裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

日曜日

夏コミ就職読本

「ぼく、同人誌業界に就職したいんです」
「それは無職ということだ」

※コミックマーケット74

朝6時起床、まだアルコール残っている。
ダルイヨー、とぼやきながら起きだして、シャワー浴び、
食欲ないので買った菓子パン類放棄して、昨日の昼飯に
作ってもらって三切れ残っていたローストビーフサンドを
かじって、コーヒー牛乳飲んで。
天候は曇り、涼しいのが何より幸い。

持って行くものを準備して、鞄類は忘れていくとイカンから、と
紙袋に暑さ対策グッズなど入れる。
おかげで鞄に入れておいたチケット類などを丸々忘れていって
しまった。まあ、今日の混雑では売ることもままならなかったと思うが。

7時半、家を出て、コンビニで買い物をし、ひとつブツを
編集部に送って、しかるのち、タクシーでお台場ビッグサイト。
運転手さんがビッグサイトを知らないので、高速の乗り口を
指示、ぼんやりしていたら地下道をくぐるところで
ミスされて、地上をうろつくことになった。
まあ、こっちのムッとした表情を察したか、メーター止めて
くれたのでソンはしなかったが。
メーター通りだったら、今回、芝公園入り口のところで
人身事故があったので一時はかなりの渋滞になり、凄いことに
なったと思う。あ、そう言えば運搬中のマッハ号とすれ違った(写真)。

持ち物検査もサークル入場者にはなく、すんなり。
西館前のエスカレーター乗り場には塀が立てられていた。
記念写真撮っているようなバカもおらず、東館への連絡通路の
エスカレーターは監視付きで動いており、これはさしたる
混乱もなかろうと安心。
とはいえ、外は肌寒いくらいの気温なのに、会場に入ったとたん
ムッと熱気が体中にまとわりつく暑さだったのに驚く。
ここで毎回、誰か知り合いに挨拶されるのが恒例だが、
今回はこんとうじさんたち畸人研究会の人に会った。
単行本化のお礼も言われる。恐縮也。

思い違いで“西れ”だと思い込み、探したがブースがなく、
案内のコーナーでお姉ちゃんに“れはどこですか”と訪ねたが
要領を得ず、使えねえな、と心中毒づくが、こっちのカン違いで
東文研のブースは“西つ”だった。すまん、と心中あやまっておく
(去年が“れ”だったんだな)。

行ってみるとすでにオノ&マド、助ちゃん来て開店準備おさおさ
怠りなし。オノに暑中見舞と献呈用同人誌渡され、知り合いのところを
回る。この島はなんと、島角の海側がなをきのパチモン大王、
駅側が私の東文研。唐沢にはさまれている。後から来たファンが
「オセロだったら島全部唐沢になります」
と言っていた。なをきと新刊交換。
「Bの墓碑銘は出ないの?」
と訊かれる。
「出したいんだけどねえ。マニアックすぎて売れねえんだよ」
「オモシロイのにねえ。最近のオタクはダメだねえ」
とか会話。

山本会長のブースに強制的に『山本ひろし物語』10枚委託。
と学会にも委託。眠田さんからアニメーター協会への入会を
半ば強制される。
「特典は?」
「アニドウの販売物が割引で買える」
「うーん(笑)」

ロトさんのところ、本郷さんのところ、金成さんのところなどなど
あちこちいろいろと十ヶ所以上挨拶回り。某会はしら〜さんと
芝崎さん、IPPANさんが神妙な顔。隣が名高い悪名サークル
なので、うかつに声をあげられないのだという。
談之助のところで『本家立川流』新刊受け取る。手伝いの鯉朝さんに
同人誌進呈。
「代金お支払いしますよ」
「いや、こないだお中元にカツオをいただいたから」
「やった、カツオで同人誌を釣った!」
聞いてた談之助が
「どっちに価値があるのかねえ」
と。あと、東浩紀がいるらしいがあまりに太ってわからない、
岡田斗司夫の脂肪があっちの皮下にテレポートされたのではないか、
というような話もあり。

タマこと助くんがさすがに力仕事たのもしく
マドの指揮のもと大奮闘。もやしもやってきて、何故か白手袋を
したまま、やりにくそうにチラシ折り込みをしてくれていた。
とにかく暑い。新田五郎さんなど顔中を汗玉にしている。
米澤さんと最後に会ったコミケも暑かったな、としみじみ。
冷凍庫で凍らせた保冷剤をタオルにくるんで首に巻く。
やがて開場、いつもは評論はエロと込ミで、まず最初にエロ系
目当てのファンがどどっとなだれ込み、それからゆっくりと
評論系の買い手が、という段取りなのだが、今回は完全に
西館は評論でまとめられているので、非常に静か、というか
おとなしめというか、平均年齢高めというか。
最初から新刊&DVD二枚セットで買ってくださったお客さんで、
3時半の撤収まで、殺到ということはないが、客がひっきりなしに続く。
10時から3時までの5時間、差し入れの氷結茶と塩レモン飴を
口にしただけで、メシも食えず、トイレにも立てず。
トイレに立たなかったのは、体の水分のほとんどを
呼び込みの発声で発散させてしまったからだと思われる。
金を受け取り、知り合い(笹木亜弓さん、美好沖野さん、寅さん他
マイミクのみなさん多々、担当編集のみなさん多々)に挨拶し、
お客と会話し、サインし、握手し、ということを休息なく5時間
続けてバテなかったのは開場直後に外の空気が流れ込んできて、
非常に涼しいコミケだったからだろう。
開場後は汗をほとんどかかなかった。

急遽、500円販売の予定だったシネマテーク本を700円に
した(装丁が豪華なので700円でもいけると踏んだ)ために
小銭の100円が足りなくなって往生。たまに、全額100円玉
で支払ってくれる女性がいたりするとオノが
「女神さまだあ!」
と叫ぶ。計算、受け取り、お釣り、DVDの解説文手渡し(パッキング
されてきたのでケース中にはさめない)などの繰り返しに頭がモーロー。
オノが助ちゃんに“解説文とって”というのを“あうあう”しか
言葉が出なかったときがあり、それ以降“あのアウアウアーを”と。

250部しか置いてなかった(あとはアンドナウの会が早々に
送り返してしまっていた)『奇想天外シネマテーク』誌は
すぐに完売、『少年マガジン記事傑作選』も3時ちょいと前には
コミケ売り予定分完売。あと、何しろ冊数が多くて、売っても
売ってもまだある、という感じなのが文サバ塾本だが、
これがコンスタントに売れていく。
去年の大晦日の冬コミに来て、
「この内容を実践したおかげでデビューできました!」
とお礼を言ってくれた人がいたが、同じ人が
「あれから、やはりこの本に書いてあるように企画を出して
みたら通って、連載とれました!」
と。なによりうれしい。また、
「自分は異業種ですが、しかしここに書いてあることは
全てのフリー職業にあてはまることで、大変参考になります!」
と言ってくれた人も。
バーバラと
「来年はこれは特別最新講義本を出すか」
と。いずれの本も表紙の私の写真がやたらカッコいい。
てっきり元亭主の大内さん(カメラマン)が撮ったのかと思ったら
バーバラ自身が撮ったものだとか。

女性ファンも多く来てサインや握手求められたし、
「テレビ見ました!」
と声をかけてくれるファンも多し(ただし、ほぼ全て『給与明細』。
みんな深夜族か)。
本日の傑作は、女装してきたファンにサイン求められて、
「お名前は? どういう字?」
と訊いたら、恥ずかしげに
「あ、本名プレイですね」
と言ったのと、弐千圓札が例によって多いが、それを
「オタク金」
と表現した人がいたこと。

今回のメインのマガジン本はビジュアル中心なので、
例年のように、バカ丁寧に熟読した後で買わずに去っていく
という人はあまりおらず。ただし一人、ふううん、アハハ、うひゃひゃ
と読みながら声をあげて喜び、
「なんで今の子供雑誌にはこういう記事がないのかね〜」
とこっちに声をかけたあとで、買わずに置いていったおじさんがおり、
思わず私とオノが声を揃えて
「買わないのかよ!」
と叫んだ一幕も。どのサークル参加者に聞いても、ああいうのは
心の中で“死ね!”と叫ぶというが、人間、視線では死なない。

これは撤収後だが、と学会の藤倉さんが、私宛に、お客さんが
ネタを持ってきてくれました、と写真とメモのコピーを手渡す。
「唐沢さんにぜひ、ということだそうです」
と。中を見るとVOW系のネタ。
「ほとんど背中合わせみたいな近さなんだから、直に手渡して
くれればいいのに」
と言ったら、
「いや、そう言ったんですけど“恐れ多いから”と」
と。うーむ。

3時、撤収作業を開始。いや、売れた売れた。
山本会長には委託したDVDの売り上げ(最初“こんなに売れるか
なあ?”と言っていたが完売だった模様)はギャラとして進呈。
とはいえ、今回はDVDも同人誌も9月のホラリオン用に
大目に刷っているので、大量の在庫が余る。
十箱以上をペリカンで送るのに時間がかかること。
撤収中に来てくれたお客さんにも何冊か同人誌を売る。
最後の最後にFKJさんが駆け込んできたが、梱包終ったとこだった
のであきらめてヨソに回ったが、紙袋の中にマガジン本一冊と
『山本ひろし物語』が一枚、あったので声をかけて呼び戻し、
売りつける。

とにかくも、恒例の盛夏のイベント、つつがなく終了。
撤収するぞーと、周囲に挨拶回りして外に出たら、何と雨。
しかもかなり大粒。
「これに今回は助けられたか」
と思う。さすがに終了まぎわでタクシーの列凄く、20分待ち。
渋谷まで二台に分乗していくが、高速がかなりの混み様。
運転手さんの進言に従い、一般道を通って、芝公園から高速に
乗ることにする。後続のオノにそう電話したら、
向うは逆に最初高速に乗って、高木町で降りたそうで、
「競争だ!」
と。運転手さんもそれを聞いて
「ああ、われわれと反対の判断だったんですね」
と、闘争心燃えてきたようである。

結局、渋谷の事務所前にはほぼ、同時に到着。
ただしメーターはワンメーター、オノたちの方が安かった。
冷蔵庫のラムネを抜いてとりあえずご苦労様。
事務所で金勘定。実は撤収時にオノが
「ちょっと今年はダメでしたねえ、売り上げ」
と落ち込んでいたのだったが、意外や、きちんと計算してみると
かなりの額に。エ? エ? と何度か計算しなおしたオノ、
「不思議だ……壁際のときより売れてる!」
と叫び、マド、私、芝崎くん、しら〜、助ちゃん、全員
歓声を上げて拍手。

概算より実質売り上げが多かったのは、文サバ本500円の
地道なチリツモがあったためだと思う。また、壁際の冬コミ
よりよかったのは、今回のメイン同人誌が、前回に比べ
一般度が高かったからであろう。
いくらオタクの祭典と言えど、マニアック過ぎるものは
あまりハケぬのである。
と、なるとまた『Bの墓碑銘(下)』の刊行が遅れそうな……。

IPPANさんから連絡、ちょっと気になる報告あるが、
くたびれきっていてその時点での私には判断能力なし。
決定権投げておく。

また、雨の中タクシー分乗で幡ヶ谷へ。
チャイナハウスで打ち上げ。雨のためにコミケ開場のペリカン便
が長蛇の列で遅れたというバーバラ一行も駆けつけ、
総勢15名で乾杯。
前菜の炙り鶏、いつにも増してジューシィで、その他豆苗炒め、
ナマコとアワビタケの炒め物、エビダンゴ、全て極めて滋味豊かで
オノとマドの顔がこれ以上ないくらいハッピーになり、
「いやあ、金と美味は人間を丸くするねえ」
とみんなワキアイアイ。
一番嬉しかったのはスッポンとシイタケの濃厚なスープ(写真)。
しら〜企画の私の本(楽工社発売?)の話も出る。

みみんあいさんがいらっしゃったので挨拶、そしたらなんと
今日はここにかつての『平田隆夫とセルスターズ』のメンバーが
集って食事するそうで、平田隆夫さんがいらっしゃる!
「いやあ、大ファンなんです!」
と握手求めると、向うも
「私も大ファンですよ!」
と、店に飾ってある私の著書をとって他のメンバーに解説を
始めたのに恐縮。

最後は平田さんのピアノであいさん歌が聴けて、何とも
ゴージャスな夜になった。
12時近くに解散、さすがに今日は二次会、という気力はなく
完全燃焼にて撤収。
この店に来る前に百均で傘を買っておいたのに、出たときは
あがっていた。
しら〜とタクシー相乗りで帰宅。

(開店前写真はマド撮影)

Copyright 2006 Shunichi Karasawa