裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

金曜日

ころしもよろしくお願い申し上げます

 ゴルゴ13への年賀状(依頼者から)。朝7時半起き。ホールのような、役所のような場所で落語会をプロデュースする夢。ブラ談次が張り切って仕切っていて、高座には志加吾。私は母を招待しているが、志加吾の顔の色の白いのに母が驚いている。落語も聞きたいのだが、トリを務める談之助がなかなかこない。携帯で連絡しようかと思っていたらやっと来てホッとする。この夢の場所も、よく、見る場所である。朝食、オニオンスープに卵を落として。ゆうべソバ屋でもらったみかんをK子と半分こして。

 一昨日の日記で仙台の殺人准看護士に似ていると言った某知人、裏々パティオのメンバーなのだが、回りからも似ている似ていると言われるらしく、パティオでグチっていて笑う。本人は新聞もワイドショーも忙しくて見ていないらしく、似ているのかどうかいまだにワカラナイそうである。今日は11時半から中野で取材。11時までにデジタル・モノの映画評を六枚、アゲる。回を追うごとにマットウな映画評からは離れていくが、そっちの方がオモシロイだろうと思う。第一、書いている私がオモシロイ。

 アゲて大急ぎでシャワー浴び、中野へ向かう。ハローケイ『一個人』という雑誌の連載企画で、いろんなタレントや文化人に下町を歩いてもらい、一万円の買い物をしてもらう、というもの。私の以前にはなぎら健壱や春やすこなどが登場。最初10日と入っていた予定を12日に延ばしたのは、10日くらいまではまだお正月の飾り付けをしているだろうから、松が取れてから、ということだったのだが、取れるどころか中野のブロードウェイ、謹賀新年のカンバンが下がり、鶴だの蛇だのの人形が飾られ、『春の海』が放送でバンバン流れている。もう成人の日も済んだというのに、中野というところはノンビリしているなあ。

 ざっとブロードウェイ裏の飲み屋街を歩き、とりあえず五人(編集Kさん、カメラマンの熊谷さんとその助手の松村雄基に似た青年)で打ち合わせ代わりの昼飯。台湾料理屋を“ここ、おいしいですよ”と言って入ったが、定食(なぜかランチというのと、定食というのと、同じ昼時間帯メニューが二種類ある)の酢豚はごくフツーの出来。よく考えたら、うまい台湾小皿料理屋は別のところだった。熊谷さんは私より二つ年上の四十四歳、幻灯機、セルロイドのオモチャ、マジックプリントなど、昭和三十年代グッズの思い出ばなしに花が咲き、いきなり盛り上がる。

 ブロードウェイの入口と飲み屋街の裏手で写真を撮り、さてイチマンエン札を渡されて買い物に出発。最初は雑貨屋でギンナン炒りを買ったり(700円)、てんぷら屋でアゲ玉(100円)を買ったりしていたが、途中で見つけた、古い、いい感じの中古レコード屋に言って、ベッツィ&クリスの『白い色は恋人の色』(600円)を見つけて、やはりオレはこの路線、と決めた。そこのレコード屋の経営者らしい上品なおばさんが、非常に、というより異常に親切で、初めて店を訪れた私といろいろ会話をかわし、私が北海道出身だと知ると、北海道のすばらしさを絶賛し、北海道から優れた人材が出ているのは、幕末に榎本武揚が幕臣のエリートたちを連れて五稜郭に立てこもったときの子孫たちがいるからだろう、と言う。外で写真を撮ってる熊谷さんたちを、“素敵なおともだちですこと”と誉め、この飲み屋街の歴史を教えてくれ(昭和22年からあるそうだ。この店は最初、中野駅のすぐ側にあったのが駅前の開発でこちらに移ったとのこと)、おまけに三枚ほど買ったEPレコードの値段を“あなたは素敵な方だから”と、まけてくれた。何か、メルヘンチックな異世界へ迷いこんだ気がした。

 それから中野ブロードウェイ。洋モノ雑貨、キャラクターグッズなどを買い、『大予言』、『変や』、『まんだらけ絵本館』。さらに地下に降りて(地下ははじめて。昔の上野アメ横を再現したような場所だった)、アジア系雑貨店で赤ん坊人形(たった100円。さすがアジア系で、目がツリあがっており、最初は見たときはグレイ人形かと思った)、クロレラ入り乳酸飲料(80円。飲むとホントウにビン底に緑色したクロレラが沈む)、駄菓子類(十種類ほど、総計で1100円)など。図版的にカラフルになるよう考慮しつつ買い物するが、Kくんに感謝される。頼んだ人の中にはいきなり骨董で8000円、などというものを買って、図版の品数が揃わず苦心することもあるという。“あと、男性の方はオアソビという感じで、面白いものを選んで買ってくれますが、女性の方に頼むと、本当に自分が今使うための、洗剤とか、食器とかを買いますね”とも。無駄遣いが出来ぬ女性、というのは古い女性観であってそれはドーノコーノ、とフェミニズムのヒトから苦情がくるかもしれないが、これは今までずっとこの企画を担当して誌面作りに苦労してきた編集者の一意見なのである。

 ここまでで大体8500円くらい。喫茶店で一回、買ったもののつけあわせ。駄菓子などは前にも買った人がいますが、やはり個性が出て、今回カラサワさんの買ったものとは全然ダブっていないのが面白い、と言われる。コーヒー飲みながら、また熊谷さんと三十年代ばなし。Kくん、聞きながらその盛り上りぶりに驚いている。今回のようなレトロものをオトナになって買い集めるのは、自分の過去を買っているのであり、かつ、古びているというだけで昔の記憶にもないものが非常な懐かしさを持ってこちらに迫るのは、その過去が増殖し、拡大しているからだ、という話になる。それこそ誌名ではないが一個人にとって、未来は年齢と共にどんどんその可能性がせばまってくるものだが、過去は逆にどんどん豊かになり、広がっていく。過去にこだわるものの方が、実は未来思考の人間より、ずっと広い世界を制覇できる。熊谷さん曰く、アメリカが長い不況から脱することが出来たのは、国民に“あの豊かだった五○年代に帰ろう”という方向性があったから。これから社会を発展させていくのは、絶対に未来ではなく、過去へのベクトルですよ、と。

 最期に残った金で、また『まんだらけ絵本館』にもどり、レトロな塗り絵本で買い物の〆とする。ついでにそこで、古い少年講談本など数点、自分用の買い物。あとまだ少しブロードウェイの中を撮りたいという熊谷さんたちと別れ、帰宅。思ったより楽しい仕事になった。帰宅してもひと休みするヒマなく、週刊読書人原稿。書き上げてメールし、ホッとひと息。いろいろ電話したり、資料調べたりしているうちに、5時からのイーストプレスとの新編集引き継ぎ打ち合わせの時間を失念。Kくん(さっきのKくんとは当然別人である)からの電話で気がつき、あわてて時間割へ。

 時間割、今度退社するKくん、編プロのIさん、そして新担当Gくん。このGくんを見てちょっと驚く。坊っちゃん刈りみたいな髪型の、うーむ、要はオタクアミーゴスによく来ている地方のファンによくいる顔、という感じの人なのだ。頭はいいのかもしれないが、風俗誌の編集さんにはまず、最も似合わないタイプなのではないか、と思える。聞いたら、やはり私のファンで、著作はほとんど読んでおり、今度担当出来てうれしいです、と言う。それは光栄。しかし、なにしろ『フーゾク魂』である。私の連載はいつものような奴だし、別にかまわないが、平口さんなんかの取材、うまく引き回しできるのだろうか(風俗経験も聞いてみたらあまりないそうだし)。Gくんに“ここから先はアナタ、しばらく聞かないでね”と言って(笑)、いろいろ編集ばなし、出版社ばなしをKくん、Iさんと。平口さんの描いたKくんの顔は似ていたなあ、と改めて思う。

 別れて、パルコブックセンターへ行く。歴史ミステリに面白そうなのがあったので一冊購入。鶴岡が原作のパチンコマンガの載った雑誌が出ていた筈、と思うがオシャレなPBCにはもちろんなし、近くのファミマに行くがここにもなく、その先の毎日屋でやっと見つける。蒼竜社(なんか、いかにも元暴走族とかが編集にいそうな名の出版社名だな)のパチスロセブンジュニアという新雑誌(やっぱり編集長は元ゾクだとさ)に新連載の『ヤマアラシ』という作品。鶴岡が原作なんだから、てっきりドリフト道場的なヤバ系裏情報満載のものかと思っていたら、硬派ヤンキーもの(泣かせ入り)だった。まだ第一回だからルーティン的なキャラ紹介で終始しているが、キャラは流石に立っている。

『どつかれてアンダルシア(仮)』の配給会社から電話あり、デジモノで取り上げた礼を言われる。さっき原稿を送ったばかりで早い々々。ヘンな映画評欄なんで、期待しないでくださいと言う。8時半、パパズアンドママサンでK子と焼鳥。現在店をしきっている息子がサーファーなので、今日は店がサーファー大会になる。そのスミッコで焼鳥とジャコ奴、和風ワンタン、それに正月らしく餅を焼いてもらって食べる。ギネスビール、お湯割焼酎梅干し割三バイ。外は今夜はかなり冷えるが、焼酎のイキオイでイセイつけて帰る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa