裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

水曜日

良平は死なずただ消えゆくのみ

『一杯のかけそば』の作者、どこ行っちゃったの? 朝8時半起き。初夢だかなんだか知らないが、チャップリンの映画に特撮担当でつく、という夢を見た。『独裁者』のヒンケルが新兵器の人間溶解薬をあやまって浴びて溶けてしまう、という、もちろん本当の映画にはないシーンだが(『ホット・ショット2』のフセインみたいだ)、ここでチャップリンの顔面に、溶けたメイクを私がほどこす。いろいろとやかましく叱られ、“噂どおり嫌な男だな”と思うが、いざ本番で、溶けていく芝居をする彼を見て、“やっぱりうまいわ”と舌をまく、という内容。

 バイキング、今日は納豆ゴハンにする。隣の席の夫婦、韓国の人らしいが、この女性(男とやや年齢差あり)がちょっとオシャレ系。皿を見たら、パンとジャム、それに果物だけの都会的なもの、かと思ったら、それにキンピラゴボウをつけ合わせていた。やっぱりあちらの国は違う。部屋で風呂など入り、母から携帯で頼まれて、ホテル前のなにわ書房に行き、文春文庫の子母澤寛『愛猿記』を五冊、注文する。あまりにいい文章なので、来る人々々にみんなあげているのだそうだ。

 タクシーで実家へ。運転手さんが四○代半ばくらいのおばさん。子供たちの手がかからなくなったので、タクシーで稼いでいるのだそうだ。いかにも北海道のおばさんという感じで、ざっかけない言葉使い。東京の人間などがいきなりこの調子で話しかけられたら、怒り出す人がいるのではあるまいか。札幌駅前に出た温泉を利用して、夜景を見ながら温泉につかれるホテルが出来ているそうで、K子、来年の宿はそこにしよう、と言う。

 親父、静かに眠っている。どうもこの数日、寝てばかりで、発声も明瞭ではない。正月に大勢人が来たり、風呂入ったりで疲れたのではないかと思うが、母はかなり気にしている。テレビは寄席番組ばかり。あした順子・ひろしが爆笑を切れ目なくとっているのに驚く。マスコミがベテラン漫才コンビとかいってもてはやすのを、何をこんな連中をモノズキに、と思っていたのだが、やはり芸人にとって、マスコミの注目を浴びるというのは違うものだ。世田谷の殺人事件の被害者は、やはり昔のアニドウ関係者であったらしく、新聞で川本喜八郎さんなどがコメントを寄せている。東大アニ研出身らしい。当時、よくここ主催の上映会などに出かけたもので、井上くんなどが“あいつら東大まで行ってて、なんでアニメなんか見てるんですかね”と、毒づいていたものである。

 昼はカニチャーハン。なにしろ正月用にと母が買ったカニが巨大極まるもので、胴の部分など、私のアタマくらいある。食っても食ってもまだあるのである。珍しく、腹にカニミソが入っていた。タラバのカニミソは滅多に食べたことのある人がいるまいが、毛ガニのよりもさっぱりした、いい風味のものである。

 日記がなかなかつけられない。記録はともかく、頭がポワーンとして、タイトルの駄ジャレがまるで思い浮かばないのである。二階の書棚から国語辞典などをひっぱり出してきて、少し考える。“愛とバーコード”というのをひねり出したが、これはなをきのマンガに既にあった。あまりに決まり過ぎているシャレは、すでにどこかで誰かが使っていると見てよさそうである。タモリの“ボーイズ・ビー・アンギラス”とか、談志の“アスファルト思う心の仇桜”などというのは、同ものを自分でも考え出してから先に使われたことを知って、くやしくて地団駄踏んだ例である。  夕方になって、K子と町へ出る。札幌駅前の西武ロフト。一時間ほど別れてそれぞれの買い物をする。紀伊国屋書店がロフトの中に入っているので、そこで『ことわざ名言事典』などを買う。駄ジャレの参考にするためである。

 帰って夕食。AIWからもらった松坂牛をバタ焼きにして食べる。うまいが胃が疲れているせいか、そんなに入らない。ヌカミソ漬けの大根の方がいい。テレビでは橋爪功主演の『伊能忠敬』。幻灯器で映し出される化け猫の絵がまるで江戸時代っぽくなかったり、女性が“悪い予感がするわ”などと言ったりするのに少しシラけて、途中で見るのをやめてしまった。なんで“虫が知らせます”とか言わせられないだろうかな。新山千春の東北なまりのウマさに母は驚嘆していたが(後で調べたらやっぱり青森出身だった)。

 ホテルに帰り、部屋でテレビ見ながらビール飲む。ツマミに、コンビニで買った燻製タマゴやチーズせんべい。NHKの『四大文明スペシャル』、エジプトとメソポタミア。ビールだけではあまり酔わずものたりないが、ここは冷蔵庫の中に他の酒類がない。12時ころ、就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa