裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

月曜日

イケてる屍

イケメンはゾンビになってもいい男だわ〜!

※『スパモニ』初出演 『社会派くん』ゲラ 『向島キネマ撮影所』観劇

朝5時半、起床。
リビングは冷え切っている。
“厳冬暁闇、暖床ヲ蹴ッテ立ツ”などとつぶやきつつ、
風呂を入れて湯気の立つ熱いのに浸かる。
今朝から、ヒゲソリは5枚刃の“フュージョン5+1”にする。
“+1”ってのは、裏側に、細かいところ専用の刃がさらに
一枚、ついているのである。
おお、という剃り味だが、まだ使い方がいまいち慣れない。

メール確認して返事などいくつか。
朝食は、母の作ったホットドッグ一本とコーヒー。
着替えて、まだ暗い玄関に出る。
待っていたハイヤーに乗り込み(ハイヤーの運転手さんの規則
なのか、この寒い中、外に立って待ってるのが気の毒である)、
高速通って六本木まで。夜明け前の東京風景、美し。
これが見られるなら早起きも悪くない。

20分ほどでテレ朝着。
不夜城みたいなテレビ局も、まだ人気なく、迎えも出てないので、
張紙(出演者に控室の場所を教える張紙)の指示に従って4階へ。
行き違いになったディレクターのT氏と途中でハチ合わせた。

控室で少し雑談。
TBSの『ピンポン!』は昼時の番組なんで弁当やお菓子が常に
控室にたくさん置いてあるが、こっちはコーヒーとおにぎりくらい。
量ではTBSの勝ち。ただし、いただいたコーヒーが素晴らしく
おいしかった。味はテレ朝の勝ち。

やがて私と同じ新コメンテーターの沖幸子さん来る。
ビジネスウーマンらしく、マネージメントしている女性が
同じ黒服(制服なのかね)で二人もついてきた。
所属するナベプロのマネージャーさんと、沖さん自身の会社の
マネージャー。沖さんの名刺は写真入り。
典型的なビジネスウーマンという感じ。

その後で吉永さん、“いけねえよ、やっぱり寝坊しちゃったよ”
と言いながらスタジオ入り。こっちはいかにも作家の名刺という
感じ。中間が私か。

最初は緊張していたが、メイクして、雑談兼打ち合せをやっているうち
に、ずいぶん馴染んでくる。これなら楽に出来そうである。
やがてスタジオ入り。赤江珠緒アナ、小木逸平アナ他に挨拶。
番組開始前にオープニングのリハあり。
ピンポンに比べ、念入り。その分、本番ではコメンテーターの
比重が軽い。楽っちゃ楽だが、時間とって話せない欲求不満もある。
次回はもっと割り込もう(ニュースが突発的に入って、総体、時間が
オセオセだった)。いいトリビアも二つ三つ用意したのだが
どれも使えず。

しかし、気が楽なのはコメンテーター中、男は一人、しかも最年少と
いうのがポジションであること。最近これは滅多にないので。
吉永サンは楽屋とカメラ回ってないときは完全にオトコなのが面白い。
沖さんいい人で、
「これ、私にふられたらカラサワさんに回しますね」
などと、番組の進行に合わせた打ち合せ。

ビデオが流れているときのスタジオの雑談の方が面白かった。
ギャラリーがいないからホンネもポンポン出るし。
毎回見ているだろうに、通販の商品の月旦などしていて、
「これ、便利そう。買おうかしら」
「しかし、通販ってのは何でこう余計なものつけてくんのかねえ」
などと、まるで一般視聴者の家庭の会話である。
雑談で赤江アナを笑わせることが出来たので今日はよし(何が)。
2時間座りっぱなしなのはちょっと疲れるが、予想以上に
水にあいそうな番組だった。
来週の延長バージョンが本番かな。

ただ、問題は番組が終わってまだ10時ということである。
事務所に行っても、食事をするにも早いし、時間を持て余す。
ちょうど『社会派くん』の年末の対談のオコシが来たので、
それを改稿。送り返す。
資料をいくつか漁って、12時過ぎ、自宅に帰ることにする。
新宿西口行きのバスに乗り、参宮橋で降りて道楽でノリミソ
ラーメン。久しぶりである。

自宅で少し寝る。2時間ほどぐっすり。
美人キャリアウーマン(沖さんではない)と論争して論破する
夢を見た。

家を出て、中野までバス。そこから中央線でお茶の水、乗り換えで
総武線両国、シアターχ(カイ)なる劇場でにんげん座
2008年新春公演『向島キネマ撮影所』観劇。
このにんげん座というのは、浅草をテーマにした演劇のみを
上演している劇団だそうで、今回、梅田佳声先生が客演しているんである。
シアターχ、駅から4分、コア両国一階という至便な劇場である。
内装が木造というのもなかなか。
永六輔さんの姿も見かけたが、しかし入りは6分と、あまり
よくなし。

やがて開演。最初に佳声先生の活動弁士のナレーションが入り、
ローレル&ハーディの短編が上映され、そこから
芝居に入る。

昭和初期の浅草六区、映画館の前に並ぶお客さんの列。
そこに、一人の若い女性が走ってきて、割り込もうとする。
文句を言う客たち。しかし、その娘は、何者かに追われている
という。人情に厚い浅草っ子たちはそれは大変だと彼女に
客のふりをさせて追っ手をまこうとするが、後から追いかけて
きたのは悪人と思いきや、上品な身なりの紳士で、秋田から
夜行でやってきた、という。なにか事情がありそうだが、
ともあれ、客たちはその老紳士をごまかして関係ない方角に向かわせ、
空腹で倒れかけた娘に職を世話してやろうとする。

美央と名乗るその娘が訪れたのは向島キネマ撮影所だった。
撮影所では、監督の天笠はじめスタッフたちが、興業成績が
思わしくなく、このままでは倒産の危機だというので、
新企画に頭を悩ましていた。とても新しく人を雇い入れる
余裕はなかったが、美央の語るこれまでの生い立ちのあまりの
哀れさに、無給のお茶汲み娘としておいてやることにする。
監督助手の須田はそんな彼女に同情して寿司をおごってやるが、
彼女は、あの生い立ちは雇って欲しいあまりのデタラメだった
と打ち明ける。浅草オペラのレビューガールになりたくて
家出したこともあった、と美央は言う。

一方、大衆演劇の一座を率いる女座長・中村春代は、
東北での地方巡業で悪徳興行主にだまされ金を持ち逃げされて、
一座を解散せざるを得なくなり、お名残に隅田川堤にみんなで
花見に出かけるが、巡業からの帰りの夜汽車で一緒になった人物が、
話を聞いて同情し、撮影所の所長に口をきいて、
スクリーンテストを受けられることになる。
その人物とは、あの、美央を追って秋田から出てきた老人・大宮だった。
彼が紹介したのは偶然にも向島キネマ撮影所で、退勢挽回、乾坤一擲の
大作を制作するため、俳優を必要としていた天笠は、全員を合格させる。
しかし、流行作家・南野東六の大ヒット新聞小説をもとに、
作者本人が書いた台本はどうしようもない出来で、
しかも南野は尊大な性格で、映画に手を染めたのも、
女優を言いなりにできるかも、という期待からであり、それを
強要するようなタイプだった。
天笠も撮影技師の鍋島も、ほとんど撮る気をなくしていた。

撮影はダレ切っていたが、春代一座のがんばりで、なんとか
軌道に乗っていく。天笠監督も役者不足でカツラをかぶって出演するので、
メガホンは助手の須田にまかせられる。そして、美央が、昔のなじみの
浅草オペラのレビューガールを連れてきて参加する。
話はムチャクチャになって、南野は自分の脚本をバカにされた、と
怒って、映画化権は渡さないぞ、と言い捨てて帰ってしまうが、
須田は鍋島にキャメラを回し続けさせる。

そのとき、春代の一座の若手女優・節子は、美央の下げている
お守りと同じものを自分も持っていることに気づく。
それは、かつて自分の母が務めていた、秋田のお屋敷の主人に
母が貰ったものだった。母は、そこのご主人の子を身籠り、
奥様に申し訳なく、お屋敷を下がったのだった。
と、いうことは自分と美央とは母違いの姉妹で、美央はお嬢様?

そこに大宮が現れて、全てを説明する。
美央は父が亡くなったとき、自分に妹がいるということを聞き、
自分だけが遺産を継ぐこと、そして継ぐための条件には結婚が
必要であることを嫌がって、妹を探しに東京へ家出したのだった。
執事兼遺産管理人の大宮はそれを追ってきて、夜汽車で節子の
顔を見、美央にそっくりなことに驚き、彼女たちを助けたのである。
大宮は美央に、さきほどのレビューシーンでの美央の輝きが
素晴らしかった、と言い、自分は家のことばかりを考えてお嬢様の
真の幸せを考えていなかったと詫び、秋田へ帰ると告げる。
それを止めた美央は、
「家を継ぎます。だって、妹もみつかったし、結婚相手も決まった
んだもの」
と言う。驚くみんなに、美央は結婚相手として須田を紹介する。

美央は、屋敷の管理は大宮にまかせ、財産は映画の制作にあてる、と宣言。
須田は、さきほどのドタバタで、踊りとアクション、それに歌の
実演をミックスした、まったく新しいレビュー映画のアイデアがひらめき、
美央を主演にして大作映画を作成することを告げて、ハッピーエンド。

……おお、このように書くと、何か面白い話のようにみえる。
実は、このストーリィは、見終わったあと、私が頭の中で
何とか整理し、そのようにつなぎわせて(かなり補填、変更して)
再構成したストーリィなのである。
実際の舞台は、ぶつ切れのコントのつなぎ合わせ、とでもいった
感じのものであって、伏線もなければクライマックスもなし、
意味の全く通らない部分あり、あらすじにまるで関係ない部分あり、
唐突に歌謡タイムになったり、泣きが入ったりで、さっぱり話がつかめず、
また、役者の中に、どう見ても素人という人、大衆演劇的な客いじりを
する人なども混じって、観ているのがつらくなる一幕もあった。
昭和初期に時代設定をしていながら、考証もいいかげんだし、
ムードも出ているわけではない。
改めて、自分の知り合いの劇団の芝居は、あぁルナにしろ
SUPERGRAPPLERにしろアーバンフォレストにしろ、面白いんだなあ、
と認識を新たにした。

おまけに長い(休息入れて3時間。受付で終演時間を聞いて、
「ええーっ、そんなに長いの?」と言っているおじさんがいた)。
お客にもお年寄りが多いのだし、若い人にはなおさら、もう少し
コンパクトにする必要があるだろう。いや、必要って、上記の
ストーリィでなんでそんなに長くなるか。あぁルナだったら
半分の時間で笑いを三倍には出来る。
何人か、役者に面白そうな人もいたが(天笠役の市川源とか)、
まず、佳声先生の語りくらいが値打ちというのが、悪いが正直な
ところである。いろいろ勉強にはなったが。

その佳声先生、声だけで最後まで姿を見せず。
後で聞いたら、正月三が日が帝国ホテルでの仕事、間一日おいて
5日からこの舞台で、体調を崩し、マチネだけの出演になって
いたのだとか。声は録音らしい。
かえってよかったかもしれない。
寒風の中、新宿までJR。そこからタクシー。
サントクで夜食の材料を買い込み、カツ煮とチャーハンを
作って、昭和戦後史関係の資料ビデオ見つつ、食べる。
缶ビール小一本、日本酒一・五合。ホッピー二ハイ。
昼寝の影響全くなく、1時就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa