裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

木曜日

Mr.オクレの男になりたい

やあねえ、あんな男が好みなの?(二丁目風に)

※アスペクト打ち合せ 朝日ゲラもどし

朝10時半まで、布団の中で二日酔いに悶々。
母が札幌行きでかえってよかった。
起き出して入浴、さまでひどい状態ではないが、
逆に長引く。

朝食はソバ粉焼き。
甥で現在北海道でトマト農家をやっている豪之助くん
http://www.athenefarm.com/souryou.html
から送られたソバ粉を水で溶き、オリーブオイルをちょいと垂らし、
塩を少し振り込んで、フライパンでクレープより厚めに焼く。
焼けたら長野のニンニク味噌
http://www.logos.co.jp/shopsite/food/ogawamura/bin/item20.html
を塗り、万能ネギのみじん切りをたっぷり盛り、
二つ折りにして食べる。
あとコンソメスープ缶をあけ、タモギタケを具にしたもの、
それにコーヒー。

プロント・プロントのコラム一本、丸々書き直す。
前に日記に書いたように、スポンサーとのからみで一本、
差し替えを決定したが、差し替えた原稿のネタが、以前書いた
ものとダブっていた。面倒くさいこと。
しかし、案外新ネタはスラリと書ける。

日記つけ、いろいろ雑用。
NHKのYくんと、番組制作の打ち合せ日取り合せなど。
寒いこと。起きるのが遅かったのであっという間に
出る時間になる。
新聞を郵便受けからとって出かけ、新宿行きのバス車中で読む。
駅でC&Cのゆでたまごカレー。

そこからタクシーで渋谷。
チャーリーハウス、もう取り壊し始めていた。てっきり、ビル全体の
取り壊しまで放っておかれると思っていたのだが、改装されて
別の店になるのか。再開発じゃなかったのか?

時間割にてアスペクトK瀬さんと。
年末に行った口述のテープ起こしから、構成と書き下ろし部分の
打ち合せ。そこでの雑談からも、いろいろキーワードが
拾える、とK瀬さん大喜び。
いっそキーワード集みたいにしてしまうか?
話はいろいろと業界の人物月旦にまで及び、長くなる。

事務所に出て、朝日新聞書評ゲラもどし。
テレ朝から電話、スパモニ、一月限定の出演だったが、
二月前半もお願いできないかと言ってくる。
オノと少し打ち合せ。

二日酔い、夕方まで尾を引く。
立川流の前座会に行きたかったがテンション上がらず。
日暮里まではちとこのテンションでは、と諦める。
ゲラもどしに担当K藤くんからのメール。
落語のCDのことが書いてあったのでちょっとサジェスチョン。

東急本店に寄って買い物し、渋谷駅まで歩いてバスで帰宅。
最前列に席をとってシマッタと思う。
この席は照明が暗くて本が読めないのである。
45分間ほど、無聊に苦しむ。

帰宅、部屋中冷えきっている。
シナリオ作家、放送作家の鳥海尽三氏、
肝臓がんのため死去。78歳。企画文芸部長として
タツノコ・プロの黄金時代を築いた人だったが、テレビアニメの
世界では『鉄腕アトム』からの参加……ということは
日本のテレビアニメの歴史と共に歩いてきた人だということ。
『ヤッターマン』も鳥海氏の作品だった。
なにもこんな騒動のさなかに世を去らなくとも。
ちなみに、タツノコ・プロの演出部には鳥海永行という人が
いるが、血のつながりはないらしい。鳥海という名字は
そんなにどこにでもあるという名ではないと思うが、
その姓を持つ二人が同じくアニメ業界の、同じプロダクションに
入社するというのは確率的には大変に珍しいことではないか。

『科学忍者隊ガッチャマン』の中盤以降の、異様とも言える
盛り上がりはまぎれもなく文芸部の鳥海尽三の手によるもの
だったろう。当時のアニメとしては異例なまでのシリアスな
展開と人間ドラマ、そして名台詞のつるべ打ち。
鳥海尽三の最大のテレビアニメへの貢献は、私見では、
いわゆる歌舞伎的な様式を取り入れた“ケレン”を全面に
押し出したことだろう。シリアスなだけでは作品は盛り上がらない。
ストーリィがシリアスであればあるほど、脚本・演出には
ケレンが求められる。ガッチャマン終盤や『新造人間キャシャーン』
などは、そのシリアスさとケレン味の融合が見事に結実した
結果だろうし、ケレンを中心に持ってきて作られた作品には
『ヤッターマン』『破裏拳ポリマー』があるだろう。
鳥海尽三が『ポリマー』について語った
「遠山の金さんの世界」
という表現は、まさにそこがよくわかってらっしゃる、という
台詞だったと思う。

ともあれ、『ガッチャマン』の終盤あたり、なをきと二人で
興奮の極みといった感じで見ていたあの時代もすでに遠く
なってしまった。ご冥福をお祈りする。

コンビニで買った週刊文春を読む。
こないだの国会中継での9・11陰謀論やUFO質問、
下村博文氏のオカルト予言者ハマリ、そしてオーラの泉の
江原啓之と、さながらトンデモ系ツッコミ特集の様相。
とはいいながら、巻末には見開きで『阿含の星まつり』の広告。
ここの桐山館長は“ノストラダムスの大予言にある恐怖の大王とは
私のことだ”と称した人物なのだが。

『宝島』の年末インタビュー、出来上がってきた原稿に赤いれ。
終わって、夕食の準備。油揚げ焼き、釜揚げ桜エビ、味噌漬け豚肉。
DVDでベンヤミン・クリステンセン監督の『魔女』(1921)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000FJMXPQ/karasawashyun-22
を観る。教育映画のように魔女の歴史解説から始まって、
中盤は中世の魔女の生活と魔女裁判の模様をドラマ仕立てで
見せ、ラストは魔女とは現代(1920年代)で言うヒステリー症状
なのではないか、と仮説を立てる。この時代の映画の常識を大きく
破った、スウェーデン映画の鬼才クリステンセンの異色作。

中盤は無声映画版『薔薇の名前』といった感じだが、
夫が病気になった裕福な鋳掛商の一家が、たまたまた物乞いに
来ていた老婆を魔女として告発し、捕らえさせる。
その老婆への拷問シーンなどが続き、ああ、魔女と疑われた
老人の悲惨ばなしなのか、と思って見ていると、その老婆はなんと
“はい、私は魔女です。ついでに、あの鋳掛商の一家もみんな魔女です”
と“自白”し、一家は全員捕らえられ一緒に処刑されてしまう、という
皮肉なオチがいい。で、その老婆役の女優が実は本当に悪魔を
信じていて……と第三部でドキュメンタリー調に解説が入り、
第二部のドラマの現代的(強迫観念での)解釈が示される。
ヒステリー患者の夢で、正装の紳士が寝室に忍び込んでくるのは
トッド・ブラウニングの『魔人ドラキュラ』(1931)の
原型になったのではないか、と思われる。
その他さまざまな拷問器具を実際に試してみたり、大胆にして破格の
構成と映像に度肝を抜かれた。第二部の悪魔たちの特殊メイクが印象的
(パッケージの悪魔の親玉は監督自身が演じている)。
中でも、魔女が悪魔の子を出産するシーンで、股間からゾロゾロ
這い出てくる異形の怪物どものグロテスクなこと!

ちなみに伴奏音楽は柳下美恵さん。
古鍵盤楽器による演奏は素晴らしいが、てっきり特典映像として
ウィリアム・バロウズのナレーション、ダニエル・ユメールの
音楽がついた1968年の短縮版が入っていると思っていたので
(だって5000円もするんだよ)、ちと残念。
海外版、買おうかなあ。
見終わって、前から考えていた小説の中のアイデアが急に形になる。
忘れないうちに急いでメモ。
どういう神様が降りてきてくれているのか、
場面が次々に浮かんできて、メモ取る手がもどかしいくらい。
なるほど、あの話はこうやればいいのか。

なんだかんだ、資料などを探したりして2時過ぎまで
起きていた。ホッピーを三杯。あまり飲まなかった。
ま、昨日が昨日だけに当然。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa