裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

木曜日

メイド魔道

大五郎、父はこれよりアキバでメイド魔道を往くぞ
                    (拝一刀・談)

ずいぶん寝たような気がするが、あまり疲れがとれていないのは何故か。マクラが合わないのか?

9時起床、連続で9時半に朝食を延ばす。インスタントのクノールスープ(みたいなの)、バナナにキウイ、イチジク。日記つけながら、代官山エド・エドに予約。

メール数通、金沢旅行関係。能登空港からさんなみまでの交通手段は“恋路交通”というところのタクシーを使ってください、とメトロン星人さんから。恋路交通とは凄い名前だ。

12時、家を出てタクシーで代官山。予約時間の半にきっちり到着。S先生にやってもらう。3時入りだから、終ってどこかで昼飯食って事務所に言って楽勝、と思っていたら途中でオノから電話、2時入りなので昼食はこっちで用意しておきますから食べないで来てください、とのこと。どうもポカが多いな。

1時10分くらいにカット終わり、出てタクシー。渋谷事務所の前でオノを拾ってそのまま、東京タワー下の芝スタジオ。以前、『コンテンツファンド』で毎回使っていたスタジオである。懐かしい。

楽屋に弁当が用意されていたのでそれを使わせてもらう(鮭塩焼き弁当)。モバイルでメールチェック。ポケットのI井くんから、曽我部和恭さん追悼に何の曲をかけたらいいだろうかとの問合せ。一般には『破裏拳ポリマー』でしょう、と答えておいたら“一般的なんですか”と。いや、それ言ったら一般には曽我部和恭って名前はまず通らないだろうし。

カメリハでスタジオに入る。司会のキャイ〜ンと熊田曜子さんに挨拶。天野さんに“『花まる』のK川Pがよろしくと言ってました”と言われる。彼らのリハ見ると、台本がほとんど入っていない模様。私の部分も、ざざっと立ち位置だけ決めておしまい。

メイクをして、衣装つけて。衣装はシャツの上に着物、袴。それに帽子だと、まさに金田一耕助そのまま。足袋は私の足の形状に合わせたやつが家にあったがK子が探すのを面倒くさがったので、靴でいいでしょう、ということになる。これも金田一風である。

弁士(解説)担当の山崎バニラさんが楽屋に挨拶に来る。
「あ、大正琴の番組、ファンでしたので」
と言う。まったく、初めて見たときは仰天したものである。それで目が離せなくなった。それにしても、きちんと私のようなもののところにも挨拶に来るこの気配りは見習わなくては。

で、扮装整えて再度スタジオ入り。熊田曜子、さすがに衣装つけると映える。間近でグラビアアイドルを見るというのはわれわれにとっては得難い経験だが、しかし何か異生物みたいである。いや、『一眼国』ではないがここでは私が異生物か。天野がいろいろ彼女をいじって、
「なんでクマダにドラマの仕事がこないかわかった」
とか言っている。われわれ異世界人にはこれができない。

ここで私は最終リハだと思っていた。そのつもりで演技していたら、どうも本番らしい、と途中でわかって、慌てる。とはいえ、こういうシチュエーションにももう、だいたい慣れた。河鍋暁斎画集(このアニメ『妖奇士〜あやかしあやし〜』のスタッフが参考にしたという)の中の妖怪を解説、熊田曜子ちゃんに
「先生の解説つきでこの番組を見てみたい」
と言われていい気分。

しかし、収録途中からどんどん、何故か気分が落ち込んでいく。外にはミジンも出さなかったが、何か“違う”のである。顔を外部につないでおくためにこういう仕事は大切だし、決してこういう仕事が嫌いではないけれども、けれども違う。
徳川夢声が、日記で観客の大喝采を受けながら
「いつからこうなってしまったのか」
と鬱になる記述をしていたのを読んで、そこが印象に残っているのだが、やはり金田一の扮装で喜々としていてはイカンのではないか? と思うのである。バラエティ人種という人たちに混じると、自分の異物ぶりが自覚できるというか、それで無理している自分が馬鹿に見えてくるというか。

そのうち、まさにその直前、楽屋で熊田曜子の
「バラエティに出て稼ぐということは身を削って稼ぐということ」
という発言をウィキペディアで読んでいたのを思い出す。アア、これが身を削って稼ぐということなのだな、と改めて思い、キャイ〜ンも熊田曜子も、エラいなあ、と尊敬の目になったことであった。同じゲストの、書家の森大衛さんも確かそんなことを言っていた。

森さんはそのキャラクターが飄々としていて好感。
バニラさんはさすがに語りが堂に入っている。大正琴をつまびきながらも目線がずれないのもいい。
それにしても、たかだか土6のアニメ番組の番宣にしては豪華な作りだなあ、と改めて思う。

終って6時。30分番組で4時間拘束、回し2時間。どれだけ使われるのか? 帰り、森さんのマネージャーから、彼の筆になる子連れ狼『冥府魔道』の字のデザインの和手拭をいただく。タクシーで新宿へ。某社と連絡とって、新刊にサインせねばならない。タクシーの中で欠伸連発。疲れたか? オノも私のがうつって欠伸、
「これはあれだな、ビール欠乏症だな」
と二人で話す。

店をどこにしようか、あまり心当たりもないので紀伊國屋地下の珈穂音にする。昼は食ったことがあるが、ここで飲むのは初めて。サンマ刺身、焼きサンマ、揚げ銀杏といった季節の旬のものに加えて焼きギョウザ、ビーフシチューなど大衆食堂的なものも。こういうので酒を飲むのが最近、好きになっている。

途中でKくん来て、60冊にサイン。書くのも大変だが、持ってきてまた持って帰るのも大変であろう。ときどき字体を変えたりしてオノ言うところの“アタリ”を作る。当たったからと言っていいことはないけれど。9時半くらいまで飲む。オゴってくれるかと思ったら割り勘だった。苦笑。こないだの対談で岡田さん曰く
「岡田や唐沢は偉くなったって言うけどねえ、どこの会社もオレたちを囲い込もうとかしないしねえ、その程度だよ」
まさに。いや、これでよろし。出版社におごるくらいにならないといかんのである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa