メニューが『ぷるぷるピータン』だとか『蟹肉を詰めてじっくり揚げた揚げ饅頭』だとか、表記のファミレスぽいのは場所がらか。フカヒレ煮込み、北京ダックなど食べて、もともと他の場所の中華より一割方安いところに加えて二割引きなので、オトク感あり。紹興酒、二人でボトル一本。

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