裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

金曜日

たいしたもんだよカエルのショーン・ペン

 マドンナつながり。朝7時50分起き。夢で、わが才能を読者にも同業者にも出版社にも、天の声にまで絶賛される。なんでこの夢を二日に見ないか。ホテル暮らしも今日で終わり。多少二日酔い気味で胃がもたれている。シャワー浴びて、メシ食いに行く。さすがに食欲起きず、プチクロワッサンにマーマレードと果物のみ。これまで冷やかしっぱなしだったオミヤゲ屋で、時鮭のスモーク・サーモン、日高昆布、銀ダラの味噌漬けなど買って、東京へ発送。部屋で、『浪花少年探偵団』のアンコール放送を見る。『踊るマハラジャ』を日本でやってしまおうというのが大胆だが、山田まりやの王女様の国がいきなり“ロリシカ”。NHKはオタクの巣窟であるらしい。まあ、居間はロリという発音を聞いただけでインパクトがあるから採用したのかも知れないが。朝食時は外、ヒヒたる大雪だったのが、その後少々収まったので、道庁をへだてた薬局まで二人で歩く。胃腸薬のドリンクなど買って飲み、同じ毎日新聞ビル6階のノーザンクロスに行き、Iさんと出版のスケジュールを打ち合わせ。

 タクシーで実家、親父は昨日よりは元気に目など見開いているよう。メールなど確認。荷造りの追加などをする。日垣隆『偽善系』(文藝春秋)など読む。威勢のいい(いささかよすぎる)文体がタクアンをパリパリ噛むようで心地よい。谷沢永一や小室直樹に変わる、左翼いじめ文化人のニュースターといったところか。“あ、あのなあ”とか“それはあんただけだろうが”とかというツッコミの文句はと学会ぽい。

 1時過ぎ、K子がラーメンを食べたいというので、タクシーで出掛ける。ノーザンクロスでここはオイシイと教わった、南3条西8丁目の『深花』という店。サッポロラーメンではなく、とんこつスープの博多系なのだが、麺は太くてシコシコのサッポロ風。カウンターだけの店で、四○がらみの親父さんがグレーのセーター姿という、喫茶店ふうのいでたちでラーメンを黙々と作っている。しょうゆ、みそ、塩の他に辛みそ、というのもある。しょうゆのチャーシューメンを注文。千切りの生キャベツと焦がしネギが入るのが博多風だが、それほど郷土色は出していない。スープも骨髄臭くなくこってりとしながらさわやかで、わざわざタクシーで来ただけのことはある店だった。チャーシューが角煮だったのがちょっと不満だが、それでもおいしかったからいいや。

 ここの付近の通りはおしゃれ通りなのか、サーファーショップのような店が数軒、並んでいる。学生たちが連れ立って歩いていた。もっとも、雪に埋もれた中であるからおしゃれもクソもないが。狸小路を歩いて地下街に入り、三越で明日の朝食のパンや牛乳などを買い物。行きのタクシーがバカ混みだったので、帰りは三越近辺をはずして紀伊国屋のあたりから乗るが、それでも家まで三○分以上かかった。こんなに渋滞している札幌は、記憶にある限り初めてではないか。

 帰って、星さん、小野寺さんと少し話す。親父が寝てばかりいるのも無理ない、と思える眠さがこの家の中では襲ってくる。二階で少し眠る。『一個人』から電話。新年の取材の日取りについて。12日ということにする。小野寺さんが親父に温灸をしてくれている。すでに神経がまるでマヒしていると思っていた右腕が、最近は熱いとピクピクして、逃げるように動くようになってきたという。根気は大切だな。親父の酸素吸入機(血中酸素濃度が下がっているときのみつける)は、最新式で、部屋の中の空気から、酸素だけを分離して吸入させるもので、酸素ボンベがいらないというスグレモノ。しかし、この部屋にいるとどうも眠くなって、頭が働かなくなる気がするのは、この機械のせいで酸素が足りなくなっているからではないか。冬のことで部屋が密閉されているのだから、その可能性はなきにしもあらず、などと冗談まじりに小野寺さんと話す。

 帰京の飛行機は9時50分の最終(これだと運賃が安くなる)なので、家で晩メシを食ってから帰る。母がテンプラを揚げてくれる。ビールを勧められたが、今日はアルコール抜きと決め、ウーロン茶にて。自主的にアルコールを控える気になったのは生まれて初めてかもしれない。トシをとったもんだ。

 7時半、家を出て、エアライナーで千歳へ。去年は一週間以上も帰省していて、ややダレたが、今回はあっという間の五日間だった。空港のおみやげ屋はどこももう閉店している。ANAのフライト一時間ちょっと。気流が悪いので揺れます揺れますと何度もアナウンスがあったが、少しも揺れず。深夜の東京をタクシー飛ばして、帰宅はすでに12時を回っていた。部屋じゅうがシンと冷え切っていて、暖房入れても寒い々々。ネコは暖房マットの上でぬくぬく。年賀状見て、早々と寝る。ついに一日、酒を抜き切った。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa