裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

金曜日

エキストラ・テレストリアル

「はーい、映画『ET』の仕出し出演の方、こっち集合でーす」(助監督)

※『幽霊vs.宇宙人』試写 『クイック・ジャパン』アンケート 『別冊宝島』赤入れ

妙に寝苦しく、何度も目を覚ます。
いろいろ見た夢の一。なをきと一緒にテレビ出演することになり、
広い殺風景な控室で待たされる。
そこに差し入れで置いてあったヨーグルトを食べる。
これが、昔のヨーグルトのような、背の低い牛乳瓶みたいな
容器に入っているやつ。
食べると、ヨーグルトの中に半熟の卵が入っていて、
これが濃厚でかつ適度な酸味と甘味があり、実に美味い。
夢の中の食べ物の味が記憶に残るのは滅多にないことだが、
この鶏卵ヨーグルトは、目が覚めてもまだ、舌に味が残っていた。

10時起床。
朝はソバ粉焼き、コーンスープ、コーヒー。
メールやりとり数通。
書評用読書、翻訳者が1969年生まれで韓国の大学の日本語研究所
に勤める女性だというが、微妙に日本語の使い方が日本人ぽくない
のは、あちら(韓国)での暮しが長かったせいだろうか。

昼はジャムパン一個ですます。
日記つけていたら出る時間ギリギリになった。
地下鉄で赤坂見附、乗り換えて京橋。
片倉キャロン内映画美学校試写室で清水崇・豊島圭介監督
『幽霊vs.宇宙人』試写。
片倉キャロン、行くたびにそろそろ文化遺産にならんかと思う。

試写状を忘れていったのだが、映画会社の女の子たちが
「いつも文章読ませていただいてます」
と、すぐ通してくれたのは有りがたし。
あえて前情報を入れないようにして出かけたので、
『幽霊vs.宇宙人』という映画でなく、
『ロックハンター伊右衛もん』(清水崇)と『略奪愛』(豊島圭介)
の二本立てオムニバス映画だと、試写用パンフ見て初めて知って
驚いた(ビデオシリーズのことは知っていたけどさ)。
プロデューサーが叶井俊太郎だから、方向性はあきらか。

ハリセンボンの二人によるショートコントを前中後に挟んで、
最初の『ロックハンター伊右衛門』は『四谷怪談』の
後日談、というより現代版。ヤクザあがりのサラリーマンが
義理の父親である上司を殺す。そのことを知らない妻との間に
子供も産まれるが、ある日、ライバル企業の娘に一目ぼれされて、
妻を毒殺することを強要……という話。
冗談映像満載で、何だか中野貴雄の映画みたいだな、と思っていたら、
ホントに中野貴雄がヤクザの親分役で出ていた。
主人公の田宮竜二役の山中崇、ちょっとタマ伸也さんに似ていた。

二本目の『略奪愛』の方はそれに比べるとちょっとまじめ、と
いった感じで、婚約者がいながら、ある日街(中野ブロードウェイ)
で拾った、いかにも肉感的な身体を持った若い女性に魅かれる作曲家。
だがその女は宇宙人で、近づいてくる男性の精気を全て吸い取って
ミイラにしてしまう女だった。男は恐怖するが、しかし、
命を吸い取られるとわかっていてもなお、彼女の魅力に抗すること
の出来ない自分に悩む。その女の秘密に気がついた婚約者は……で、
最初の、婚約者とその母親の会話が露骨な青森弁で(婚約者を演じる
仲坪由紀子は青森出身)下にテロップが出るが、これが伏線に
なっていたのには笑った。キーとなる吸精女役は河崎実の
トンデモホラーシリーズ『あっ! 生命線が切れている』に主演した
山本彩乃で、ホットパンツ姿が、なるほどなかなか男にとっては
“たまらん”タイプかも(しかしこういう映画はみんなぐるりと
つながっちゃうねえ)。

ひさびさにバカ映画見てスカッとした気分。
地下鉄で表参道まで行き、腹が減ったので元・紀ノ国屋前の
立ち食いそば・矢萩で冷したぬきを。驚いたのは、
恐ろしくシンプルと言えば言葉がいいが具が貧弱になっていた
ことで、ノリもなければナルトもキュウリもなし、
ただソバの上に揚玉がパラリ、ワカメがちょっぴりというだけ。
いやしくもタヌキそばというからには揚玉でソバの上を覆って
欲しいものだが。

事務所までタクシー。
オノ、なぜか暖房をたかず、外套を着込んで仕事していた。
NHKのYくんとの打ち合せ、月内ではスリ合せられず、
来月頭に、とのこと。
『クイック・ジャパン』のアンケート(めんどくさいので
出さずにすまそうとしていたら、こないだ電話で是非と再依頼
された)を出す。寒くて、とても長居できたものに非ず。
古いマンションの欠点。
出て、バスで帰宅。今回は最後尾の席に座り、無事、読書できる。
高名な哲学教授の書いたものだが、市民社会の形成について
純粋な理想論を高邁に唱えていて、どうにも中学生の夢物語を
聞いているような気分。実用性ゼロ。

帰宅、着替えていろいろ雑用、宝島社のムックのゲラが昨日、
届いていたものをゲラチェック。pdfで送られたものは
直接赤入れが出来ないので面倒である。
字数行数、狂わせないようにしてチェック入れ。

寒い。仕事場ほどではないがパソコン前に座っていても、
夜の寒気がしみじみ伝わってくる。
夜食準備、10時ころ。サントクで買ったアナゴの天ぷらを
刻んで、ゴボウと一緒に出汁で煮て、上げてからその出汁で
豆腐を10分ほど煮る。最後にまたアナゴとゴボウを加え
さっと熱して、小鉢へ。辛めに煮たのがよかったか、なかなかの
出来の一品。
あとはクリームコロッケなど。

DVDで、『薔薇の名前』を、監督ジャン・ジャック・アノーの
音声コメンタリーで観る。三分の一は
「ここに写っているのは全部セット」
「この小道具類も全部新たに作った」
で占められているコメンタリーだったが、とはいえ興味深い。
主役のショーン・コネリーは当時キャリアの最低迷期で、
どの映画会社も彼を使うなら金は出さんと言い(確かにその
あたり数年間、ロクな作品に出ていない)、マネージャーの
強引なオシでオーディションを受けて一発で決定した、のだとか。

ベルナール・ギー役のフランク・マーリー・エイブラハムに
対するウラミをダイレクトに語っているのも面白い。
『アマデウス』でアカデミー賞をとったばかりのエイブラハム
は無茶苦茶に態度をでかくしていて、
「いままでさんざ(無名俳優ということで)軽く扱われてきた、
だからこれからは逆に監督連中を同じように扱ってやる」
と公言し、まだアカデミー賞をとっていないコネリーを下に見て
(エイブラハムの受賞は84年、コネリーが『アンタッチャブル』で
受賞したのは87年)、彼より先にはセットに入らないと主張したとか。
アノー曰く
「せまい業界だ。そういうことをやっていると話が広がって信用をなくし、
望むような役につくのは難しくなる。出られる作品は監督がいやいや
ながら出演させるような映画だ。いい作品には出られずその俳優は
落ちぶれていく」
……確かに(好きな俳優だけに残念だが)エイブラハムの
出演歴にはその後、パッとしたものがほとんどない。

そして、最後にハリウッドのプロデューサーたちを
「ポリティカル・コレクトな発言ではないが」
と言いつつも絶賛し、本当に好きなように撮らせてくれた、と言う。
「長いと言われるときはその通りで、でも編集は任されるから、
私の映画は全部ディレクターズカットだ。
最近は特別版などがあとから出されてよくトラブルが起きる。
私の映画は私の望む形にできるので、そんな問題はない」
……これって、こないだ出たDVDボックスに3つもバージョンが
収録されていた“あの”カルト監督へのイヤミだよなあ、どう
考えても。

発泡酒(最近はビールよりこっちの方がうまく感じる)小缶1本、
日本酒一合、ホッピー三バイ。1時過ぎ、ベッド読書しながら就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa