裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

日曜日

千房家の人々

代々お好み焼きを……って、これまで“ちぶさ”って読んでいたよ!(マジ)

※コミケ 下阪〜カルト寄席出演

朝7時起床。
やや昨日の酒、残って頭痛あり。
バカだねえ、と苦笑しつつシャワー浴びる。

松林宗恵監督の訃報あり。
5年ほど前に一度だけ、今夜会う快楽亭ブラックの誘いで、
中野ブロードウェイの居酒屋で大勢のファンたちの
中に混じって、お酒をご一緒したことがある。
80歳を超えて初めて自動車の免許を取った話をされていた。
何とそのときの自動車教習所の教官が偶然、以前厳しく叱った
助監督だったそうで、“ずいぶん仕返しをされたよ”と
笑っておられた。とはいえ、お歳を感じさせぬその進取性には驚いた。

『世界大戦争』のラストはもう少し救いのあるものにしたかったが、
ああいう希望のないものになってしまった、しかし笠智衆さんの顔で
救われた、あの人が私と同じ僧職経験者だということは後で
知ったが、あの顔には仏に通じる優しさがある、としみじみおっしゃって
いたように、浄土真宗の寺に生れ、僧籍を持ち、かつ海軍少尉であった
という独自の経歴の持ち主。

私などは若いころ、どちらかというと同じ東宝系の映画監督でも
市川崑や岡本喜八のような才人派を好み、松林宗恵や本多猪四郎の
ような職人派を軽く見ていたのだが、この時期にはもう、職人監督に
ぞっこんで、社長シリーズをあれだけ続けて撮った松林監督は
神様みたいな(いや、お坊さんだから仏様みたいなと言わないと
いけないのか)存在だった。ちょうどNHKの大河ドラマで
三谷幸喜の『新撰組!』が賛否両論、話題になっていたときだったが、
「ああいう王道の番組で実験をやっちゃいけない。大作映画で
ケレンで演出しようとすると必ず失敗する、人々は大作には
正攻法を求めるものだ」
ともおっしゃっていたのは、わが意を得たりで膝を叩いたりした
思い出がある。浄土真宗の寺の方なので“冥福をお祈りする”
とは言えない。慎んで哀悼の意を。

昨日荻窪で買った調理パンと牛乳飲んで腹ごしらえ。
はさみこみのチラシを旅行用具と一緒にカバンに詰め、
よし、とテンションあげてタクシーで出陣。

盆の高速、空いていて気分よし。
抜けるような青空、やっと夏らしい夏になったかと思う。
8時チョイ前にビックサイト降車場に到着。
しら〜さんと待ち合わせて通路を渡り、東館へ。
このところ西館が続いていたので、連絡通路を通るのが
えらく久しぶりのような気がする。

マド、助ちゃん、もやしらの到着を待ってブース設営開始。
お隣は冬コミと同じく吉田尚記さん。一緒にブース設営している
人が初めてのコミケ参加らしく、いちいちの光景に驚いているのが
面白い。

同じ島には他に立川談之助の元祖立川流。奥さんは第2子妊娠中で
今日は鯉朝くんと。
設営中にも何度もトイレへ行く。コミケでは汗と呼び込みの
ときの呼気の中の水分で体内の水は消費されて、滅多にトイレに
行かないのだが、利尿剤入れている身としては仕方なし。
こういうときにトイレの真向かいのブースはありがたい。
暑いことは暑いが東館は風の流れがあるので楽。

新刊と残暑見舞持って知りあいのブースを回る、これも恒例。
と学会、氷川竜介さん、開田さん、金成さん、山本会長のところなど。
山本会長は娘さんがコミケ初参加だそうで、談之助さんが
うらやましがっていた。今は人気声優の柚木涼香さんが
「わー、ひさしぶりー! ご活躍ですよねー! 私コミケで
初めて今回、自分のブース出すんです!」
と挨拶してくれた。彼女がまだ角松かのりだった頃に二度ほど
一緒に仕事をしたことがあるのだが、私がまだオノプロやっていた
頃だから、ずいぶん昔だ。よく覚えていてくれた(まあ、基本帽子と
眼鏡と黒づくめは同じだから忘れはしないだろうが)。

ちょっとビックリして声も出ず。何故かというと、そのとき、
私のカバンの中には、その当時の彼女の写真があったのである。
二回目の映画を取材したときに撮った写真で、先日、写真の束を
処分したときに、これはそのうち本人にどこかで渡せるかも、
と思い、そのまま私のメモノートの中のポケットに入れたきり、
忘れてしまっていた。つい数十分前、葉書をそこに入れておこうと
ノートを開いて、あ、こんなのが入っていたっけ、と数ヶ月ぶりに
思いだしたのだ。まさかその日の数時間後に、それから十数年後の
彼女自身に出会うとは。西手新九郎もここに極まれり。

東郷隆氏はじめ向うから来てくださる方も多し。これも全て
書き出したいが付け落ちが必ずあると思うので失礼する。
ただ、平成オタク談義の私を目標にして(?)ライターを
目指してデビューし、今度小学館でマンガ原作をする、という人
がいたのは嬉しかったし、私の同人誌を予備校の教科書に
していて(!)、それで影響を受けた教え子が京大に行こうか
代々木アニメーションスクールに行こうか悩んで(!!)、
結局京大に入りました、と言う報告を受けたときは、代アニには悪いが
ホッとした。

やがてコミケ開始。例によって最初は人気サークルのブースに
殺到する人々にはじかれた形で人もポツポツ。冬コミがまさに
壁際でそのはじかれが最後まで祟ったので悪い予感が頭をよぎる。
ところがどうしたことか、やはり東館の御利益か、今回は
買いに来るお客さんにあまり波が無く、文字通り次から次へという
感じで在庫がハケていく。

“大丈夫かなあ”が途中から“こりゃ、なかなかいいね”になり、
“おい、3時までもつか?”になった。今年はあまり売れないと
踏んでいたオノにマドがすぐメールして驚かせていた。
例によって知りあいや担当編集、昔なじみ、いろいろと来てくれる。
差し入れも多々、同人誌いただくのも多々。有難し。
アンチの人も何人かまとめて来て写真をとっていった。
ご苦労様なことである。何しろお客さんひっきりなしでかまって
おられず。
実行委員の人が心配して見えたのでダイジョウブです、と言っておく。

12時過ぎたあたりでカウントダウン始まって、1時にはもう
最後の一冊が売り切れ。お隣の吉田さんのところ(吉田さんは
仕事でお帰りだったが)の方などが拍手してくださる。
本当はオノがそこらで弁当を買って持ってきてくれるはずだったのが
間に合わぬくらいのスピード売り切れ御礼だった。

とはいえ、なんだかんだで撤収に時間がかかる。
結局、周辺に挨拶終えて、会場を出たのが2時半。東京駅まで
タクシーを飛ばす。相変わらず、外は日光写真がよく撮れそうなピーカン。
オノ・マド、しら〜さん、ラストあたりでやってきたK田くん、
それにもやし、助などのメンバーでニュートーキョー系の居酒屋で
とりあえず完売にカンパイ!
いや、完売って言葉の気分のよさよ(予約していただいた方の
分はお取り置きがあるのでご安心を)。

しかし、今日の日記はまだ終らない。
三十分くらいしかそこに居られず、すぐ立って新幹線。
3時40分ののぞみの車中の人となる。
隣の席もコミケ帰りらしき青年だった。

三十分ほど、疲れが出て眠る。
目が覚めてから、大阪での高座のちょっとした前準備。
時間などを測って、このネタで何分、とメモなど。
名古屋を過ぎたあたりで、山の上から龍が空に駆け上がるような
雲を見た。吉祥だ、と思い写真に撮る。

新大阪に6時10分到着、すぐにタクシー飛ばして千日前トリイホールへ。
ちょっとトリイホールの場所に迷いオロオロするが、大阪ブラック団の
Kさんが迎えに出てくれて解決。すぐ楽屋へ。
快楽亭がよくネタにしている桂ぽんぽ娘さんがいた。
舞台上には寒空はだかさんが出ていた。

たったいま出を終えたばかりの頼光くん、高座着に着替えた快楽亭
に挨拶。頼光さん、例のネタで大ウケとった模様。それはもう、ね。
何か私の出がトリになってしまったというので、それで
ハズしたら大変、と変えてもらいたくスタッフに頼むが、どうも
上映設備の関係上それは無理らしい。
仕方なくあきらめる。ただ、私が車中、いまどこそこ通過、と
ミクシィ日記にあげていたので、それを読んで不安になって
「カラサワ先生は大丈夫でしょうか」
と受付に質問が飛んだというので、ちょっと出て挨拶。
そのまま高座につなげるのはやはり無理だった。

快楽亭が前半トリで、七度狐のパロディ。桂文福師匠を徹底的に
からかったネタだが、Kさんが大笑いしながら、
「いま、文福師匠客席にいらっしゃるんですよ」
と。終ったあと、文福さん楽屋にやってこられ、挨拶。
そう言えば小野伯父の腹話術の会で文福さんを見かけたことがあった。
そのことなどを話す。

で、次が南湖さんで某かしこきあたりの危ないネタ。
その後が私で、トンデモ本大賞でもやったネタの拡大バージョン。
いやあ、心配していたが受けた受けた。
お客さん、いちいち解説のたびに大爆笑。
マイミクえべーさん、ブルちゃんさん。えふてぃーえるさん、
ピカード艦長さんなどがいたが、この濃いメンツの出演者のトリに
出るという大役にちょっとドキドキしていたのだが、無事、
務められてホッとする。
すぐに受付に降りていき、コミケでさっき売ったばかりの同人誌
(ここでも完売)、それと手ぬぐい(三本残してほぼ、完売)した。
サインいくつも。このあいだのゆめすけさんのお店でやった会にも
来て手伝っていらした着物美人(後でKさんに訊いたら桃葉さんという
芸能好きの方だとか)にもサイン求められたので手拭いに。

ブルちゃんさんら、お客さんたちもみな“いや、凄いネタだった”と
言ってくれ、嬉しかった。もっとも、他の会じゃ出来ない。
スタッフの中にゆめすけさん発見、久闊を叙す。
美人さんと記念写真など撮影のあと、打ち上げへ。
残念ながら彼女は帰り、出演者、スタッフ二人、
それと文福師匠。文福師匠にも大好評。
いろんなオナニー体験談を披露してくれる。まだ駆け出しアイドル時代の……
いやいや、ここでは書けない。

連休中で開いている店が少ない。あちこち放浪して、Kさん大変である。
結局、お好み焼き千房に行く。テーブル二つになり、こっちはゆめすけさん、
南湖さん、頼光くん、私というメンツ。大阪の南湖さんにメニューなど
まかす。ここはいわゆるよそ行きのお好み焼きの店ということだが、しかし
さすがにうまい。ネギ焼きなど、食べてふうん、と風味に驚いた。
会話いろいろはずむ。一方で向うのテーブルではまた、
危ない話もいろいろ。Kさんから思いもよらぬプレゼントいただく。
ギャラいただいたよりも、いや、ギャラをいただくのは嬉しいが
それとはまた別の(笑)大喜び。ほら、今話題の彼女の……。

さらに、途中で東京のSさんからメール。ダメもとで進めていた
某プロジェクト、なんと今日の進展だけで8割方成功、
まだ結果は未定だが一挙に曙光が見えてきたという状況になった。
正直期待していなかったので大いに驚き、喜ぶ。
いい人にまかせたのが成功だったとつくづく思う。

そろそろお開き、というときに、文福師匠がいきなり河内音頭を
歌いだす。
「♪今日のトリイの興業はァ〜、最初に出たのが頼光さん……」
とやり、見事に今日の出演者全部を読み込み、
「最後にカラサワ先生がァ〜オナニー指南の教科書でェ〜……」
と歌い上げてくれる。いやあ、近くで生で聞くとさすが、圧倒
されますねえ。いい記念になった。
もっとも、店にはかなり注意された。

タクシーで私、ブラック、頼光の3人、とっておいてもらった
梅田のホテルへと直行。さすがにバテてここでお開き。
「頼光さんはアタシとひとつベッドで……」
などと快楽亭、さんざ脅かしていたが大丈夫、別部屋だった。

さっそくシャワーのみ浴びてベッドに横になるがまだ12時、
眼が冴えて眠れない。近くのコンビニに行き、カップ焼酎と
氷を買って帰って、魚肉ソーセージとカリカリ梅を肴にして、
色んな思いを頭に浮かべてロックで一人カンパイ。
1時半ころ、やっと就寝。
かくて長き日は終りぬ。

※コミケ、龍雲、文福師匠とのツーショット。
美女の写真は後で送ってもらってからアップの予定。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa