裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

水曜日

ヘタリア応

なに、アニメ化? それっ、抗議だ!(韓国世論)

※打ち合わせ 体調不良

朝9時半起床。
6時頃に目が覚め、覚めるととたんに気管がヒューヒュー
言って、極めて息苦しい。
死ぬときにどんな病を得るか知らないが、呼吸器の病気は
イヤだな、と思う。

朝食、イチゴ、野菜のスープ。
頭もはっきりしているし、体調もさほど悪いとは言えないが、
ただひたすらに気力なし。

読書するくらいしかやることなく、大田南畝『半日閑話』
読み継ぐ。後半、江戸市中の噂ばなし集となり、面白いこと
尋常でなし。浮気、喧嘩、計画殺人、発狂、怪談等々、江戸の街に
こういう事件のいかに多かったことか。

ついでに『守貞謾稿』なども拾い読み。
江戸時代の商売の中に“赤蛙売”というのがある。
「アカゞヒル及ビ柳蟲ヲ賣ル。小筥等ニ納レ、風呂敷裹ニテ負來ル。
京阪ノ赤蛙ハ、枯タルヲ賣ル。柳虫ハ、活ルヲ賣ル。江戸ハ、
赤蛙、柳ノ虫、マムシ等、皆活ルヲ賣リ、買人アレバ忽チニ之裂、
殺テ賣ル」
京阪には稀、江戸にも多くはない商売とあるが、疳の虫などの
薬食いでよく赤蛙、柳虫の蒲焼きは食べられていたらしい。

昼は弁当。ハンバーグ煮付け。
食べてまた休む。
好きな役者二人の訃報。
リカルド・モンタルバン14日に死去。88歳。
映画『スター・トレック/カーンの逆襲』の悪役カーンで知られる、
と報道にはあったが、50年代にはMGMの主役スターとして
活躍していた大スターだったのだ。そのスターがテレビシリーズ
『宇宙大作戦』で15話『宇宙の帝王』に優生人間“カン”役で
登場。
はっきり言ってB級テレビシリーズとしてスタートした
『宇宙大作戦』の中では最大級の大物ゲストスターであり、
たとえて言えば『仮面ライダー』に萬屋錦之助が出演した
ようなものか。
彼の出演によって『宇宙大作戦』は一流テレビドラマとして
認められた、と言っていいのかもしれない。事実この出演は
伝説になり、2006年に米エミーマガジンが募集した
『テレビドラマ史上最もユニークなキャラクター』にも、
たった一話のゲスト出演ながら見事一位に選出されている。
82年の映画化の際、プロデューサーと監督がこのエピソードの
後日談を作ろうと思ったのもむべなるかな。

ちなみに、この映画版でのモンタルバンの出演料は彼クラスの
スターとしては破格に安い10万ドルだったそうで、それでも
引き受けたのは、この役で“過去のスター”から、テレビでの
一線級スターに転身を遂げられた、彼にとっても思い出深い
キャリアだったからだろう。事実、70年代になって彼は
小人俳優エルヴェ・ビルシェーズ(『007/黄金銃を持つ男』
のC・リーの従者、ニックナック)と共演でテレビシリーズ
『ファンタジー・アイランド』に6年間主演し、国民的人気を
得る。アメリカ人がモンタルバンの名を聞いて、
まずイメージするのはこの番組なのだそうである。

そして、『ファンタジー・アイランド』放映中に出演した
『カーンの逆襲』での彼は見事な演技で圧倒的な存在感を示し、
いまだにこの作品を映画版スタトレの最高傑作と位置づける
ファンも多い(私もその一人)。
その他、『猿の惑星』シリーズでは人類でただ一人、猿に同情を
寄せた男・アルマンドを演じて人気を博し、『刑事コロンボ』の
『闘牛士の栄光』では誇り高い元・闘牛士モントーヤ役でこれまた
強い印象を残し、『スパイキッズ』シリーズでもお爺ちゃん役で
人気だった(この当時すでに車椅子生活だったのを、最新CGで
復活させたそうである)。

メキシコ出身。40年代、50年代にハリウッドのラテンブーム
で売り出し、ミュージカル映画や、水着の女王エスター・
ウィリアムズのお相手などをやっていた。
やがてそのブームが下火になったときには仕事を選ばず、
エキゾチックな容貌を武器にインディアンから日本人(!)まで
ありとあらゆる人種を演じた。
カンは東洋人をイメージさせる役であり、そんな多彩な人種を
演じた一環だったのだろう。仕事を選ばなかった彼のおかげで、
われわれSFファンは素晴らしい作品を得た。合掌。

若い頃のブロマイドを見ると上半身裸で肉体美を披露して
いるものが多い。さぞ女性ファンたちをメロメロにしたと
思われるが、『カーンの逆襲』での筋肉も、とても60代とは
思えず、特殊メイクかと思っていたが、スポック役の
レナード・ニモイによると、あれはまったく本人の肉体だという。
ホントかな?

それから、日付ではこっちが先になるが、英俳優パトリック・
マクグーハン13日に死去、80歳。
パトリックといいマクといい、露骨にアイルランド出身者を
主張している名前である。『秘密情報員ジョン・ドレイク』と
『プリズナーNo.6』以外は悪役ばかりだったような印象が
残る。『アルカトラズからの脱出』の刑務所長とか、
『恐竜伝説ベイビー』での、自分の名誉欲のために子恐竜を
親元からさらおうとする博士とか、『ブレイブハート』の残虐な
イングランド王エドワード一世とか。まあ、悪役が似あう顔ではあった。

子供の頃見た『プリズナーNo.6』は異様な印象を残すドラマで、
全くその内容が理解できなかった記憶がある。
しかし、村に閉じこめられ、その中からどうしても出られない
というシチュエーションは強烈なイメージで、いくつものエピゴーネン
を輩出した。『おそ松くん』にもそんな話があったし、NHKの
少年ドラマシリーズでも『あなたの町』という、若者二人が町から
出られないという不条理ドラマ(二見忠男や、ウルトラマンエースの
星光子が出ていた)があった。子供心に、あ、これは
『プリズナー』だ、とわかったものだった。

……思えば、60年代はイギリスでは社会保証制度が整備され、
高度福祉国家として世界に誇る実績をあげつつあった。しかし、
それは必然的に国民生活を規制することにつながり、ビートルズを
はじめとするロック音楽など、反体制文化が芽生え、若者に熱狂的
人気を博していた。『プリズナーNo.6』がカルト人気を得た
のは、その閉塞感を象徴したドラマだったからであり、
その不条理感は後の『モンティ・パイソン』にも相通じる
ものがあったように思う。そういう意味ではマクグーハンは、
60年代の申し子、と言え、その後の彼のキャラクターが
悪役の方に傾いたのも無理なかったのかもしれない。

『闘牛士の栄光』のリカルド・モンタルバン、『祝砲の挽歌』の
マクグーハンと、コロンボの犯人役の訃報が続いたが、
コロンボでの、モンタルバンの吹き替えの庄司永健、
マクグーハンの佐野浅夫はちょっとイメージが、とテレビの前で
思ったものだった。それまでモンタルバンは森山周一郎(カン)や
大木民夫(カーン)と言った太い声系、マクグーハンが黒沢良
(ジョン・ドレイク)、小山田宗徳(プリズナー)というクール系
で吹き替えられていたので、庄司永健や佐野浅夫はちょっと人情味
が過ぎるなあ、という感じだったのだ。

3時、渋谷へ。『ベラミ』で内閣官房打ち合わせ。
体調不良で何にも用意できていなくて申し訳なし。
撮影の日取りのみ、ダンドリを変更。

終って事務所に寄り、少し整理。
そこらあたりから、体調急速に悪化。
テンションがどこかから漏れているんじゃないか、というくらい
低下する。以前、下血を経験した人間から、
「エネルギー全てが流れ出していく」
というその状態を表現されたか、一瞬、下血かと思ったくらいだった。

タクシーで帰宅(それでも、玄関にあった人体模型のうち一個を
自宅に持ってきた)、布団にもぐり込んで何も出来ず寝る。
ハッシーには悪いが今日の阿佐谷ロフトは休むことにする。

10時ころ、起床。腹が減ったので、とにかく何か食わなくてはと
サントクに行くと、ちょうど値引きの時間帯。
ハマグリと油揚、大根の煮物(歯舞昆布醤油で煮る。旨し)と、
イワシの塩焼きをぺろりと平らげる他、鰹の手こね寿司も少量だが
作ってこれも食べる。
「鼻風邪は恐ろしい程飯を食い」
というやつか?
食べながら安田講堂争議のテレビドラマを見るが面白くなし、
またベッドにもぐり込み、ひたすらに恐縮したまま眠る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa