裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

月曜日

ハンギングですばい

 戦争犯罪人やけ、絞首刑くさ。朝7時半起床。ワインの酔いのあしたは目ヤニが出る。酔いと目ヤニの関係はどういうものか。受験生のころ、東中野の伯父の家に泊ってうまれて始めてウィスキーでベロベロになり、翌日、目ヤニで目が開けられず、失明したかと一瞬パニックを起こしたものだ。朝食、チリコンカンと紅玉。電話数件。原稿、大きなポケット二回目。FAXにて送信。風呂場で体を洗っているとき、冷気がしんしんと感じられる。

 海拓舎原稿、昨日の遅れを取り戻すべく取りかかるが、当然のことながら進まず。1時、京橋でジョン・ウォーターズ新作『セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ』の試写。時間を調節して行き、京橋の定食屋でマグロのづけ丼を食って昼にする。

 アサコ京橋ビル地下試写室。知った顔はおらず。ジョン・ウォーターズが今日、来日するそうだ。映画は、シネコンばやりで家族向けSFX大作しか製作されなくなってしまったハリウッドに反逆し、アングラ・B級映画万歳を唱える過激映画マニアの話(原作・ウェイン町山と言われても信じるよな)で、バチバチと人をぶち殺し、自分たちの仲間も殺されながら、執念でアドリブ映画を作り続ける。ストーリィはブッ翔んでいるものの、いつものウォーターズ作品のような、悪趣味をネチネチと楽しむ粘着度は低い(ハートウォーミングものだった前作『I LOVE ペッカー』の方がまだ、ウォーターズらしいカットが多かったように思う)。映画のメッセージ性がマジだか冗談だかよくわからない部分があり、観る方で自分の立ち位置をとりかねるような作品に思えた。確かに映画の本質はゲリラ的アングラ作品にあるのかもしれないが、だからと言ってご家族向け映画全てを否定して、“テレビ番組の映画化作品を撮った”“ゲームの映画化作品を撮った”というだけでその監督を堕落したと決めつけてブチ殺していいか、というと少し(いや、だいぶ)疑問が残る。レンタルビデオのテープを巻き戻さないというだけでキレて殺人を犯す『シリアル・ママ』のイグザジュレートには大笑いできても、こっちの誇張ぶりは、半ば理解できるだけに、笑うことに二の足を踏んでしまうのである。

 とはいえ、ウォーターズ節の片鱗はあちこちのシーンで快調で、ウォーターズ映画常連の上品ぶりおばさんミンク・ストールが車椅子の心臓病のガキ(難病の少年だって誰もが天使のわけではない)とやり合うシーンや、ポルノ映画館で股間をボッキさせた観客が『ゾンビ』のパロディで迫ってくるシーンなどは爆笑もの。さらに驚いたのは、デビッド・リンチの『砂の惑星』で、主人公ポール・アトレイデの妹アーリアを演じていたアリシア・ウィットが、モロに好みの美人に成長していたことである。

 映画を終わって銀座三越で買い物し、帰宅。海拓舎Fくんから当然の如く電話。何とか、何とかと平謝り。また、『大きなポケット』からは原作ナオシの指示。さらにエンターブレインから催促。尻に火がつく、とはこのことだろう。とりあえず、海拓舎原稿をガリガリやって、最初の部分のみメール。

 7時、また家を出て新宿。中村屋地下マ・シェーズで神田陽司と打ち合わせ。二人会を四月にやることにする。陽司さん、デジタルBSの仕事やITがらみなど、いろいろレギュラー仕事が入り、なかなかの売れっ子である。もっとも、目にするのに苦労する場所ばかりだ。師匠の神田山陽の死去で、なんと、神田紅の弟子ということになったそうである。

 K子から“予約しているんだから早く来い!”という電話入り、急いで幸永へ。クリクリのケンさんと絵里さんも遅れているので、御機嫌ナナメである。すぐそのあとやってきて、お互いを紹介する。絵里さんの父親の沼田曜一氏も晩年は民話の語り部として有名であり、講談という芸には興味がある。ケンさん、例によって無茶苦茶な博識ぶりを示し、ついていくのがやっと。いつものテールスライス、極ホルモンなどとホッピー。食べ終わって珈琲貴族に席を移し、さらにいろいろ語る。12時ころ、 帰宅。

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