裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

月曜日

うらない三四郎

「いつもこの世は正しい者が勝つと、タロットにも出ています」

※事務所引っ越し業者見積もり

朝、胃がやはりムカついて不快な目覚め。
しかし、夢は面白かった。
潮健児さんのお宅に年始に行く。
潮さんは内装を黒中心のカラーに統一してシックにし、
特に壁の真ん中に予定表を大きく掲げて、
「これを一杯にするんだ」
と張り切っている。お体のこともあり、大丈夫かと心配するが、
着替えのため裸になったところを見ると、年齢にしては
ひきしまり、肌つやもいいのでちょっと安心する。
私も正装だが、それはこの後、テレビの打ち合わせに行くのに飛行機に
乗らねばいけないため。そろそろおいとましようとして、
床にあった紙袋を持ち上げると、これが中に粉がつまっていて、
その粉が漏れており、黒い背広が真っ白になってしまう。
しかも、その粉が酸っぱい。見ると、梅干しパウダーと
書いてある。潮さんの家に集まっていたファンやお弟子さんたちが
掃除機で粉を吸い取ってくれる。誰がこんなもの持ってきたんです、
と潮さんに訊くと、共通の知人である、80歳になる老人の
贈り物だという。あの人じゃ怒れないね、と潮さんと話して笑う。

9時半、ノロノロ起き出して朝食。
バナナジュース、スープ、ミルクティー。
今日は事務所引っ越しの下見が来るので、急いで日記つけ、
メールやりとりなど。例の内閣官房関係のビデオ台本、
製作プロダクションに受けた模様でちょっと安心。
いろいろと懸案のことを片づけていくうちに体調も回復。

ガザ停戦、パレスチナ人の死者1200人、負傷者5300人、
対してイスラエル側の死者13人。ユダヤ教徒には13は別に
不吉な数字ではないのかな。ともあれ、この圧倒的な差。
……パレスチナ側は傷ついたり死亡したりした子供の写真を公表する
ことで国際的世論を味方につけようとしている(それしか抵抗手段がない)
ようだが、そういう反発は当然予想されながら、今回の攻撃を決断した
イスラエルってのは、やはり日本人が逆立ちしても勝てない精神力を
持っているなあ、と感嘆。フランスみたいな木っ端国家が
何を言おうと、アメリカ(ブッシュもオバマも)さえ取り込んで
おけば、後はハナクソほども気にしない、というパワーバランスの
見取り方にはある種ほれぼれするものを感じる。
感情とか人情とかとは別のところで、政治はこうじゃなきゃ、
という思い深し。それでなきゃ結局国など守れるものではない。

1時、家を出て事務所。
二社に下見をお願いしている。アリさんマークの引越社(てっきり
これが正式社名だと思ったら、社名は単に“引越社”という、
極めてシンプルなものだった)と、もう一社。
最初に引越社の人が来て、あとからもう一社だったが、この二社が
非常に対照的だった。

アリさんの方は、下見係の人が実際の現場作業経験者で、
ダンボールの個数からこっちが2トントラック一台でいいだろうと
はじき出したのに、
「いや、本やビデオというのは案外重くて、積み上げるのに
限度があります。正直申し上げて私、これだけの本とビデオを
見たのは初めてで(笑)、これを運ぶとなるとどういうアクシデント
が出るか予想つきません。2台に分散させた方がいいでしょう」
という意見を出してくる。
もう一社の方は、トラックの荷台の容積をダンボール箱の個数から
出した容積で割って、
「一台で充分です」
とあっさり言う。こちらは年配の女性だったので、現場での
状況がよくわかっていないようだった。

値段を概算してもらって、まずアリさんのを見ると、こちらが
予想していた額より(トラックを2台にしてもなお)、数十パーセントも
安い。10年前、某社に頼んだときの額に比べると4分の1くらいで
ある(まあ、今回は純粋に本だけ、なので安くなるのだが)。
安いですね、というと、もう一社の名前を出して、いえ、あちらさん
は多分うちより安いです。うちは個人情報保護問題などにも
配慮して、社員一人々々に保証人をつける制度をとっているので、
その分、どうしても割高になって……という。
で、もう一社に見積もりをして貰った額は、確かに半額近くに
安かった。最近は引越業者も増えてサービス合戦が起っているのだろう。

オノと、いろいろ話すが、結局、アリさんの方に決める。
もう一社、安いは安いが、不要大型ゴミの引き取り賃が、かなり
高いのである。本棚はアリさんの倍、食器棚に至っては4倍もする。
それを含めると結局、ほぼ同額になってしまう。
スタッフの人数も、まあトラックが2台なのだから当然だが
アリさんは5名出してくれるというのにもう一社は3名。
それやこれやを勘案して、だが、やはり、実際に見積もりに来て
くれたスタッフの好感度というのが大きな要素になるなあ、と
しみじみ。

もっとも、後で聞くとこことトラブル起したという人もおり、
また真逆で次に引っ越すときも絶対ここに、という人もおり、
いろいろではあろう。

それから5時近くまで、ビデオの分別。『コンテンツファンド』や
『トリビアの泉』などの、局から送ってきたビデオも全部処分
する。商業ビデオに関しては、知りあいの古書店に送って、
引き取ってもらうことに。ダンボール箱二つに、あともう一箱分
くらいの山が出来る。手が真っ黒になり、石鹸でゴシゴシ洗っても
なかなか汚れが取れない。渋谷の空気の汚れていることよ、と思う。

バスで帰宅。時間に余裕あったので幡ヶ谷で降り、ここの
スーパーで買い物。同じ夕食の素材でも、場所を変えて買うと
面白い。ミョウガなど、サントクのものと全く形状が違う。
他にウエットティッシュ、豚タンなど。

うまくまたバスに乗り継げて帰宅。
マイミクあきーたさんの日記を見て驚く。
東宝怪獣ガイガンのデザインについて、驚くべき発見あり。

ガイガンのデザインはこれまで井口昭彦氏である、と言われてきた。
私もその説を支持していた(井口氏はウルトラマンエースの超獣
のように、機械と生物の合体デザインを得意としていたので)。
これは後に井口氏が東宝怪獣デザインにかかわったのはメカゴジラ
以降、と証言したことで否定された。

中野昭慶監督がインタビューで
「あのデザインは講談社のミズキさんに依頼した」
と語ったところから、
「あれは水木しげるのおんもらきの絵がモデル」
という噂が独り歩きしていたこともあった。

とはいえ、水木しげるほどの大物がデザインであれば、もっと
公開当時話題になるはず。
いったいなんでこんな噂が……と思っていたら、そこに大きな
トリックがあったのですなあ。

ミズキ違い、だったのだ。

少年マガジンの図解記事、さらには『新・世界の怪獣』などのイラスト
で活躍し、現在CMイラストの第一人者である水氣隆義氏が、
自分がガイガンをデザインした、とそのサイトで明言。
ここに長年の謎が解明したのであった。
http://www.art-micbox.com/w01-gigan01.html

しかし、ガイガンのあの特徴的な単眼のモデルが“石原裕次郎のスキー
映画でのゴーグル”で、ガイガンの名前も“裕次郎みたいなナイスガイ”
の“雁”で、「ゴジラに負けないナイスガイの“ガイガン”」というのはホンマかいな、という気分。

ちなみに、水氣隆義氏と言えば私の同人誌『人生で大切なこと(でも
ないこと)はすべて少年マガジンで学んだ』で紹介した、“月みみず”の
イラストを描いた人。
月みみずとガイガンが兄弟であったとは……。

8時半、夕食。
1時間ほど茹でた豚タンを薄切りにして、特製ニンニク味噌
(長野で買い込んだニンニク焼き味噌)を煮酒でゆるめ、ネギの
すり下ろしを加えたもの(私は辛めなのが好きなのでネギはすり下ろし
て加えるが、普通の人は微塵切りがいいと思う)をなすって
食うと、これがうまくてうまくて。どぶサワー(にごり酒を炭酸で
割ったもの)が進む。他にジャガバタ塩辛、ミョウガとしらすの
おかか和えなど。

DVDで昨日とは別の、もう一本の元気映画を見、某サイトを
じっくり読むうち、気分非常によくなって、1時過ぎまで
飲んでしまった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa