裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

日曜日

♪戦う男、燃えるラマン〜

宇宙愛人ヤ〜マ〜ト〜。

※お芝居二本ハシゴ

今朝の夢。飲み屋で友人たちとワイワイやっている中に、
まったく知らない、神足裕司をものやわらかな表情にしたような
おっさんがいて、それが周囲の意見を全く無視するような
独善的意見を吐く。
例えば、アドリブ芝居のことを話しているのに、
「僕はセリフは台本通り一字一句そのまま派」
などとKY風に言う。
言ってることだけ言えば腹が立ちそうなものなのに、
表情がニコニコとしていて口調が優しいので、
普通に聞ける。
「なるほど、態度で話の内容なんてものはいくらも
印象が変わるものだな」
と思う。

朝8時半起床、というより起きても眠い。
久しぶりの晴天。
9時朝食(キウイ半顆、ミニプリンスメロン半分、コーンスープ)
摂り、入浴急いで。

本日は舞台2本ハシゴのため、仕事全く出来ないともう最初から。
それでも日記つけ、メールやりとりなど。
ウガンダ・トラ死去の報。
最後に見たのは『ヅラ刑事』のデブ刑事か。
彼のレコードが家に一枚ある。
映画『じゃりン子チエ』の主題歌である。
あれは仙台で買ったんだったっけ。

昼は弁当、シャケとアスパラ炒め。
ご飯にふりかけをかけて。
食べてすぐ、家を出る。
丸ノ内線で新宿、山手線で池袋、西武池袋線で江古田。
江古田という駅は行動範囲にはいっていないので、準急に乗って
練馬まで行ってしまうが、急いで引き返して何とか間に合う。

江古田ハウスなる会場、駅前商店街ビルの5階にある劇場だが
古いビルで、5階までエレベーターなしという今どき珍しい建物。
最初、案内をくれた原田明希子ちゃんが私の足を気づかって
「大丈夫でしょうか?」
と言ってくれたが、昔は同じくエレベーターのない荻窪・鈴屋ビル
5階のアニドウまで重いフィルムをかついで上り下りしていたのだよ、
と変な自慢をする。

会場ほぼ満席、前の席に相撲取りなみの巨漢が3名、並んで
座ったのに驚くが、別段観賞に差し支えはなし。
劇団『しずくまち♭』公演、『めいろあそび』。
明希子ちゃんは客演である。

近未来(らしい)設定。人類は月にも入植しいくつも町を
作っていたが、地球は核戦争で滅び、月の植民地の人間たちも
死に絶え、いまでは女王と呼ばれる女性と、その3人の妹、
侍女、そしてウサギの姿をした万能ロボットのみが、
なぜか不老不死のまま生き残り、楽しく遊んでばかりいた。
ある日女王は、人間たちが持っていた“心”を知りたくなり、
ウサギロボットに命じて地球から、ミイラ化した遺体のうち
四体の男性を月に運ばせ、細胞を復元して、一晩のみ、生き返らせる。
生き返らせられた男性たちは、最初記憶を全て失っているのに
とまどうが、やがて、迷路をたどるように、生前のこと、
そして人生最後の日になったあの日のことを思い出してくる。
妹たちは遊びのつもりで喜んで彼らの記憶をよみがえらせるが、
姉の女王のみは、次第に人間の感情を取り戻していき……。

明希子ちゃんは今回は完全に狂言回し役で助演であり、
ちょっと私としては不満あり。しかし、男優さんたちがいずれも
達者で(特に、終盤でゲイであることをカミングアウトする
役の男性役者は、ホンモノではないかと疑いたくなるくらいのリアルな
二丁目演技だった)、飽きずに見ていられた。
あと、生ハープ演奏での伴奏、これが絶品。

見終わって明希子ちゃんに挨拶、池袋に行って、雑用ひとつ、
それから小腹が空いたので、松屋で麻婆カレー。
思った通りの味。まあ490円なら食ってもいい。

しばらく喫茶店で時間つぶして(最近見かけない純喫茶)、
講談社現代新書『ユダヤ人最後の楽園――ワイマール共和国の光と影』
(大澤武夫)読む。題材は興味あるが、内容はいまいちインパクトに
欠けるというか、当時活躍していたユダヤ系文化人、科学者、
政治家たちの名前の羅列に終わっているような気がする。

著者のような研究家にとっては今更説明するまでもない、
常識以前のことなのだろうが、新書は基本的に素人がトッカカリと
して手に取るためのものである。大戦のはざまに徒花のように咲いた
ワイマール文化がいかに華やかかつ自由なものであり、
当時のベルリンが文学、演劇、絵画、建築、科学、思想などの
各分野の才能をはぐくんだ“場”たりえていたか、ということを
まず、読者にイメージさせないと。それらを支えていたユダヤ人たちの
力というものもイメージできないのではないか。

5時半、シアターグリーンに行き、トツゲキ倶楽部公演
『ゴドーを待ちながらを待ちながら』。受付に龍場舞ちゃん、
助くんなど。並んでいたら乾ちゃんたちも来た。
あと、菊ちゃん、かずえちゃん、じゅんじゅんなどルナ関係、
開田さん夫妻など。

毎回いろんな仕掛けのあるトツゲキの芝居、今回は“舞台公演の
稽古場”という設定で、何と私も出演経験のあるシアターグリーン
の『ボックスINボックス』に、ほとんどセットを作らず、
三段ほどの台と、緑色のパンチカーペットを敷いたのみ。
舞台の上手に出演者用のトイレがあるのだが、それまでをも芝居に
使ってしまうという異色の工夫。

人気劇作家・井上ひろしがベケットの名作不条理劇『ゴドーを
待ちながら』をミュージカル化する舞台に、元アイドル、自分への
メリットしか考えない演技派女優、家族に隠れて芝居をやっている
老役者など、いろいろワケアリのキャストが集められ、稽古を重ねている。
だが、遅筆で有名な井上は、初日二日前になってもまだ、脚本を
あげてこない。イラだつ役者たち、制作スタッフ、演出家。
若手スタッフに、井上のマンションに原稿を取りに行かせるが
この男は信じられないくらいC調で、まったく頼りにならない。
役者たちの話の中で、井上という劇作家の悪い噂ばかりが広まり、
疑心暗鬼になった役者たちは、こうなったらベケットの芝居をそのまま
やろう、と言い出す。だが、難問があった。ベケットの原作の
登場人物は5人、だが、集められた役者は6人。原作のままに
やるとなると、誰かを外さねばならない……。

トツゲキの芝居は役者の使い方が上手いが、今回もベテランの
中野順二(大宮敏光に雰囲気が似ている)をうまく使っており、
また市森正洋はこれまでのトツゲキの芝居の中でもベストアクト。
イラつき、不安になり、パニックしながら芝居をするという芝居が
実にいい。さらに、どう考えたって素だろう、としか思えない
(本人は“違うって。あたしにゃあたしの演技プランがきちーんと
あんだから)と言っていたがおかおゆきが最高。……そしてそして、
これまた場さらいの名人、カウンタックーズの久保広宣が最高に
笑えた。

で、なにしろ舞台役者たちの裏を描いた芝居なものだから、
観ているこっち側にイタタタ、と思えることあり、苦笑する部分
あり。逆に“笑えない”部分あり。
前半はそういう意味で、逆にリアルすぎて芝居の中に入って
いけない部分あり、また中盤に、ストーリィの進行が止まって
ダレる部分あり。だが、終盤の、みんなのテンションが高まって
以降の盛り上がりは、これぞ演劇、といった熱さがあった。
乾ちゃんの知り合いは、“これまでのトツゲキの芝居のうち最高”
という評価だったそうな。うむ、内部を知らない人間の方が
素直に楽しめるかもしれないな。

終わって松ちゃんはじめみんなに挨拶。
松ちゃんには、信じられないあのセリフ量のことを言う。
ここの舞台には来年客演が決まっているが、さてどういう役が
ふられるか。

開田夫妻、乾きょん、かずえ、菊ちゃん、じゅんじゅんと
キリンビアホール。女性陣がみんな、ビールも肴も、
おいしそうに食べること。オジサンになっての楽しみは、
若い子たちがものをおいしそうに食べるのを見ること、であろう。
なんでそんなことが楽しくて仕方ないのかわからないが。

トンデモ本大賞の打ち合わせなどもいろいろして、
10時半解散。ハッシー、菊ちゃんとラーメン屋に寄って、
ニンニク絞りこんだラーメン啜って、丸ノ内線で帰宅。
くたびれてメールも確認せずにベッドにもぐりこむ。
観劇というのはエネルギー使うのだ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa