裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

火曜日

花伝書、花伝書で半年暮らす

 バンカラ能役者。朝7時起き。朝食、田舎パンにサーモン、チーズ。宮沢一家残殺事件ネット予告か、というニュースで、書き込み者のハンドルを“黒ムツ、黒ムツ”と呼んでいる。正確に言え、“黒ムツさん”だろ、とツッコむ。さんづけにするとなんかコッケイさが出てしまうからだろうが、不正確はいけません。これからネットで予告殺人をしようというやつは、できるだけアナウンサーとかレポーターが呼びにくいハンドルをつけるようにするとさらに世間に対して意地悪ですぞ。あと、新聞の片隅に椎名林檎妊娠五ヶ月、の記事。バンド連中というのはなぜ、ゴムつけないか。

 鶴岡から朝早く電話。昨日のロフトイベント(フーゾク魂)の話。さすがに私は昨日の状態では行けなかったが、平口広美の口から、われわれ共通の知人の話などが出て、いろいろオモシロかったとのこと。週刊ポスト、届いたものを読む。死んだオリコンの小池社長、波動と気に凝って、血圧が200を超えてもクスリを体に入れずに気で治療しようとしていたそうである。社員にも朝礼後に瞑想と呼吸法を実践させていたというから、迷惑な話である。人気という不定形なものを長年扱ってくると、そういうものに意味をもとめたくなるのかもしれない。

 朝のうちに終わるはずだったエンターブレインの残り、結局一日中かかる。イロイロとコ難しいことを言っている場所だけに、テープ起こしの学生がこちらが言っていることの内容を把握しきれず、わからないなりに話をつなげてオコしているので、途中で論理がつながらなくなったり正反対になってみたり、自分でしゃべったことなが ら、それを意味つなげて読むのに脳がえらく消耗する。

 12時、どどいつ文庫伊藤氏。例によっての変な洋書一束。黒人リンチの“記念写真集”など。だいたいが1910年代のものだが、リンチの模様を絵葉書にしてみたり、また死体を焼いているところを子供連れでピクニック気分で見学していたり、といった当時の風俗が凄い。伊藤氏、またまた変な人物につけ回されたそうで、今度は風邪ひいてマスクして外出したら、マスクフェチらしい障害者にずーっと話かけられてついてこられ、往生したそうだ。やはり、風貌や動作から感知して伊藤氏のことを仲間だと思うのだろうか、そういうヒトタチは。

 風呂、一時過ぎになる。昼は小さなヒレカツ二切れで御飯軽く一杯と、豆腐の味噌汁。ずっと仕事。仕事関係の電話数本、ダレソレさんの電話番号教えてくれという、不精な電話一本。こないだの『セシル・B』の配給会社ブレノン・アッシュから、感想を聞かせてほしいという電話。週ポスからはまだ掲載のこと行ってないか?

 がりがりと原稿。7時、中断して外出。銀行行き、家賃降ろす。東急古書市はニランだだけで通り過ぎる。新宿へ出て、ビデオショップをちょっと回る。買いたいものなし。山手線で新大久保。とりあえず、事故現場を見学。もっと花とか備えてあるかと思ったが、そんなことしてまた事故につながっちゃまずい、と思ったか、目立った ものはなし。ただし、駅員がちゃんとホームにいた。大久保通りを戸山方面に歩き、 脇道に入る。薄暗くて日本語表記のあまりない道を歩き、イラン人とかのいる公園の向かいにある『グリーン食堂』。変な名前だと思っていたら、グリーンホテルというラブホの一階にある食堂だからグリーン食堂。世界文化社と打ち合わせ。ナンプレのKさん、単行本のDさん。Dさん、この店の常連らしく、テキパキと注文。ネギチヂミ、春雨炒め、豚アバラ焼き、豚ジャガイモ鍋、それの残り汁を使ったチャーハン、〆に冷麺。豚中心というのは韓国料理屋さんにしては珍しい。豚ジャガイモ鍋というのはあまり食欲をそそらない名前だが、この豚肉というのが背骨をブツ切りにしてブチ込んだもので、肉というより、髄や、骨の周りにからみついている腺などをセセって食べるもので、きわめておいしい。香辛料のかなり効いた鍋だったが、たちまち骨入れに、さまざまな形状の骨のカケラが山をなす。最後の冷麺は驚くほどのアッサリ味。生ビール二ハイ、真露のオリジナルタイプを四人で三本、あけた。

 タクシーで帰る。通りの雑踏を見て、K子に“植木(不等式)さん、ここらへんを歩いていたりして”と言う。帰ってと学会のパティオを見てみたら、ホントに韓国刺身を近くで食べていた。だいたい、人というのはそのもっともいそうな場所にいるも のなのだな。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa