裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

火曜日

金(キム)がみ胸に抱かれて聞くは

もちろん、北朝鮮国家『愛国歌(朝は輝け)』である。

※週刊現代原稿 パチスロNEO原稿

朝4時半にトイレ行きたくて目が覚め、また横になって
しばらくしてエッと気がついて驚く。
あのゼイゼイもゴホゴホもなし。
胸苦しさはやや、残るものの、非常に楽に呼吸が出来る。
これは、昨日のんだルミンのせいか。
それ以外思い当たることなし。
8時ころ、やはり少し痰が出てゼイゼイになったが、
昨日までに比べれば格段の差。
改めて、安らかに二度寝できることの素晴らしさを思う。

9時半、朝食、如例。
今日もルミンを二錠、貰ってのむ。
メールチェックして、仕事にかかる。
講談社週刊現代マンガ評。
BGMに佳声先生の『猫三味線』DVDをかけつつ。

某共著単行本で10年前に出したものの文庫化の件で連絡。
6月のトンデモ本大賞でちょうど、それがらみの企画を
あれこれ考えていたところ。その件で、企画を某会員さんに
投げたら、期待以上の案が帰ってきた。

もう一本電話、すでに後始末的な内容。
うーん、これには納得いかないなあ。
まあ、まだ手をつけてもいなかったので、被害というのは
無きに等しいっていえば等しいのだが。

昼飯はノリ弁当。実際、ノリとカツブシかけのご飯に、
あとはレンコンのキンピラのみというシンプルさ。
あまりのシンプルさにさすがに、ノリのツクダニを添えて食べる。
食べ終って、それから古いパイオニアのLDプレイヤーを分解する。
動かなくなって、中に入ったままのLDを取り出せなくなって
しまったためだが、ネジが思いの他固く、かなり苦労した。
無理したので、ちょっと取り出すとき、傷がディスクに
ついてしまったが……。

それから原稿二本目、白夜書房『パチスロNEO』、今回は
『宇宙刑事ギャバン』台について。
吉川進&折田至コンビの作品という視点から書いてみる。

ニュースで、時代を感じるもの二つ。
87年の大韓航空機爆破事件の実行犯金賢姫が、自分に日本語教育
をした李恩恵こと田口八重子さんの家族と面会のニュース。
金賢姫自身がマスコミに姿を見せるのが12年ぶり、事件はもう
22年も前のこと。なをきが『カスミ伝』を少年キャプテンに連載
したのが翌年の88年で、前年12月のこの事件はまだ生々しく、
登場人物が“李恩恵です”と名乗るギャグがあったりした。

もうひとつはさらに古く、阪神優勝の1985年に、
熱狂したファンによって道頓堀川に投げ入れられたカーネル・
サンダース人形が24年ぶりに発見されたというニュース。
24年前の、まさに優勝の瞬間を見たのは、仙台空港の待合室
だった。空港までの送迎バス中でもラジオで試合模様がずっと
流れ、待合室のテレビでその瞬間を見られた。ピッチャーの
ゲイルが何かやたら興奮して、ずっとワオワオ叫び続けながら
投球していたっけ。

どちらもすでにふた昔以上を閲していることでありながら、
つい昨日のことのように思い出せる。
どちらのときも、当時の自分は時間をかなり持て余していたように
記憶しているが、それだけに事件が自分の中に印象的に(当時を
記憶するよすがとして)残っているのだろうか。

午後8時半、原稿書き上げてメール。
すぐ電話あり、担当Sくん、偶然だがこの連載の最近三回が特撮
特集みたいになっており、しかも全然そういう意図がないのに
(毎回、行き当たりばったり的に取り上げる台を決めているのに)
ちゃんと前回が伏線になっているような内容になっているのは凄い、と。

夕食の準備にかかる。何かここしばらく食べ続けているが、
また食べたくなってタコのギリシア風サラダ。
火を使わぬ夕食の準備は楽だから、かもしれない。
例によりモーリタニア産の蒸しダコをザクザクサイの目に切り、
黒オリーブ、ミニトマト、セロリ、ベビーリーフも加え、
おろしニンニク、シーズンオール、黒胡椒、オリーブ油、レモン
の絞り汁をかけて混ぜ合わせ、パンとワインで。

DVDで、『ナイル殺人事件』。なぜ観たくなったので。
思い出したが、容疑者の一人にジョージ・ケネディが出ている。
この人は大韓航空機爆破事件を韓国で映画化した作品『真由美』に
出演しているのであった。

原作のポワロにそっくりのデビッド・スーシェが評判になって以来、
それ以前のポワロ役者を“似てない”とクサして事足れりとする
映画評ブログが多くて辟易しているが、そもそも、原作のポワロに
そっくりで、しかも客を映画館に呼べるスターというのは普通に
考えてもそうはいないわけで、若手のアルバート・フィニーに
老けメイクをさせて演じさせた『オリエント急行殺人事件』や、
似せるということを放棄して、演技力でポワロに起用したこの映画の
ピーター・ユスチノフなど、いずれも好演。この二人はいずれも
それまでの映画で名を知られ、観客動員が期待できるスターであり、
大作映画の主演にふさわしいバリューを持っていた。
デビッド・スーシェは今でこそ大物だが、やはりテレビシリーズだからこそ
ポワロを演じられたわけで、彼主演でこのようなオールスター・キャスト映画
が作れるか、というと難しいだろうとで思わざるを得ない。

それに、この映画のユスチノフの演技はさすがで、原作を離れた
ところで見事なポワロ像を創造し得ていた。ミア・ファローとの
「一旦心に悪魔を入れると、そこに住みつきますぞ」
「愛を住まわせることが出来ないのなら、私は悪魔を住まわせるわ」
というやりとりの演技合戦を、都築道夫は
「“イヨ、二千両”と声をかけたくなる」
と評していたほどである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa