裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

木曜日

「ウルトラマンさん、酸とアルカリを合わせると?」「中和ッ」

ウルトラマンシリーズ、ついに第10弾!

※原稿書き 大塚周夫さんインタビュー 打ち合わせ 無声映画観賞会

暑苦しく、寝汗をかなりかいていた筈なのになぜかクリスマス時期の
大都会(巨大なサンタの飾り物がある)の夢。珍しい人物が
出てきた。昔、まだ札幌も道庁北門の角に住んでいた自分の店員さん
で納谷さんという人である。元気かなあ。

ゆうべ寝たのが1時、目が覚めたらまだ2時半、これで寝苦しい
一夜になるのかな、と思ったがそれから再度眠ったら8時半まで
一直線にグッスリ。

9時半、朝食。
また雨ふり。今年は冷夏かと思うと憂鬱である。
暑いのも大嫌いなんだからワガママな話だが。
桃、バナナ、ミルクコーヒー。

佳声先生インタビュー原稿にかかる。
演劇論のところ、なかなかチェック大変。
しかし、やっとラストスパートに近づいてきた。

昼は母の室、サバ塩焼き、納豆、漬物。
やっと雨、あがって薄曇りに。
インタビュー原稿とりあえずひとかたまり完成、
送っておいて急いで支度、家を出て青山の青二プロへ。
道を歩いていたら、唐沢センセイ、と声をかけられた。
文サバの受講者だった人。
また開講したらぜひ報せてください、と。

青二プロでTさん待ち合わせ、大塚周夫さんインタビュー。
あこがれの人に会えることでちょっとアガり気味。
しかし、大塚さんのインタビューにはとり・みき『映画吹替え王』
という名著があり、しかもこの本でとりさんは多分、その後類書が
出ないよう、ペンペン草も生えないくらいに代表作について
徹底して聞きつくしている。
その落ち穂拾いをしても仕方ない。
全く違ったアプローチを考えるのに頭をひねりまくり、
吹替え技術論でない、演劇論、演技論を語ってもらい、そこから
代表作に込めた意気込みを語ってもらうことにした。
それは成功したようだ。
2時間たっぷりと、こちらが呼び水を向ける間もなく、大塚周夫の
演技論を独演会で聞くことが出来た。

意外かつ嬉しかったのは、そこで語られる演技論に、いまもうひとつ
進めているインタビュー本の、梅田佳声先生の演技論に同じものが
あったことだ。同じく80代同士の方の演技論、思えば似ていることが
当然なのかもしれないが。

小沢昭一さんに
「チカちゃん、あんたうまく立ち回れば天下取れた人間なのに、欲が
ないんだよなあ」
と言われた話など、いいなあ。

ブラック魔王の口調を造るために落語を聞き込んだ、というのは
とりさんの本に書いてあったっけ。

ねずみ男の演技の原型は『じゃじゃ馬億万長者』のドライスデール頭取
であることも確認できたし、あと聞きたいことはただひとつ。
「『事件記者コルチャック』の、あの“ヤダヤダ〜”は何に向けて言って
いるつぶやきなのでしょうか」
「自分に対してです。命を危険にさらしてまで事件の中に首を突っ込んで
しまうほどの仕事人間で、もっとうまく立ち回ればいい目も見られるのに、
若い人のようにそういう軽い生き方が出来ない、不器用な自分に
対するグチなんです」
「……それは、ひょっとして小沢さんに言われた、大塚さんご自身が
投影されているということでしょうか?」
「……ンフフフ(あの大塚笑い)、まあ、そうかもしれませんなあ」
これ聞いただけでもう、私は安らかに死ねます(笑)。

大塚さんも上機嫌であり、
「聞きたいことがあったら、後からでも何でも言ってきてね」
とまで言ってくださった。
「若い役者に言いたいことは?」
という質問には、
「とにかく、変な人にはいっぱい会っておけ。勉強になる」
とのお答え。私のインタビューもそれで受けてくれたか? と苦笑。

インタビュー予定時間ぎりぎりまで話が延びたので、
急いで地下鉄。某社出版企画打ち合わせ。
ひさしぶりのYさん。
二つ出した企画どちらも面白いと言ってくれたが、もうひとつ、
雑談にまぜて話した企画に凄まじく食い付いてくれた。
しかしこの本、執筆に時間と金がかかるので、とりあえず
一冊を進めながらやりましょう、と話す。

終って、今度はそこから池袋。東京を縦断している。
文芸坐にて、懐かしの無声映画上映会。
今日は大都映画の特集だそうで、
何とか坂本頼光くんの語る『百万石 破れ行状』の5分前くらいに
間に合った。

頼光くんの前説は出演者の解説を丁寧にし、ヒロインの東龍子の
ことに至っては東映に電話までして訊いてみたそうだ(5年ほど
前に死去)。100万石の若様がお城が退屈だと逃げ出して、
旅役者の一座に入り、そこもしくじってやくざの子分になると
いういいかげんなストーリィが大都の魅力だったようだ。
若様が、話し相手の額にとまったハエに異様に感心をしめす、
というギャグが二回繰り返して出てくる。
何かこれを後でストーリィにからませれば面白かったのに。

終って頼光くんが楽屋へ戻ろうとしたら
「大都映画、懐かしいねえ」
と話しかけていたお爺さんがいた。関係者の知り合いらしい。
さすがに頼光くんで、その関係者の名を知っていた。
昔は無声映画観賞会などというのはこういうお爺さんばかりだったが
最近はさすがに少なくなっている。

次が片岡一郎くん、落語家のような着物姿で活弁。
後に東映時代劇で悪家老などの役をやっていた杉山昌三九が
まだ二枚目を演じていたころの作品。江戸時代に、KKKみたいな
白覆面の髑髏団が暗躍する話だが、この一団が怪しげな覆面を
かぶったまま、堂々と道の真ん中を歩いて犯罪現場に向う。
彼ら(由比正雪の残党)が一体何をたくらんでいるのかも
よくわからないまま、むっつり右門風の杉山によって一網打尽
にされてしまう。『破れ行状』と同じ東龍子が丸ぽちゃの
顔でヒロイン。

それから喜劇『岡崎の猫退治』。これはずいぶん昔にNHKで
見たことがあった。巨大な猫のぬいぐるみと弥次喜多の
おっかけあいが延々と続く。

そして、今日のお目当ての『争闘阿修羅街』。ハヤフサ・ヒデト
主演の活劇。タイトルからはかなり陰惨な内容が想像されるが、
実際はコメディチックなスラップスティック・アクション。
博士の生意気なお嬢様、大河百々代との意地の張り合いが
微笑ましいを通り越してやりすぎという感じ。
とはいえ、片岡さんの声は地声が若々しいヒーロー声なので
ハヤフサ・ヒデトの声には大変合っていていい。

アクションシーンでのビルからビルへの飛び移りなどは
やはり凄い(ワンカット、親指に包帯を巻いている場面があったが
怪我も絶えなかったろう)。
ネットで、この映画をパルクール映画と表現している
のがあった。パルクールとは
http://www.youtube.com/watch?v=jquXcwooV6A
こういうスポーツで、日本のアニメや忍者モノなどの影響で
生れたものだという。

帰宅の車中で携帯ニュースを見たら、大原麗子死去の報。
彼女がサントリーのCMで可愛い奥さんを演じ(山男らしい夫の
登山のリュックにの持ちをかいがいしく詰めながら、ちょっと
山に嫉妬してそのリュックを蹴飛ばす、という仕草がよかった)
評判だったとき、誰だったかが
「実生活で奥さんに向いてない人ほど、テレビ画面の中じゃ
いい奥さんに見える」
と言っていて、ちょっと感心したものである。
まさに奥さんには向いてなかった人で、孤独死だったとは哀れ。
黙祷。

さすがにちょっとくたびれ、シャワー浴びて重曹湯豆腐。
黒ホッピー2ハイ。
もちろん、今日のインタビューを記念して『事件記者コルチャック』
をLDで見つつ。
1時、就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa