裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

金曜日

エロカワの手帳

倖田來未だのろみひーだのの名前がいっぱい。

※講談社原稿 朝日原稿 書庫整理

冷凍のイカとシャケをどう焼けばいいか悩んでいる夢。
そこに怪人二十面相がからむのだが、どうからんできたのかは忘れた。
朝9時半、起きると窓の外、無茶に寒々し。
新聞では雪だと言っていたが、やがて雨になる。

朝食、イチゴ、カブのスープ。
ミルクティー。
母が、札幌の孫がオセロにはまっているのでオセロを
勉強したいというので、ネットのオセロを教える。
弁当を作ってもらって自室に帰る。

牟田悌三死去の報。
80歳。……これは地味に私にとって衝撃かもしれない。
子供の頃、最も最初にその声にあこがれた人であった。
テアトル・エコー初期のメンバーとして、ありとあらゆる番組に
出まくっていた。“むーちゃん”という愛称でもわかる親しみやすい
ユーモアと、ちょっとしたインテリぶり(北大農学部卒)が混淆した
上品な演技で、芝居ばかりでなく司会も出来る希有なキャラクターだった。
最初に耳についた声はアニメ『空飛ぶロッキーくん』のナレーション
だったか、ここでのあやしげな雑学をふりまきながらの日本語版
オリジナルナレーションが絶品だった。いや、今でもときおり、
「うん、これはあのときの牟田悌三で行こう」
という感じで声を調整することがよくある。
坂本九が主人公を演じた映画『坊っちゃん』(1966)での
赤シャツがハマり役なのも、そのインテリぶり故だろう。
なお、テレビ版で竹脇無我が坊っちゃんを演じたバージョン(1972)
では今度は野だいこを演じるという融通無碍さを見せている。
ケンちゃんのパパ役だけの人ではなかったのである。
その後、一線は退いたものの、ふと気がつくと『金八先生』の
杉田かおるの父役とか、大河ドラマ『元禄繚乱』での堀部弥兵衛
だとか、ちょくちょくは変わらず顔を見せていたし、ラジオでの
税金相談だとか、この人の声はコンスタントに耳にしていた。
この人の声をもう聞くことが出来ない、というのは、私には
頭では理解できても、感情では全く理解できないのである。

原稿書き、本格的に再開。
まずは週刊現代マンガ評。本来の〆切は12日なのだが、その期間は
名古屋に行っている筈なので、早めに書き上げる。
書き上げて講談社にメール、さらに朝日新聞書評。
書き出しにちょっと苦労するが、あとはダダダ、と一気呵成に
書き上げる。この本は“本当に”人に勧めたい本であった。

書き上げて3時半。
急いで仕度をし、渋谷事務所へ。
その前に荷物届いたり、電話あったりするドタバタ。
おとついあたり、無くしたと思っていた某書類が見つかって、
ホッとするやら何やら。

渋谷事務所で、オノ、大内さんと蔵書の箱詰め。
今日は思い切って整理し、ほぼひと棚を半分までに減らす。
児童向けSFのシリーズなども、エイとばかり処分する。
何も考えず金・土になると神保町古書市に出かけ、
重い荷物を戦利品だ、とニコニコしながらヨイショと
かついで帰ってきていたあの時代が懐かしい。
あの頃はまだ、買った本全てを読む時間が自分に残されている、
と信じて疑わなかった。

氷雨、激し。じっとしていても落ち込むような天候である。
石原伸司さんから電話。
例によって意気軒高。テレビ朝日が自分のことを大特集して
くれたとか、ドイツの国営放送が取材に来たとか。
「これも拘置所で唐沢さんやK子さんと出会ったからです」
と言ってくれるのはありがたい。

帰宅、明日に備えて体力温存とする。
母の作ったイカと里芋の煮物で酒。
DVDで『クレージーのメキシコ大作戦』(1968)を見る。
正月用に、と思って買って、届いたのは年明けだった。
2時間を超える大作(途中に休憩がはさまる!)だが、いや、結構。
ダレることなく観られたのは、家で観ていたからだろう。
以前オールナイトで見たとき、ギャグのブラックさなどで
非常に記憶に残っていた作品だったが、評価が高くなかったのは
名画座のボロ椅子でこの長時間を見通すのはいくら若くても
難儀だったからである。
1968年、経済成長の末期とはいえ、まだ封切館の椅子は
ふかふかしていて、こんな長時間の上映でも苦にならなかった。
それを前提に作られている映画なのだ。
あちこちに、当時の日本の豊かさが満ちあふれている、そんな映画。
老婆心ながら、若い世代の、“なんでまたメキシコ?”という疑問に
答えておくと、この映画の封切りの半年後にメキシコ・オリンピック
が開催されたからである。

ギャグがブラックだということを言ったが、これはオリンピック景気
を当て込んでの単発封切り作だから出来たこと。春川ますみのバーのママ
が口封じに殺されるシーンではその絶命までが描かれ、正月映画などでは
とても許されなかったろう。ハナ肇と谷啓がお互い、自分が彼女を
殺したと思い込んで右往左往し、最後に死体を持ち込まれた植木が
それをちゃっかり病院に解剖用の死体として売りつけて小金を稼ぐ、
というちゃっかりぶりが、現在のコメディでは考えられない、
無作為のブラックさに満ちあふれていて、見ていて抱腹する。
恋人(浜美枝)だろうと何だろうと、とにかく隙あらばだまし、
ウソをつき、売り飛ばし、ちょろまかすというその悪党ぶりは、
無責任シリーズ第一作の平均(たいら・ひとし)以来の植木のキャラの
集大成で、メキシコ人の貧しい子供からまでおもらいの金をネコババ
するあたりとても、現代のわれわれには創造できないピカレスク・
キャラである。

それにしても、浜はじめ、園まり、大空真弓など女性陣が可愛い。
ことに園まりのコケティッシュぶりは改めて見直した。
浜は最初のド近眼メガネで男言葉のドジっ娘ぶりが萌え。
藤田まこと、藤岡琢也などがワンシーン出演している他、
ジュリーもラストでワンシーン特出しているが、天本英世が
メキシコ人山賊の役でやはりワンシーン出演だった。

風邪、この寒さでぶり返したっぽい。
部屋をカンカンに温めて早めに就寝する。
明日から大連戦なのだ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa